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彼女が浴衣に着替えたら

おひさ!

 わたしの名前は祭囃子。……感じだけ見ると、『まつりばやし』と呼んでしまいそうだけれど、れっきとした本名である。

 ちなみに『まつりそうこ』と呼ぶのが正しい呼び名です。

 そして年齢は26歳11ヶ月10日独身という……ちょっとだけ悲しい歳ですね……。特に親の結婚しなさいコールが。

 だけど……生まれてこの方、彼氏のかの字も持ったことはありませんが何か?。

 まあ、いらないですけどね。きっと俺の言うことに従えー、云々というに決まっています。


 ついでに言うと身嗜みには最低限気をつけてはいるだけなので、髪は伸びて少しボサっとしていますね。

 なので顔は髪と何時も付けてる眼鏡のお陰で隠れて上手く見えないはずですが……、一応は見られても大丈夫なくらいの顔立ちだと思っています。


 さらに趣味と呼べる趣味も、ある季節にあるような物にしか興味がありません。

 え? ある季節って言うのは、夏と冬なのかって?

 いったい何の話をしてるんですか? ……まあ、夏にはありますね。

 それも色んなところで、たくさんあります。


 そして今日明日はわたしの地元でそれが開催されるので、わたしが存分に楽しめる日です。

 だからわたしは職場での作業中も心成しかウキウキしていました。

 あまり興味無いでしょうけど、わたしの職場はアルミ加工を行う製作所でわたしはマシニングことMCを担当しています。


「…………~♪ っとと……」


 機械のバイスへと切断された形材をセットし、設定されているプログラムをセットしてから扉を閉めてスタートボタンを押すときについ軽く鼻歌を歌いそうになって、わたしは自制する。

 落ち着け、落ち着きなさい……。定時まであと少し、残業は無いようにしているのだから……。

 心でそう言い聞かせつつ、わたしはエンドミルが回り出して形材を削り始めていくのを見る。……というか、あの白く濁った切削油を度々交換しているはずなのに、本当臭うわ……。

 鼻をつまみながら、第一段階が終了し、シリンダーが回りエンドミルからドリルに切り替わるのを見終えると、他のマシニングのセットへと向かいだした。


 そして、数時間が経過し……軽い休憩を挟んでから昼の休憩を告げるベルが鳴り響いたので、わたしは加工を終えたマシニングを順に停止させていく。

 全て停止したのを確認してから、食事をするために食堂に向かいご飯を食べます。

 ……けど、今日の夜のためにあまり食べ過ぎないようにしたいけど……、正直暑いのでご飯も入りません。

 本当、現場にもエアコンは無理でも何とかしてくれない? 事務所だけガンガンエアコンかかってるの見てると怒りしか出ないわよ?


「ま、無理だから諦めるけど……。あぁ、食堂が涼しい」


 食堂の涼しさが、汗ばんだ体を冷やし……ふぅと息を吐かせる。

 食堂に置いているマイカップを手に取り、蛇口から水を流し始めると少し温かったのが徐々に冷たくなるのを水を当てた手が感じ、わたしはそれをカップへと注ぎ入れると……一気に飲み干した。


「……ふぅ、生き返った」


 水が乾いた体に染み渡り、わたしはようやくリラックス出来た。

 そのお陰か、少しだけなら食べることが出来そうな気がしてきたので、食べることに。

 会社で注文している弁当を取り、何時もの定位置に到着し食べようとしたところで……。


「あ、ご苦労様です。祭さんも今晩どうですか?」


 と、2ヶ月前に入社したお調子者な印象が強い本町くんが話しかけてきた。

 ……正直、リア充って感じの印象を出している彼は苦手だ。

 だけど、最終的に断るにしても無視するというのは後々支障が来るため、返事を返します。


「今晩? 何かあるんですか?」

「はい、ちょっと俺の地元で祭があるんですけど」

「祭……、ですか?」

「仕事が終わったら、誰かの車でそこまで一度に向かって軽く回るかは分からないけど、その後飲み会でもしようかって話をしてたんですよ!」


 ……本町くん、同じ町だったのね。

 初めて知った事実にちょっと驚きはしたけれど、ちょっとなので表情は変化しない。

 ジッと本町くんを見ているので、考えていると思っているのか……彼は恐る恐るわたしに尋ねてきた。


「それで……、祭さんもどうですか?」

「……申し訳ありませんが、わたしは用事がありますので失礼させて頂きます」

「あー、そうですか……。用事なら仕方ありませんね。それじゃあ、また今度都合が無いときにでも」


 わたしの言葉にそう返事を返すと、本町くんは飲み会に参加する人たちの下へと戻っていきました。

 ……というか、男性も参加するみたいですけど、おばちゃん大目の女性陣だけど地味に若い子も多いですね。

 和気藹々と話す彼らを他所に、わたしは弁当を開けて食べます。……決して美味しくはないけど不味くも無いのが特徴ですよね。

 ちなみにご飯はお茶を掛けてお茶漬けにしてサラサラと詰め込みます。

 無理矢理詰め込む感が強いですが、暑い午後を乗り切るには食べないといけませんからね。


 ……そうして、午後もダクダクと汗を流し、作業着と下に着ている下着が肌に張り付く不快感を感じながら行います。

 あと、15時の休憩にパックアイス1本だけが与えられるけど、涼しくならないからね?

 そんなことを思いながら、残り2時間を乗り切り、終業のベルが鳴り響くとわたしは有無を言わさずに帰宅を開始した。

 残業? そんな体力は無いですからね?

 それに仕事は大事だと思いますが……会社のために倒れそうになるまで仕事なんてやってられません。

 というわけで、帰宅します。



 ◆◇◆◇◆◇



 帰宅し、家の扉を開けると先に一緒に暮らす家族が帰ってきているようでリビングにはエアコンが効いており、汗ばんだからだが涼しさを感じた。

 ……まあ、車で帰ってきているから、エアコンに当たってるけどそれとこれとは話が別です。


「うあ~……、あっつぅ、生き返るぅぅ~~……!」

「囃子、おっさん臭いわよ?」

「あ~、ただいまお母さんー。けど、仕事場は暑過ぎて仕方ないのよぉ」


 年老いたけれど、まだ元気しゃきしゃきな母と会話をしながら、わたしはグッタリと椅子に座る。

 そんなわたしを母は呆れたように見るけれど、暑い物は仕方ないから仕方ない。

 そして、わたしがそう言うと決まっては母言うだろう。


「だから、もう少し勉強して良いところに入れば良かったのよ」

「あー、はいはい。その話聞き飽きたからね」


 何時もと同じ返事を返していると、母は呆れた様子を見せながらわたしに、


「それで? ご飯食べるの?」

「ううん、良い。というか今日が祭だって分かってるでしょ?」

「分かってるわよ。それじゃあ、ちょっと汗流してきなさい」

「はーい」


 返事を返しながら、わたしはシャワーを浴びるために風呂場へと向かった。

 まあ、シャワーシーンは割愛する。

 正直汗臭い女性のシャワーシーンなんて見ていても面白くないでしょうしね。


「あ~~、さっぱりした~」


 湿り気を帯びた髪をバスタオルで拭きながら、椅子にもたれかかる。

 ちなみに目の前には風量を中に設定した扇風機があり、バサバサと髪が揺れる。

 ……そんなわたしを何時ものように、というか残念な目で母が見ていた。


「あんたは……、お父さんが帰って来るまでには着替えなさいよ?」

「は~い」


 気の無い返事を返すのだけれど、今のわたしの服装は下着姿なのだから、そう言うのは当たり前だろう。

 これが年頃の娘だったりしたら、叱り飛ばすなりしていたはず。……というか10年前は叱られた。

 そんな懐かしい思い出を思い出しつつ、髪が乾いて体から水滴が落ちたのを確認すると、部屋に入り着替えを開始した。


「……さてと、それじゃあ着替えましょうか」


 呟きながら、ササッと昨日の夜に用意しておいた浴衣へと着替える。

 濃紺の生地に大輪の花火が打ち上げられている柄の物。

 和装下着を着用して、何年も着用するようになった結果、一人でも着ることが出来るようになった浴衣をサッと着用していく。

 帯のほうは濃紺の生地に合うようにと考えた結果、紫色の物を選択。

 それをササッと前のほうで巻きつけ、グルリと回転させて浴衣の着用は完璧!

 最後に、乾いた髪を軽く梳いてから……一まとめにする。

 髪が纏められたお陰か、少しだけ見栄えが良くなった気がするけれど……気のせいだと思う。


「よし、準備完了っと。あとは……お金、ヨシ! ハンカチ、ヨシ! ティッシュ、ヨシ! 一応ビニール袋……ヨシ!」


 化粧台に置かれた物を確認し、それらを巾着袋に纏めて……わたしはそれを手に取ると、部屋から出て行く。

 リビングに入ると、母が夕飯の調理を終えたのか料理がテーブルに載せられている。

 ……実に美味しそうなから揚げだ。


「着替え終わったみたいね。……ほんと、見た目が変わりすぎてるわよね」

「そう? ま、別に良いじゃないの。それじゃあ、ちょっと行って来るわね」

「いってらっしゃい。……呑み過ぎ食べ過ぎには注意しなさいよ?」

「は~い」


 母に軽い返事を送りながら、わたしは玄関に向かい……、数年前から走り難い下駄の代わりに履くようになったピンク色のクロックスを履く。

 ……よし、完璧。千切れる心配もまったく無し!

 それを確認すると、わたしは意気揚々と外へと出て行った。


 目指すは、わたしの趣味(お祭り会場)

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