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白箱 No.開発室
ドサッ……!
フィフスが俺の拳を受け、倒れこむ。強烈な一撃を与えたため、これでもう起き上がることはないだろう。意識が無いのを遠目に確認し、『イグナイト』を解除する。
「……っ!? ぐっ………」
全身に痛みが走り、足元がおぼつかなくなる。壁に手をつき、息を整えて上の階へと続く扉を目指して歩いていく。
『イグナイト』の使いすぎだな……反動が物凄いことになっている。こりゃ明日は筋肉痛どころじゃねぇな。
魔力はまだ残っているが、体力は限界に近い。これはちょっと休憩が必要になりそうだ。
「……ん?何だこれ……」
壁伝いに扉の方へと向かっていき、途中に本棚がある場所を歩いていると、ひどく荒れた所に出た。そこらじゅうの本棚や地面がボコボコで、穴が空いたり本棚が半分にカットされていたりする。
俺がその場所を歩いていると足に何か固い物が当たったので、目線を下にやるとそこにはスタンダードな形のピストルが。特に変わった姿のない普通のピストルだ。弾は入っていないのか、少し軽い。
「普通のピストルって感じだな……でも、ピストル自体珍しくねぇか?基本的にどの人間も魔法とか超能力で戦うわけで、ピストルとかの人向け技術武器使ってる奴とか見たことねぇし」
ブツブツ呟きながらもピストルを服の袖で拭って汚れを落とす。黒色だと思っていたが、銀色だったみたいだな。
……はっ、よく考えれば、ピストルをつかえば魔力温存ができそうじゃないか?こういう武器は魔力を使わない辺りが利点なんだし。威力では劣るが、陽動などには十分だ。
「なーんて。弾入ってないから使えねえわww」
そう言うと背負っていたバッグに放り込んだ。あ、このバッグは戦闘中は部屋の壁際に置いてたんだぜ。だから中は大丈夫です、はい。
多分今のピストルも、空間拡大魔法で軽い小宇宙化してる俺のバッグの中でフワフワ浮いていることだろう。
そしてまたプリンの声が聞こえた気がしたが、ここは危険だから入っといてくれ。
「……まだ動きやすくはなってきたな……あ、いた」
少し進むと扉付近に水色の髪を二つに括ってツインテールにした少女と、胸辺りまでの長い金髪をタテ巻きにした少女が座っていた。パンツが見えそうだけど見えぬ。悔しい……マジで悔しい!!
ところで、片方は眠っているみたいだ。しかもミイの肩に頭をもたれかけて寝ている。
え、何これ百合展開?
「おーっす。何とか勝てたみたいだな」
「あんたもね」
足を引きずる俺を見てミイが返答をする。俺もなかなかボロボロだが、ミイや柊菜もボロボロだ。服は所々破れて、素肌の露出が激しい部分がある。柊菜なんて胸元のシャツが少し破れているので、下着がちょっと見えている。ほう……紫色の下着ですか……しかもレースっぽい素材で高級そうな代物ですわね。
「……あんた目付きがヤラしいんだけど」
「ブヒッ!?べ、別に胸囲の格差社会だなんて思ってないんだからね!?」
「ほんと死ねば良いのに」
ミイの氷のように冷たい睨みが俺に突き刺さる。柊菜のおっぱいはデカイ。エレナの次くらいに大きくないかね。てかミイの冷たい目が興奮するんだけどどうしよう。
「とりあえずフィフスの野郎は倒したけど、魔法の反動でしばらく動けねぇわ。魔力は残ってるけど、筋肉ブチブチっぽいんだ」
ゆっくりとミイ達の方へと歩いていく。多分ミイ達は俺より早く敵を倒して休憩していたのだろう。ミイの魔力はだいぶ回復した感じがする。
「ひっさびさにマジの肉弾戦だったから痛えわ……黒い球でも使えば良か……あ……」
ガッ
ゆっくりと歩いて……足を引きずるようにして歩いていると、床に散らばっていた本に躓いてしまった。
それだけなら良かったのだが……
ぽすっ!!
「ぶふぉぉむ!?な、何だこの柔らかいやつは!?」
「…ンッ…ンンッ……」
「ちょ、ちょっとあんた何てことしてんの!?」
「ふぁ?ふぁんのこと言って……こ、これは……」
顔面が何か柔らかい感触に包まれている。俺はそれの存在を確認しよう手を伸ばして触れてみると、ポヨンポヨンと弾力もあるが柔らかい物があった。
顔を上げて様子を確認したいが、先の戦いのダメージが残っているため上手く身体を起こすことができない。とりあえずもがいて立ち上がろうとするが、俺の意思とは反対に顔は柔らかい物に押し付けられていく。
「あんた……ッ!離れなさい……って!!」
ミイが立ち上がって俺の身体を引っ張り上げようとするが、ミイも疲労しているようなのか、持ち上げる手に力が入っていないので動かない。
フニフニフニ
俺も何とか手を使って立とうとするが、手が当たってるものが柔らかいので上手く立てない。
「……ん……んぁ……ふぁ? ちょ、ちょっと何ですのこれ!?」
バキィイッ!!!
「ブッヒィィイイイイイイッ!!?」
突然ぶっ飛ばされた。思いっきり腹を蹴り飛ばされてぶっ飛ばされた。
空中をぶっ飛んで俺は地面に落ちた。
め、目覚めそうだぜ……
「はぁ…ふぁ……な、ななな何ですのこの男!?いきなり私の身体に触れるなんて!」
「いつつ……わ、ワザとじゃないんだ!」
鋭い剣を俺に向けて睨みつけてくる柊菜。
「目覚め……じゃなかった。躓いて転んだんだって!」
「へぇ……それが最後の言葉で良いですわね」
「聞いてねぇ!? あ、下着とお揃いで良いパンティで」
バッキィイっ!!!
「ブひっ!?し、死ぬ……」
柊菜の剣の柄が頭を思いっきりぶつかった。痛すぎる……しかし気持ちいいような気がしないこともない。
柊菜ははだけた胸元とスカートを抑え、真っ赤な顔で俺を見下ろしている。
「な、何ニヤニヤしてますの!? 脳天カチ割って……」
「そこまでにしときなさい」
ミイが柊菜の前に手を出すと、柊菜は俺の頭に剣を振り落とす動きを止める。
「1人であの赤髪の奴を倒して、かなり疲労してるみたいだし。それにまだこの後があるのよ?」
「で、ですけど……」
「それにこいつドMな豚だから、殴っても効果ないどころか逆効果よ」
「……分かりましたわ」
柊菜はそう言うと剣を消滅させた。ふぅ……助かったぜ……
「意外とミイも優しいところあるんだな」
「普通よ」
仰向けに転がっている俺に手を差し出して、立ち上がらせようとするミイ。あれか、ツンデレキャラが2人揃うと片方は優しくなるってパターンか。
ってか柊菜の攻撃が強すぎてクラクラする……
「あ……」
スカッとミイの手をすり抜けた俺の手が全く違う物を掴んでしまった。
そして、ズルッ!と、何を考えたのか引きずり下ろしてしまった。うーん、手の握力は残ってたけど、腕を持ち上げておく筋肉が限界だったのかな。
「き、キャァァァアッ!!!!!?」
「おぉ綺麗な縞パン(水色)でありますこと」
「死ねド変態がぁぁあっ!!!!!!」
「さっきと言ってたことが違いますわよ!?」
ドォォォオオオオオオオンッ!!!!
柊菜の制止にも関わらず、部屋中に今までの激戦の中で最も大きな音が鳴り響いたのは言うまでもなかった。




