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白箱 No.開発室
「………」
俺はボンヤリと天井を見つめていた。全く汚れひとつない真っ白な白壁。
「……いてぇ……」
身体が動かない。魔力の使い過ぎと、超能力の無理な使用の反動。そして、レンの攻撃によるダメージが大きい。
ーー負けた。
ただその一言だけが今の俺にはピッタリだ。
無様に、切れた唇から血を流し、痛む全身は床に仰向けに投げ出され、ただ動くこともできず天井を眺めているだけ。
あの、ファイブオーバーを使った最後の一撃、あれは完全に俺の中で最も強い攻撃だったはずだ。最大限の魔力を込めた技だった。
しかし奴の攻撃は俺を圧倒した。
身体強化魔法『イグナイト』 それによって極限まで高まった身体能力。さらに光属性の『シャイニング=ストライク』を発動してきた。
ただ、それだけなら俺の攻撃を上回ることは無理だ。
なぜなら俺の攻撃はファイブオーバーだけを使ったわけじゃない。CodeNo.05の特徴である魔法と超能力の併用使用。これを利用することで限界を超えた力を発動する。
『ファイブオーバー』で全身のリミットを解除し、魔力を全身に流し込むことで活性化、そして火属性魔法『ブレゾディア』を使った。おそらくこの時の攻撃は特級魔法に勝る威力だった。
それをレンの攻撃は完全に上回った。
俺の拳が弾かれた瞬間、何が起こったか全く分からなかった。
そのまま俺は奴の攻撃を受け、意識を失った。
今思えば、攻撃がぶつかり合った時に変な感覚が全身を走った気がする。奴は俺の『ファイブオーバー』の効果を無効化することができたみたいだが、発信源である俺自身の、しかも強化された俺の直接攻撃の無効化は無理なはずだ。
何か……奴には何か他の能力が備わっていたのか。
「……ちっ……痛ぇな……」
意識はあるが身体が動かない。しばらくはこのまま横になっているしかないだろう。
奴は……もうここにはいないようだな。あの女を助けに行ったようだ。
「……何が足りねぇっていうんだ…クソッ……」
負けを意識した途端、ジワジワと悔しさが込み上げてくる。おそらく俺はこの世界で1、2を争うレベルに強い。輝竜祭でも優勝した。超能力も魔法も使える。何も足りない物など無いはずだ。
それなのに……
『俺は助ける。エレナは他でもねぇ俺が守るって約束したからな』
『どうにもならない状況から抜け出すには行動するしかないんだよ。いつもレン君がしてくれるみたいに』
「……気に食わねぇな……クソが……」
でもこれが『強さ』なのかもしれないな。
「……ちっ、同調率0%か……トゥエルと合流しねぇと無理か……」
視界の隅にあるゲージを確認して呟く。『ファイブオーバー』を使わないと身体を動かすことがままならない状態だ。体力が回復するのを待つしかない。
「………フィフ…ス……」
「……トゥエルか。分かってんだろ?負けたよ」
俺の顔を覗き込んでいたのは心配顔の妹、トゥエル。いつもは無表情のこいつがこんな顔をするなんてな。久しぶりに見たな。
「……うん……マオ様……強かった……?」
「別に……俺が弱かっただけだ。悪いが、もう一度『ハイシンクロン』で同調してくれないか?」
「……良いけど…身体は……」
「心配するな。もう……大丈夫だから」
トゥエルが俺の額に手を乗せると全身にじんわりと熱が通っていく。能力の譲渡が行われている証拠だ。これで俺は再び『ファイブオーバー』を使用することができる。
同調率が70%に達したのを確認し、『フォース』を利用して身体を動かしていく。痛覚は多すぎて全ては誤魔化しきれていないため、動くと痛みは少しあるが何とか移動することはできる。
「……フィフス……これで……」
トゥエルの手が背中に触れると身体が浮かび上がる。今までよりファイブオーバーの調整にいる集中力や細かい意識がいらなくなった。身体が動きやすい。
『ハイシンクロン』によって魔力伝達をスムーズにしてくれたのだろう。
「ありがとう。俺が……守ってやるからな」
トゥエルの頭を撫でると、身体を浮かして部屋の入り口へと向かっていった。
もう、迷わない。
ーー
「あっ、トゥエルいた!もう、勝手にどこいってるのよー!」
「……ちょっと……」
「まぁいっか。とりあえず部屋に戻るわよ。なんだかこの部屋荒れてるし」
フィフスが向かった方と違う扉に向かうシルヴィアについて歩き出す。
兄はかなりのダメージを負っていたが、本当に大丈夫なのだろうか?ハイシンクロンで痛覚を麻痺させてやったとはいえ、それも一時的なもの。
さっき触れた時にフィフスとレンが闘っていた場面の記憶が流れ込んできた。彼はエレナを助けるためにこの機関に来ているらしい。
フィフスはその方向へと向かっていなかった。ならどこに……