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新章です
小鳥のさえずりが聞こえる。木が生い茂り、名前は分からないが色とりどりの綺麗な花が咲いていて、緑の中に栄えている。澄んだ水の湖は太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
ーー
(くく……奴らめ、俺が目隠しと手足の拘束と猿ぐつわごときで止められると思ったか!)
のそのそとイモムシのように這って草むらの中を進む。
魔王の根性は筋金入り。例えどんな状況に陥ったとしても、腕がもげようと足がぶっ飛ぼうと……
(このチャンスを逃すわけにはいかない!!ぶっひひ)
ーー
湖は浅く、深いところで胸より少し下のあたりまでしかない。身長の低めなミイや柊菜でも溺れること無く入ることができていた。この湖は近くで小さな滝からの水が溜まったもので、どちらかというと滝つぼ周辺にできた川のようなものだ。
「気持ちいいですわね……こんな綺麗な湖で水浴びできるなんて幸運ですわ」
「そうね。さすがにあれほどの闘いでかいた後で、お風呂やシャワーを浴びれなかったのは辛かったし」
その湖で水浴びをしている少女が2人。黄金色の髪をした紫色の目の少女、水色の髪をツインテールにした碧眼の少女。柊菜、ミイの2人は一糸まとわぬ姿で水浴びをし、暑さによってかいた汗を洗い流していた。
「ふぅ……一体いつになったら帰れるのやら……」
「こういうサバイバル的な生活はお嬢様には苦痛以外の何物でもないでしょうね」
「べっ、別に私は大丈夫ですわよ? ちょっと疲れただけですわ!」
「へぇー、その割には虫が顔に当たっただけで「ひぃぃっ!」って言ってたじゃない」
「そ、それは!」
ズイッと柊菜がミイに詰め寄って反論する。その際に豊満な胸がぷるんと揺れ、水滴が少しミイにかかった。
「くっ…!忌々しい脂肪の塊め……!近づないでくれるかしら」
ミイは自分の胸を手で押さえて柊菜に背を向ける。ミイが胸に手を当てた際、ペタンッというエフェクト音がぴったりな絵柄になった。要するにミイは柊菜とは真逆の貧乳である。
「あらまぁ、ミイさん?私の胸がそーんなに気になりますの?ほらほらどうです?ミイさんにはないものですものねぇ〜」
ムニムニッと柊菜はミイの背中に自らの胸を押し付けていく。豊満な胸が形を変え、ミイの背中にくっ付いていく。
「やめぇぇえぃっ!!!」
ミイの怒声が森に響くのも無理は無かった。
ーー
(むっふふ!あっと少しっ、あっと少しっ!)
ノソノソと草むらを這い続けて約10分。ついに水の音が聞こえる場所へとたどり着いた。ここだ、ここしかない。ミイと柊菜と一緒に見つけた湖。そこで水浴びしよう、ってなった瞬間に俺は縄で縛られて(ご褒美)、目隠しされて(ご褒美)、挙げ句の果てには猿ぐつわまで咬まされて(至高のご褒美)森の奥へとぶん投げられた。
しかし、耳栓をしなかったのはミスだったな。魔王モードの俺、レン=アクセルは耳に魔力を集めることで少しだけ聞こえる範囲が広くなるのだよ!それを頼りお前たちの居場所へと近寄れるのだ!
(よし……ここでいいだろう)
目隠しは魔王の目からビームで焼く。これで前は見える!
この草むらの奥に待っているのは柊菜のボインボインおっぱいと、ミイのぺったんこおっぱいだ!
ガサッ
「残念。死になさい」
「ちょっと予想してたけどサービスシーンがあっても良かっ……ぶぎぃぃぃぃいいいいいっ!!!!!!!」
俺の鳴き声が、森中に響きわたるのだった。
ーー
「ったく、このクソ豚が!さっきまでエレナが目を覚まさないって半泣きでベソかいてたくせに、私たちが水浴び始めたら即覗きか!?あぁ!?」
ゲシゲシゲシッ!!ミイの蹴りが俺の頭に繰り出される。俺の頭が地面にドンドンめり込んでいく。頭の形変わっちゃうかもしんない。
「もがっもががが!」
「あぁ!?誰が貧乳だごらぁっ!!」
ガッガッガッ!踵だ、踵で俺の頭を踏みつけて来やがった。俺は猿ぐつわのせいで話すことができない。
「このド変態クソ豚がぁ……あぁ?やっぱりてめぇもおっぱい大好きクソ豚なのか!?あぁっ!?」
ゴスンッ!ゴスンッ!ゴスンッ!
「ちょっと!ちょっとミイさん!それ以上やったらレンさんが死んでしまいますわ!」
「ふーっ!ふーっ!……まぁこのくらいにしておいてやるわ」
ミイは荒れた息を整えると、最後にゴンッと俺の頭を蹴って解放してくれた。柊菜は慌てて俺の拘束を外し、猿ぐつわを解いてくれる。
「だ、大丈夫ですか……?」
「……ぎ……」
「ぎ?」
「ぎもぢいい……ん…」
「……」
柊菜の何か汚いものを見るような目が、さらに俺の新しい目覚めへと刺激となるのだった。
ーー
「……で、どうする?」
「てめぇそれで許されると思ったら大間違いよ……!」
くっ、そう甘くはねぇか!
「とりあえずエレナさんの様子をもう一度確認してみませんか?」
柊菜がそう提案してくれる。うん、この子は俺のノリについてきてくれたようだ。俺は勝ち誇ったようにミイにドヤ顔をする。
▽ミイの殺気が高まった。
「よし……『召喚』」
ポンっと音を立て棺が俺たちの前に現れる。人1人分サイズの棺だ。それを開けると、水色の髪の少女、眠った状態のエレナ=レストルトが入っていた。
あの闘い、エレナを連れ去った統治機関の本部である白箱の最上階での輝龍との闘いの後、俺たちはエレナの父であるグレア統帥が作った異空間の穴をくぐり抜け、この森へと転移されていた。あの後、統帥がどうなったのかは分からない。白冬ハガやゼフィリスという女性に殺されたかもしれない。だが、俺たちには今はどうすることもできない。なぜなら俺たちは絶賛迷子中であるからだ。
ゼフィリスの強力な攻撃から俺たちを守って転移させてくれたのはいいが、できれば街などにしてほしかったぜ……
転移の際、俺たちは異空間を通り抜けることになったのだが、その時間はすごく長く、体感時間では何日もに感じられた。そのせいか途中に物凄く眠くなって全員眠ってしまったのだ。全員が離れないように手のひらを魔法でくっ付けておいたから大丈夫だったが、目を覚ました時にはこの森だ。一体何処なんだよっ!て突っ込みそうになったぜ。
目を覚ましたのは俺が最初で、隣に眠っていたエレナを起こそうとしたのだが、魔王モードの俺には彼女の異変がすぐに分かった。
エレナが昏睡状態にある、ということだ。脈や息は正常なのだが、魔力が流れていなかった。魔力ってのは生命力を元に作られるのだが、通常は少しは流れているものなのだ。それが流れていないってことは、何か魔力生成に関する部分、生命力に関するものにトラブルが起こっているということだ。
魔力を注入してみたが受け付けない。つまり魔力不足ではない。俺は手を頭に当てて細かく調べてみるとエレナの生命力が損傷しているのが分かった。おそらく輝龍に食われたのだろう。魔力を生成力に変換して送り込むことができたとしても、損傷を回復することはできない。
それを何とかしないとエレナが目を覚ますことはないだろう。
「俺でも治せないってなると……セレナさんに相談してみるしか……」
「今ここがどこか分からないのよ?どうやって連絡取るのよ」
俺がエレナの母親であり、シード1の研究機関である超科学研究所の所長のセレナさんの名前を出してみるが、ミイに一蹴された。
「うーん……とりあえず、ここが何処かを調べるのが先だな。そうじゃないとエレナを治す方法を思いついても仕方ない。この棺の中なら生命維持は可能だから、しばらくエレナはこの状態でいてもらうしかないな」
「辛いけどそれしかないわね。ごめんね、お姉ちゃん」
ミイは棺の中のエレナの頭を優しく撫でると棺を閉じた。
俺が指を鳴らすと棺は消えた。これは召喚魔法の一つで、俺の特殊なバッグの中にある棺を呼び出すことができるのだ。
「さて、此処がどこかってことだよな……」
「そうですわね……シードならヤルノール辺りでしょうか」
「可能性がない事もないわね。ヤルノールはちょうど密林だったし」
この森って密林ほどか?と思ったが言わないでおく。
……そういえば、なーんかあの滝、見覚えがあるような気がしないことも……
『おーい遅いぞレン。その調子じゃ魔王までの道はまだまだだな』
『ぐぬっ!待ちやがれクソジジイ!』
あぁ、懐かしいな。俺の魔法の師匠との修行もちょうどあんな感じの滝が近くに……ってんん??
まさか……!