こんな夢を観た「美術館へ行く」
フェイル・ブックで知り合った大熊猫之助なる人物と、美術館へ行くことになった。
公園の噴水広場で待っていると、ジャイアント・パンダの着ぐるみがやって来るのが見えた。
「どうもどうも~、むぅにぃさんですよね~?」くぐもった声を掛けられた。
「はい、大熊猫之助さん?」わたしも聞き返す。
「そうです、そうです~」朗らかな声で返事をする、大熊さん。
「あのう、そんな格好で暑くないですか?」直射日光の降り注ぐ真夏の昼前。じっとしているだけなのに、すでに汗びっしょりだ。それなのに、着ぐるみなんか着ちゃって。
「はい~? 中の人なんて、いませんよお~」すっとぼけた声を出す。
「えっ? あ、そうですよね。はいはい、そうでした。自毛ですもんね、それ」触れちゃいけないことらしいので、わたしも合わせることにした。
熱中症でひっくり返ったら、救急車だけ呼んで逃げちゃおう。
「今日の特設、たっのしみ~……ですねっ!」大熊さん、よっぽど嬉しいのか、大きな図体でスキップをしている。「ぼかぁね、『ルドンのキュクロプス』が好きで好きで好きで、この日をずうーっと楽しみに待ってたんだぁ~」
「ルドンって……。今日の特設は『ゴヤの巨人』ですけど?」わたしは言った。
大熊さんは、片足を持ち上げたまま、ピタリと固まる。
「やだなぁ~、むぅにぃさん。からかわないで下さいよ~。今日は『ルドン』の展示会じゃないですかぁ~。一瞬、本当かと信じかけちゃいましたよ~」
けれど、わたしは出かける前に確かめたのだ。ルドンではなく、ゴヤだったはずである。
「大熊さん、もしかしたら勘違いしちゃってます? そりゃあ、どちらも巨人を描いた絵がありますけど」
「そんなことはありませ~ん。ぼかぁ、ルドンは好きだけれども、ゴヤとゴーヤだけは大大大っ嫌いなんですからぁ~」断固として言い張る。
あんまり自信たっぷりなものだから、やっぱり間違えているのはわたしの方かなぁ、などと気弱になってきた。
「とにかく、美術館に行ってみましょう。そうすればわかることですから」
美術館に着いた。門の外には、特設会場の特大ポスターが貼られている。
暗い背景に描かれている人物は、なぜだか顔にぼかしが入っていた。
「何なの何なの~」と大熊さんはだだっ子のように身をよじって踊る。「おまけに、作者の名前が黒く塗りつぶしてあるじゃないかぁ~」
これじゃ、誰の何という作品かまったくわからない。
「中に入りましょう。展示されている絵にまで、ぼかしが入れられているわけじゃないんだし」
「こちら特設会場」と書かれた人差し指の案内が、これでもかというほど、しつこく貼られている。まるで、葬儀会場の道順のようだ。
「ずいぶんと奥まった先にあるんですね」わたしは言った。
「ぼかぁ、いや~な予感がしてきましたよ~」大熊さんはトーン・ダウンした声で洩らす。
迷路のような狭い通路を進んで行くと、いきなり大フロアに出た。
ガランとして他には何もなく、正面の一箇所だけ照明が向けられ、左右の壁、床、天井から一斉に「これがその作品!」と書かれた矢印が集中していた。
「ああ、やっとたどり着いた~。あれがルドンだよね~っ!」大熊さんが元気を取り戻す。
「違いますよお、ゴヤなんですってば」作品を前に、わたしもテンションが上がってきた。
早足になって絵に近づく、大熊さんとわたし。
我が子を貪り食う、一つ目の巨大なモナリザが描かれていた。
「何これ? 誰これっ?!」
美術館だということを忘れ、つい大きな声を出してしまう。




