今日はついてる
とあるカジノにて、常連の男は、やけにニヤニヤとした恰幅のいい男に声をかけた。
「どう、ついてるかい?」
「ああ。もう勝ちまくって勝ちまくって。今日は本当についてるよ」
そう答えた男は、山積みのチップを見ながら高らかに笑ってみせた。
「そうですか。それはうらやましい」
そう答えた後、常連の男は今度は妙に貧相な風貌の男に同じ質問をした。
「どう、ついてるかい?」
「ええ、まあ……」
貧相な男は力なく答えるが、彼はどうみても儲かっている様子には見えなかった。
疑問に思った常連の男は、失礼かと思いながらもさらに尋ねた。
「そうですか? どう見ても、儲かっているようには見えませんけど」
「でも、ついてるんですよ。今日は、本当に」
「本当ですか」
「ええ……」
貧相な男は溜め息をつき、やりきれないような面持ちでちらりと後方を見つめる。
そして、やけに湿っぽいトーンでこう呟いた。
「背後に貧乏神がなんと十柱。全く、嫌になってしまいますよ」