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「ったくいつもながら面白くない女だ……」
俺はパソコンを閉じると頭の上に乗っていた猫をパソコンの上に置く。
デスパイアで魔王城に迷い込んだ、真っ黒な毛並みの黒猫だ。
「プリンちゃぁぁん」
名前はプリン。俺がつけた。丁度そのときにプリンを食べていたからだ。
「ニ"ャァッ!」
「ドフュッ!?」
抱き締めようとすると、顔面に尻尾でビンタをして俺の背中に着地しやがった。
こいつ……デスパイアでも俺に懐かなかったよな。俺がどんだけ構ってやってもすぐに逃げやがる。
『全く。これだからこの変態魔王は……』
「なぬっ!?し、喋っただと!」
背中越しにプリンが言葉を発した。しかも女性の声だ。……なんか聞き覚えあるぞ?
『私よ、私。さっきチャットしてたじゃない』
てめぇかよっ!!
出てくるなチャットいらねぇよっ!
「なんてこった……俺は猫とチャットしてたのか…」
『違うわよ。この子の身体を少し借りてるだけよ。
今からあなたに魔法をかけるわ』
俺は猫に向き直って座る。毛並みの美しい猫だ。てかいつから俺に着いてきたんだ。
『時間がないから手短かに言うわね。
この世界にはあなたともう1人……最強の勇者がやってきている……』
「最強の勇者とかなにそれ!どっかのゲームの!?ゲームなの!?猫ちゃん狂猫病なの!?」
『最強の魔王とか言ってるアンタまじ乙』
「ぷぎゃぁぁぁっ、ツンデレ萌えぇっ!」
思いっきり顔面引っかかれました。
魔王だってこういう攻撃は地味痛いんだからねっ!
『……とりあえずチャットの方にはその勇者の画像を転送しておくからまた後で確認しておいて』
「え、さっきのゴリマッチョ?」
『あれは私の真の姿よ』
「へー」
『……問題なのは向こうにもあなたの顔が割れているってことよ。
だからあなたの姿を変えさせてもらうわ』
「へー」
『変化魔法っ!』
「ドフュッ!」
普通に魔法をかけられて姿が変化してしまった。
……鏡!鏡で姿を確認しねえと!
ゴリマッチョになってたら俺死んじゃう!
パソコンを開いてそれに反射している自分の顔を見る。大したことはない、変化前は少しいかつい大人っぽい顔立ちだったが、今のは金髪の優しそうな男の子って感じだ。
てゆーか結構童顔じゃね?
畜生、前の顔の方がイケメ
『前よりもこっちのがイケメンよ』
はいはいそーですか。
『じゃあ私はそろそろ消えるわね。
チャットでなら話はできるけど、答えられないことも多いから気をつけて』
プリンから魔力と思われる光が分散していく。
「ちょっ、ちょいちょいちょい!
俺はどうすりゃいいんだ!勇者倒せばいいのか!?」
『その辺は自分で考えて。
でも今のあなたは魔王の時の技は使えないから、この世界で強くなるしかないわ。
じゃあね』
「魔王ちゃうとかクソワロタ」
そうして美女の意識も消えていった。
プリンは俺の肩に乗っかると欠伸をした。
ちなみに黒猫ではあるが肩に乗れるくらい小さいのだ。
「つーか俺の魔法が使えないてマジかよ」
俺は魔王ボールを使ってみる。
発生したのは黒い球だった。前までの魔王ボールは薄い黒色だ。つまりこの黒い球には何かの性質が抜けている……ということだ。
何なんだろうか……
「ニャァァオ」
「おぉ、よしよし、なんか急に懐くようになったなぁ」
俺はプリンの頭を軽く撫でるとこれからのことを考える。
まず人を探そして、この世界のことを調べる。そして俺のなくなった性質の代わりとなるものを探す。
勇者か……しかも別世界では最強。
魔王モードで戦えないのが残念だ。
くくっ……デスパイアで魔物を倒して魔王になっていったときと同じだ。ワクワクしてきた。
「さーって、可愛い子でも探すかなぁーーっ!」
……人間がいれば、ならだが。