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先ずはチェックで、はじめの一品!

 ぺたぺたとクロックスが地面を踏み締める中、わたしは夕暮れ時の道を歩く。

 空を見上げると茜色の空が紫色に染め上げられて行き、夜となっていくのが見える。

 その様子を見ながら、太陽光を浴びて熱くなっていたアスファルトを歩いていくと……道の先に人工の光が見えた。


「ああ、今年もお祭りが来たわ」


 楽しみに感じながら、わたしはそう言って祭り会場へと足を速く進ませる。

 カラコロと音が響き、足の親指と人差し指の付け根が痛む下駄とは違い、ある程度の速さが見込めるクロックスは良い感じとなっている。

 それを感じながら、わたしは祭り会場である通りへと辿り着いた。

 基本的にシャッター商店街となっているけれど、年に一度だけの祭りで賑やかとなっている場所。

 その商店街を見ながら、わたしは一度端から端を見て回るために歩き出した。


「……やっぱり、数年前から分かっていることだけど……年々屋台の数が減ってるなぁ……」


 何時もは車が行き交う道路が祭りの2日間は1キロほどの距離が歩行者天国となっており、その道をわたしは歩く。

 視線の先には、道路の両端――歩行者用の道との間に配置された屋台。

 わたあめや、米粉のクレープ、焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、ゲームソフト入りのくじ引きやエアガン入りのくじ引き。

 そんな屋台がチラホラとある中、何度も見かけるある屋台を見ながらわたしは呟いた。


「えーっと、何があったの? ミ○オンすくいとかの屋台があるのは何となく分かるけど、ハンドス○ナーの屋台がくじ引き系だけで5店舗近くあるんだけど? あと、電○ソーダも」


 あれって、面白い物なのかしらねぇ?

 道行く小学生や中学生の男の子たちが、真ん中に指をつけてグルグルと楽しそうに回す姿を見ながら、首を傾げたくなります。

 ……まあ、趣味はそれぞれって言うことだし、別に良いわね。

 そう思いながら、わたしは歩き続け……途中、度々行く屋台の小母ちゃんに軽く手を振りながら、また来ていることに楽しみを覚えながら何時ものようにこの祭りを執り行っている神社へと到着する。


「あらまぁ、境内の屋台の数が四分の一に縮小されてる……」


 あまりにも小さくなった境内の屋台の数に、わたしは過去に設置されていた屋台を思い出す。

 数年前から見かけなくなったタヌキを模ったエア遊具や、お化け屋敷だったハウスが何時の間にかマジックハウスに変わっていたこと……。

 そのマジックハウスも無くなり、遠的の缶落とし、射的・ダーツ・輪投げが多かった境内の屋台。

 それさえも少なくなって、今では玩具販売と輪投げ・射的ぐらいになっていた。


「やっぱ、後継者不足とか色々あるんだろうな」


 以前聞いた話を思い出しながら、参るために石の階段を上って軋む木製の階段を上り、賽銭箱に小銭……ご縁があるように5円玉を投入して、軽く手を合わせる。

 本当は二礼二拍手一礼だったかをしないといけないだろうけれど、良く分からないのにするべきじゃないと思う。

 氏子さんたちであろうお年寄りの男性たちの太鼓や笛の音を聞きながら、わたしは木製の階段を降りて神社の敷地から出る。

 そのとき、各町内の太鼓台が見え……各町内の様々な法被を羽織った青年団というかほぼ中年団が目に付いた。

 内、何名かがわたしの視線に気づき、学生時代の同級生がわたしに気づくと軽く手を振ってきたので振り替えした。

 だけど友人というわけではないので軽く手を振るだけ。向こうまで行って話をするつもりはない。


「さて、それじゃあ……はじめに何を食べようかなー」


 一番初めに食べる物を、わたしは考える。

 ……から揚げは食べたい。だけど、油が濃いから軽く何かを食べてからのほうが良いはず。

 だったら、脂を取っ払って……ピリッとした辛さが特徴的なあれを初めにしよう。

 そう考えて、わたしは屋台が立ち並ぶ商店街へと戻った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 この祭りの主役である巨大な山車が近くに見える場所。

 そこにわたしの目的の屋台があった。


「何時もの屋台は、春だけみたいだけど……まあ、いっか」


 あの屋台は春までのお楽しみにしよう。そう考えながら、わたしはトルコアイスを同時に販売しているドネルケバブの屋台へと向かう。

 店員は外人だけど、トルコアイスを売っているからトルコ人なのかも知れない(偏見)。

 まあ、美味ければ別に良いや。


「イクツイル?」

「とりあえず、ひとつください。近くで食べるんでビニールは特に必要ありませんから」

「500エンネ、ワカッタヨ」


 片言の日本語で喋る外人店主へと500円玉を渡すと、店主は調理を始める。

 半分に切られたピタパンをトースターへと投入して、本人は持ち手付きの金属製の受け皿と平たく長いナイフを手に前のほうへと回ると太い金属串に刺されてグルグルと回りながらグリルによって表面が焼かれる、幾つもの鳥肉を突き刺した結果ひとつの塊となっている鳥肉を削り出し始めた。

 何時も思うけど、このナイフって切れにくいのに何で使うんだろう? 覚えてたら調べる? ……別に良いや。

 なんて思っていると、必要分の鳥肉を取り終えたのか店主は屋台の中へと戻っていき、トースターで温められたピタパンを取り出すと内面が耐水となっている紙へと入れてから、パカリとパンの中を開くとその中へと最初に大量の千切りキャベツと細切りにされた人参が入れられ……すぐにヨーグルトベースだと思う白いソースをドバッと入れると、今度は切り落とした鶏肉が載せられるとその上へとチリソースのような紅い液体が掛けられ、包みを閉じてわたしに差し出された。


「オマタセ」

「うん、ありがとう」


 出来上がったドネルケバブを受け取るとすぐ側の車道と歩道を区切るためのレーンへと軽くお尻を当て、食べる準備を整える。

 ドネルケバブが入れられた包みを開き、三角形の形となったそれのピタパンの端を摘んで少しだけ出すとわたしはそれに齧りついた。

 少し粉っぽいピタパンとしゃきしゃきとした千切りキャベツの食感、端っこなのでまだソースが感じられないけれど、口を動かし、咀嚼を進める。

 するとようやく肉とソースへと辿り着いた。

 焼かれ過ぎて少しパサパサとなった鳥肉、酸っぱさと辛味があるチリソースっぽい味、しゃきしゃきのキャベツとまろやかな白いソースの味。

 それらが歯で噛み締める度に口の中で混ざり合い、呑み込めるほどになるとゆっくりと呑み込む……。


「うん、うん……! やっぱりこの味よねー。この地方ってケバブ売ってる店なんて無いから、祭りだけでしかこの味は知らないのよね」


 そう呟きながら、わたしは慣れ親しんだ味を楽しみながら食べ進める。

 何も入っていなかったからか、ドネルケバブは見る見るうちに小さくなっていき……同時にどっさりと盛られたキャベツと鶏肉がボロボロとピタパンから袋の下や地面に落ちていく。

 さあ……、ここからが勝負。


「気をつけて食べないと、ソースや鶏肉が零れて浴衣が大変なことに……!」


 浴衣に落ちたら洗うのが大変だし、手に付いたら手を洗わないといけない。

 そう思いながら、わたしは気をつけながら鳥肉やキャベツを口に運んでいく。

 というか美味い食べ方ってあるの? 正直分からないわね。


「うーん……、仕方ない。かなり下品だけど、最後まで食べたいし……えいっ」


 覚悟を決めて、ピタパンを裏返して残りを食べ終えると……袋の中に残った鳥肉とキャベツを見つめながら、包みの底の部分を少し押し上げる。

 底が押し上げられ、残った具材が顔を出したので、わたしはそれに顔を埋めるようにして食べ始めた。

 下品、実に下品。だけど底に溜まったソースが絡んだそれらは美味しいので仕方が無い。

 そうわたしは思いながら、食べる。

 見られてたら恥かしいけど、誰も彼も祭りに夢中のためにわたしに視線が行くはずが無いので大丈夫だろう。


「…………ふぅ、美味しかった」


 モグモグと食べ終わると、巾着袋からビニール袋を取り出すとゴミとなった包み紙を入れる。

 大人になってまでも道端に捨てるというのはちょっと……。そう考えてのビニール袋なので特に問題は無い。

 そう思いながら反対側に視線を向けると高校生が食べ終えた肉串の串を横溝に捨てるのが見えた。


「こうしてごみが増えていくのね……」


 ガクッとくる現実に涙したくなりながら、わたしはその場を後にし……次に食べる物の屋台へと向かって歩き出した。

スターケバブ、食べたいです……。

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