ラブレター
『 ラブレター 』
暮れの大掃除で押入れを掃除していたら一枚のハガキが畳に落ちた。 娘がそれを拾うなりチェックが入る。
「あ-これラブレターじゃない? パパも隅に置けないわね。 誰からかな」
いそいそと中身を取り出し、 ハガキの内容と宛先を確認していた。
すると、 写真も一枚入っていた。
「どんな可愛い人と写ってるのかな」
娘ながらこういう所はやっぱり女の子だと思う。興味津津で目を輝かせている。
「何だ。 ママとじゃん。 つまんない」
そういうと写真と手紙を渡そうとしたが。
「あれ? 差出人の名前おかしくない?
ママの名前と違うじゃん」
「ーーこの写真と手紙は・・・」
僕は、 言いかけるとその手紙と写真を暫く眺めていた。
そしてーー 懐かしさと忘れかけてた記憶が蘇った。
★
彼女と出会ったのはもう十何年も前の話になる。 僕が中学三年でそろそろ志望校を決める時期にさしかかってた頃だった。
高校入試の控えてるってこともあり図書館で勉強するのが僕の日課だった。
そんなある日、 たまたま階段で女の子と衝突してしまったのが彼女との最初の出会いだった。
「イテテ、ごめんね 。大丈夫 」
「ええ。 平気」
彼女の持っていた本が乱雑に床に転げ落ちている。
一緒に拾っていると最近ハマって僕が読んでる作家の本があった。
「君もその作家の本をよく読んでるの」
「うん。 この作家さんの本 面白いよね」
彼女のその微笑みで僕の心は撃ち抜かれてしまった。 まさに一目惚れだった。
「い・・・いつもこの図書館来てるの?」
「いつもではないけど、 週に一度は必ず来てるよ。 本を借りてるから返しに」
「そうなんだ。 また見かけたら声かけていいかな」
「うん」
それから彼女に会うため毎日欠かさず図書館に通った。 彼女とは少しずつ話すようになり次第に普通に会話出来るようになった。
彼女は最初、 火、金曜日だけしか図書館に来てなかったが次第に毎日通ってくれた。
会って一緒に他愛もない話をして一緒に笑って時には五月蝿いと注意されて、 お互い顔を見合わせてまた笑って・・・
そんなある日、 彼女からこんな事を聞かれた。
「高校は、どこの高校に行くの」
「一応、 △○高校を受けようと思う」
「そうなんだ。 じゃあ私もそこにしようかな」
「本当に。 なら勉強頑張らなくちゃ」
「一緒に同じ高校行けるように頑張ろうね」
その言葉が凄く嬉しかった。 この先もずっと一緒に仲良くしてくれるのだと思った。
僕は決心した。 彼女に告白しようと。
それを最後に、 彼女は姿を見せなかった。
毎日通ってくれた図書館にも二週間姿を見せなかった。 借りてた本も返しに来てなく延滞になっていた。
それでも彼女に会いたくて毎日図書館に通った。
彼女に会えたーー
「ねえ。 どうして図書館来なかったの」
彼女はもの凄くビックリしていた。 それは見られてはいけない者に見られてしまったような表情を浮かべていた。
そして、 一言もしゃべらないで頭を下げ去ろうとした。
「ちょっと待って・・・」
僕が追いかけて話をしようしても彼女は必死で逃げて行くーー何で?
彼女はそのまま自転車で走り去って行った・・・
★
それから僕は図書館に行くのを辞めた。
元々は彼女に会うためだったから、 彼女の居ない図書館には行く理由すらない。
いつ通り図書館の前を通り過ぎようとしたある日、 目に停まっていたのは彼女の自転車だった。 間違いないずっと一緒に図書館の後帰っていたので見間違えるわけない。
僕は図書館の中で彼女の姿を捜した。
彼女は、 見つけてくれと言わんばかりにすぐ分かる位置で座っていた。
向こうも僕の姿を見つけるや否や近づいて来た。 ただ、 何となく違和感を感じた。
彼女らしくないっていうか雰囲気がいつもより物静かなに感じる。 そして何よりも彼女のトレードマークの笑顔がない。
「これを受け取って下さい」
「これは? それと君は」
「お気づきですよね。 その手紙は双子の姉からです。 姉病気で入院してるんです」
僕は驚きとショックで言葉も出なかった。
「手紙読んであげて下さい」
そう言い残し去っていった。
★
家に帰って受け取った手紙を読んだそこには彼女からの想いが書き記されていた。
= = = = = = = = = = = = =
この手紙があなたの手元に届いて読んでいるという事は、 私は図書館に通えなくなってあなたに会えなくなっているということなのでしょう。
あなたと火、金曜日図書館でお喋りしたり一緒に本を読んだりしていた日々は本当に楽しかったです。 毎週会えるのが楽しみでした。
あなたに会うずっと前から入退院を繰り返していて学校にもほとんど行ってなく同じ年のお友達がいなかったのもあり、 あなたと出会えたおかげで凄く元気もでました。
出来れば同じ高校に入学して一緒に学校生活を過ごしたかったな。
どの高校かな? セーラー服の同じ高校なら嬉しいな。
一緒に仲良く自転車で通って、 帰りも一緒で途中で寄り道して本を読んで。
桜が綺麗な時は一緒に手を繋いで散歩なんかして、 夏はクーラーの効いた図書館に朝から行ってお昼は木陰でお弁当食べて。
プールにも行きたいなあ。 私今ガリガリだけど。秋は赤黄色に染まった木々を眺めて公園のベンチで手を繋いで黄昏れて。冬はお揃いのマフラーを私が編んで揃いで撒いて。
あなたとしたい事いっぱいあったのに、あなたと一緒にこれからもずっと図書館から笑って過ごしていたかった。
ありがと。 さよなら。大好きでした。
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★
僕は予定通り△○高校に入学した。
彼女のことは忘れたことは一度もない。
あの後もあの図書館で高校入試の勉強をしていた。
彼女が隣にいて、 微笑んでくれているような気がしたからだ。
後で聞いた話だが僕が手紙を貰ってすぐに彼女は亡くなったそうだ。 亡くなる直前まで僕に会いたがっていたらしい。
学校の駐輪場に見覚えのある自転車。 間違いない彼女の自転車だ。
しばらく待っていたら手紙を持って来てくれた彼女の妹だった。 僕は彼女の妹に聞きたい事があった。
「手紙ありがとう。 お姉さん残念だったね。病気だったんだね。」
「・・・・」
「あのさ・・・いつも図書館で会ってたのお姉さんじゃなくて君だろ」
彼女の妹は驚いた表情を見せた。
「・・・何で」
「お姉さんの手紙には高校の入試先は変わらないけどって書いてあった。 けど僕は確かに△○高校に入学すると教えてた。 そして君はここに居る。偶然にしては不自然だろ」
彼女の顔がいつも図書館で会っていたあの柔らかい表情に変わった。
「君なんだろ? ずっと一緒に図書館で会ってたの」
「うん。 最初はお姉ちゃんに頼まれてお姉ちゃんのフリをしていたの。 けど、 火、金曜日だけじゃなく毎日あなたに会いたくなってしまったの」
彼女は申し訳なさそうに下を向いてる。
「好きなんだ。 君のこと」
「えっ。 お姉ちゃんじゃなくて」
「毎日一緒にいた君のことが好きなんだ」
「けど・・・」
「お姉さんが出来なかったことを叶えてあげよう。 一緒に」
そして、僕らは付き合った。
桜が綺麗な時は一緒に手を繋いで散歩して、 夏はクーラーの効いた図書館に朝から行ってお昼は木陰でお弁当を食べた。
プールにも行った。 秋は赤黄色に染まった木々を眺めて公園のベンチで手を繋いで黄昏れてた。冬はお揃いのマフラーを彼女が編んで揃いで撒いた。
彼女の姉が出来なかったことを叶えた。
やがて、 結婚して子供も出来た。
★
「ママ、 双子だったの? 知らなかった」
「お互い辛くなるからな。 あんまり話したことなかったな」
「ーー何の話を二人でしてるの?」
「あのねえ。ママ、パパがね〜」
ーーーー
ーー
ねえ、 本当はお姉ちゃんがあなたと一緒に喋って仲良くしてるのが羨ましかったのよ。
だから、 お姉ちゃんに成りすましてあなたに会ってたの。
僕は、 全部分かってたんだーー 君たちが入れ替わってたことも・・・気づいてないふりをしたんだ。
だから、 一度も彼女の前や子供の前で彼女の姉の話題はしないように自分の中に閉まっていたんだ。
なかったことに・・・
僕は押入れに手紙と写真をしまった。
思い出と一緒に・・・
ーー おわり ーー
ご愛読ありがとうございました。
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神様の約束も1話完結なので宜しければ読んでみて下さい。
〜 まーゆ 〜