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「ねぇねぇそこの君!僕が魔法のコツを教えてあげようか?」
「け、結構です……」
「そんなこと言わずにさ!
ほら、まずはどんな属性の魔法を使うか想像して〜」
ぼやぁっと俺の掌に魔力が集まってくるのが分かる。
迷惑そうな顔をしている少女も興味が湧いたのか、俺の掌を覗き込んだ。
「そして形を作り上げる!」
ボンッ!!と軽い爆発が掌で起こり、煙が覗き込んでいた少女の頭を包み込んだ。
「ごほっごほっ!ほんっと意味わかんない!」
少女は怒ってどこかへと走って行ってしまった。
「調子のって教えて失敗乙」
「ち、可愛い女の子だったのにな……」
「あんたまだナンパついでに魔法教えてるわけ?」
「あぁそうだ!まだ成功してないがな!
ロリっ子には教えんぞ!」
「別に良いわよ!」
ジュワァァァッ!!
熱水が頭に降り注いだ。
「あちゃぁぁぁぁっ!!!
ツンデレ萌えぇぇぇ!!」
こんな感じで俺のシードでの学校生活は1週間を過ぎようとしていた。
そして、この学校の生徒を観察して分かったことがある。
全体的に魔法や超能力が使いたいって気持ちがほとんどないのだ。
おそらくだが、子どもの頃からずっと魔法などが使えなかったため、使うことを諦めているのだろう。
何か、生徒達をやる気にさせることができる出来事があれば、魔法を覚えようとするし、エレナ達への羨みからくる逆恨みも減ると思うんだけどな。
「で?デスパイアとやらに帰る方法は見つかった?」
「いや、全然」
この世界の本やネットワークを利用してデスパイアに関することを調べたが、全くその情報は知ることができないでいた。
「今はっきりと分かってる情報は魔物が1000年前に姿を消したってことくらいだな」
俺は歴史の教科書を開いて、昔の生物のイラストが描かれているページを開く。
そこには、俺の家臣にもいたミノタウロス、サキュバス、ドラゴン……その他が実物よりもカッコ良く描かれていた。
本物はもうちょいキモい。
「てことはあんたは1000年前にタイムスリップしてたってことになるの?」
ミイは疑わしげな目で見てくる。
一応エレナとミイには俺が行方不明になったあとデスパイアに行って魔王になり、帰ってきたということにしてある。
エレナは普通に信じてくれたがミイはなかなか信じてくれねぇんだよな……
「それはないな。
俺が住んでたデスパイアってのは大陸が5つには分裂していた。
さすがに1000年程度じゃ大陸は一つにならないだろ」
地質学的に大陸が移動するには億単位の年月が必要となる。
「まぁもう少し探ってみるかな……」
俺は教科書を閉じると立ち上がった。
「次の授業って魔法・超能力訓練だろ?
早く隔離エリアにいこうぜ」
「あんたがずっと教科書読んでたんでしょうが……」
魔法・超能力訓練とは名前の通り魔法と超能力の実践訓練を行う授業のことだ。
隔離エリアという別の次元空間に設置された広い場所で訓練は行われる。
次元空間はこの国の最高機関が学校設立と同時に作ったそうだ。
「でもさー」
「あー?」
隔離エリアへはグラウンドから行くことができるので、ミイと歩きながら向っていた。
「毎回思うんだけど、この学校ってロクに魔法使える人なんて一握りしかいないんだから、魔法訓練なんていらないじゃない」
「バッカだなぁーお前は」
「何よ!」
ミイがツインテールを逆立てて手に電流を集め始める。
何だこのロリっ子は。萌えるジャマイカ。
「この学校の奴らが魔法の練習をやめたらどうする?
それこそ魔法自体がこの学校から消えるんだぞ。
だから俺達みたいな奴が、しっかりと現実に向き合って手伝ってやんねぇといけないんだよ」
「……まぁそうだけどさ」
俺の真面目な正論に反論できなくなったのか、ミイの青いツインテールは元の吊り下がった状態に戻った。
こいつのツインテールは生き物か何かなのか?
「はーい、皆!今日は基本魔法の練習から始めますね!」
俺たち担任の先生で、魔法訓練担当でもある先生が生徒たちに今日の授業の内容を説明する。
隔離エリアの中は真っ白な床と天井で覆われていて、先生が持ってきたと思われるホワイトボードが置いてある。
授業で使ってるような高性能白板は持って入れないのだろう。
「また基本魔法かよ……」
「かれこれ半年はこの魔法の練習してるぜ……」
生徒達は落胆している。
同じ魔法を何度も練習させられているからではない。
何度練習してもできないから落胆しているのだ。