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積み上げろ、からあげタワー!

 神社の方向へと移動していき、次の目的地である屋台へとわたしは辿り着いた。

 何度も揚げすぎた結果、黒ずんでしまっている油の中をジュウジュウとそれらは揚げられている。

 その隣の油きりの上には、揚げられたそれ……から揚げがゴロゴロと置かれており、正面には味ごとに分かれてパッドに入れられていた。

 目的の屋台、からあげの帝王という名の屋台を見ていると10年来の付き合いである屋台のおばちゃんがわたしに気づいたようで手を振ってきた。

 なので、中学生たちがせっせと積み上げている後ろに待機しつつ、わたしはおばちゃんに声を掛ける。


「久しぶりです。元気でしたか?」

「元気よ元気! また今年も来れて良かったわぁ。それで、どうするの?」


 人の良い笑顔を向けると、わたしにそう尋ねてきた。

 ……要するに、詰め放題をするかどうか聞いているのだ。

 なので、わたしは300円を取り出し、宣言する。


「それじゃあ、300円をお願いします」

「はいよ。それじゃあ、落ちるまで積んでってね!」


 そう言って、わたしへとサイズが一番小さい紙カップを差し出してきた。

 ……ちなみにこの屋台では300円、500円、700円として小中大となっており、サイズ的に言うと紙カップジュースのSMLのカップとなっている。

 そしてわたしが選択したのはSサイズのカップ。


「あっ」

「はい、残念。良い感じに摘んだね!」

「くそー、あと少し積めたはずなのにー……!」


 積み間違え、中学生たちが積んでいた500円のからあげタワーは、頂点に乗せていたからあげがごろりと転がり……2,3個巻き込んでパッドの上に落ちてしまい、終了した。

 それを見ていたおばちゃんはタワーの支柱となる長めの竹串を一番上へと刺してあげて、左右の崩れそうになっているからあげを縫い付けるために小さい爪楊枝を刺してあげていた。

 積み上がったタワーは3個ほど落ちたとしても十分な高さがあるため、中学生たちは満足そうに立ち去って行った。

 ……そして、わたしの番となった。


「はいそれじゃあ、はじめてね」

「わかっています。……とりあえず初め、と言うよりも最後となるのは何にしようかなー?」


 そう呟きながら、各パッドを見ていく。

 基本的なからあげ粉で味付けされたプレーン、それに塩胡椒が振られた塩こしょう、激辛パウダーが混ぜ込まれた激辛、粉の種類が違うであろう醤油バター、ニンニクたっぷりきかせたニンニク味。

 ……とりあえず下に敷きやすい大きさの物にしよう。

 チラチラと視線を巡らせながら見ていくと……底に入れても問題が無さそうなサイズのからあげを発見した。

 ただし、ニンニクのパッドに。

 ニ、ニンニクかぁ……、味は好きだけど女性としてどうかと思う。


「……ま、仕方ないか」


 いざとなったら持ち帰れば良いんだし。

 覚悟を決めると、手に持っていた箸でからあげを摘むと……底へと置いた。

 その際、隙間を空けてしまっては元も子も無いのでキッチリ床にはめるように押し込んでいく。

 ……さあ、此処からが勝負だ。

 入れたからあげの大きさに合うようなサイズを見ていく中で、新しいからあげが揚がったようでゴロゴロとサイズがまちまちだけれど一口では食べきれ無い大きめのサイズの物がプレーンへと投入された。

 ジュウジュウ、パチパチと油の泡が弾けるのが見え、思わず入れそうになるけれど……必死に抑えた。

 我慢、ここは我慢……! 良くてカップの7分目まで入れてからやろう!

 そう心で思いながら、視線を巡らせ……細長いサイズのしょうゆバターを入れ、それに近いサイズの塩こしょうを入れて……余った箇所へと激辛を入れた。

 ……そして、揚げ立てのプレーンを入れることにする。


「さってと、どれから入れようか……って、速く入れたほうが良いわね」


 どれにしようか悩みすぎていたようだった。

 後ろで待っている学生の視線に気づいたわたしは素早く済ませつつ的確に行うことにする。

 丸に近い形をしたからあげを置くと、次に平たいタイプを横へと差し込んでいく。

 今は……1,2……5個ね。今までで自分の最高は9個だからせめて10個までは積まないと……!

 そんな妙な使命感を抱きながら、横に差し込み終えると今度は……って今乗せたら、もうカップは終わりね。じゃあ、此処からは落ちないように注意しながらしないと。

 次にどれを乗せるか注意しつつ、箸で揚げ立てのからあげ山を崩していくと平坦なサイズが顔を出したので、それを乗せる。

 そして、その上へと角ばっているけれどなるべく平たいサイズを乗せて行き……。

 プルプルと落ちそうになるのを注意しながら、12個目を乗せて箸で押さえながらおばちゃんへと差し出した。


「お、おばちゃん……。お願い」

「あんたまた多く積んだわねー。……はい、気をつけて食べてね!」


 長めの竹串をグサッと刺し、落ちそうになっている箇所へと少し小さい串を刺してわたしの挑戦は終了した。

 今回は、12個かぁ……。頑張ったわね。

 そう考えながら軽く挨拶をして、からあげ屋台から離れた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「さてと、それじゃあ……食べようかなっと」


 アーケードの営業が終了している店の段差を利用しハンカチを下にして座ると、からあげを食べることにした。

 ……ドネルケバブの次にからあげ、女性としてはカロリー気にしろってところだろうけど、今日だけは仕方ないってことで。

 そう自分に言い聞かせながら、落ちそうな辺りまで竹串を引き上げ……からあげ棒となった竹串を持ち上げる。

 指先にズシリと重い感触。その指先に感じる素晴らしい感触に興奮しながら、鼻先にからあげを近づけると……揚げ物の香りがした。

 思わずそのまま食べたくなるけれど、ちょっと待ったをかける。何故なら……。


「熱いだろうなぁ、きっと口に入れたら火傷するよね? それに、油もきっと凄いだろうし」


 でも、我慢出来なかった。

 気が付くとわたしはからあげに齧りついていた。


「熱っ、熱っ!!」


 歯で噛んだ瞬間、肉から熱い油と脂が染み出し……悶えた。

 けれどからあげは放り出さない。

 作った者への感謝を込めて、ほふほふと口の中で転がしながら熱を冷ましていく。

 はふはふ、ほふほふ、舌で転がし、からあげを口の中で冷ましていくと、段々と味が分かるようになってきた。

 プリプリとした鳥肉の食感、プレーン味であるからあげ粉特有の味わい、そして口の中に溢れ出る肉汁。

 その味わいを楽しみながら……咀嚼をし、呑み込めるほどとなったら……ゴクンと呑み込んだ。


「…………ふぅ」


 口の中のヒリヒリとした火傷の痛み、同時に軽く吸い込んだ空気に口の中が震える。

 だけど、美味しい……。家で作るからあげと違った味わいがたまらない。

 その味が口の中から消え去るよりも前に、続けてもう一個口へと入れる。……ただし、息を吹きかけて熱を冷まして。


「……うん、美味しい!」


 噛み締めるほどに溢れる脂、鳥肉独特の弾力のある食感。

 脂と共に染み出す鳥肉に染み込んだ味付け。

 その味を楽しみながら続けて2個目を食べると今度は別の味を楽しもうと竹串を中へと突き刺す。

 ……そして取れたのは、激辛だった。


「どれだけ辛かったっけ?」


 一年前、もしくは4ヶ月ほど前の出来事なので上手く思い出せない。

 なので激辛味を食べることにした。


「……ん、ちょっと冷めてて生温か――んんっ!?」


 生温かい味わいを噛み締めていると、プレーンに近い味……けれど、今までの味を塗り潰すかのような辛い味わいが口いっぱいに広がっていく。

 その辛さに体を震わせながら、目に涙を浮かべる。

 辛い、これは……辛い! 口の中に唐辛子の辛さが広がり、火傷した口の中を刺激が走る。

 速く……、速く呑み込まないと……!

 そう心で思いながら、わたしは激辛味を噛み締め……染み出す辛さを含んだ味わいに震えつつ、口の中で解けてきたそれを呑み込んだ。


「ふぅ、ふぅ……、続きを食べたいけど……口の中が辛すぎるわ……。とりあえず、甘い物でも飲んだほうが良いわね」


 呟きながら立ち上がると、浴衣の裾にポタリと水滴が当たった。

 これは……。


「汗、かいてたのね。1個であれだけ辛くて、汗だくになるって……半端無いわね」


 持っていたからあげのカップへと竹串を深く差し込み、持っていたビニール袋の中へと入れて別のハンカチで顔を拭うとわたしは立ち上がる。

 そして、飲み物を求めて歩き出した。

屋台グルメ満喫中。

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