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俺が敵に反撃できない理由、それは魔力のチャージに時間がかかるためだ。これほどの大人数の敵を一掃しようとすれば、それなりの魔力が必要になる。そして、基本的に大きな魔力を練り上げるためにら時間が必要になり、現在の俺ではそのラグに敵から攻撃を受けてしまうのだ。
魔力の練り上げにかかる時間は基本的には一定で、それを早めるには修行が必要だ。魔王モードの時なら一瞬にしてマックスまで練り上げることが可能なのだが、この世界に飛ばされて姿が変わってからはそれが無理になってしまった。風呂場で修行しているのもそれが原因だったりもする。
ーーまぁそれもここまでだが。
俺は手のひらに黒い玉を乗せ、体の正面に突き出した。
すると黒い玉は徐々に光を帯び……
ボムッ!!!!
『な、何だこの煙!?』
軽い爆発音と共に、黒い玉から煙が噴き出した。その煙はかなり勢い良く飛出ており、一瞬にしてエリア全体を覆い尽くしていく。
「(ひゃっひゃ、これぞ作戦『目くらまし』だぜ!後は……)」
覆い尽くした煙は完全に視界を奪っているため、敵はもちろん俺も攻撃することができない。特に敵は複数いるので、仲間に当たる可能性が高く中々手出しができない。
『ゴホッゴホッ! あ、兄貴!』
『ちぃっ!! これじゃ奴が何処にいるか分かんねぇ!』
いいぞ。敵は完全に混乱している。今こそ反撃する時だ!
『がっ!?』
ボンッ!
『ぶふっ!』
ボンッ
『ぶしっ!??』
ボンッ
次々とシャドラ兄弟の分身が消滅する音が鳴り響く。煙によって何が起こっているのかは、周りの人達からは全く分からないだろう。
ーー
「これじゃ、攻撃できないよ……」
煙に包まれたフィールドをユグドラシルの上から見下ろす私は、魔法の槍を発生させながら途方に暮れる。
レン君が囲まれて攻撃されるのを防ぐために敵を攻撃していたのだが、煙が発生したので攻撃すればレン君に当たる可能性があるため、こうやって見ていることしかできないのだ。
「(そうだ!今のうちに魔力を限界まで溜めて大技を……)」
敵は目くらましをくらっている。つまりは私のことも見えていないはず。なら、その時間を利用して敵を一掃できる魔法を使おうということだ。
「(私ができるのは5属性魔法の……あれ?魔力が違う方向に……!?)」
これは……ハリセンの……!
ダメだ、これは……この『能力』だけは使う訳には……!
体内で生成された魔力が魔法発動のための場所、今回は手のひらなのだが、そこには集まっていかずに、脳に集まるのを感じる。
だが、魔力の移動は収まる感じがない。徐々にその濃度が高まっていく。このままはマズい……
あの人の『能力』なんて……絶対に……!
ーー
ボンッボンッボンッ!!
かなり早い勢いで兄弟の分身が消滅していく。反撃の手立てがない兄弟達はやられるだけだ。
が、そろそろ煙が収まりそうだな……
『……くくっ、やっと煙が収まったな。これでさっきと状況は変わ…なっ!?』
ボンッ!
セリフの途中で分身の一体が消滅する。
『な、何故お前がそれを……!?俺が知っている中でそれを使えるのは3人しか……!?』
「さぁな?ま、これでお前達も終わりってことなんじゃね?」
再び消滅する分身。
分身は一瞬、黒い炎に包まれたようにも思えた。
そして俺の手に持っていたのは……
焔を纏った黒い槍。
まるで死神の持つ鎌のごとく残酷なまでに鋭い槍先。
そして尋常じゃない量の魔力を迸っている。