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統治機関 白い箱〈首都シード〉
「博士、No.06が帰還しました」
「了解。通してくれ」
白衣を着た男はキーボードを打つ手を止めて回転式のイスを入り口の方へと向ける。その顔はニヤニヤとしていているが、目が笑っていないので何を考えるか想像し難い。
「只今帰還しました」
「おつかれ。久しぶりの外の空気はどうだった?」
部屋に入ってきたのはミリタリーの服に身を包んだ少女。フィフスとの闘いで魔力を消費したためか、疲れが見てとれる。
「特に何もありません。超能力の方も問題なく……」
「No.05は?」
「生きています。思ったよりも魔力による防壁が硬く……」
「なら良いよ、お疲れ様。またいつもの所でスリープしておいてくれ」
聞きたいことを全て知ったため、もう用はないといった素振りでパソコンに向き合う博士。
少女はいつもよりも鋭い目付きで博士の後ろ姿を睨みつける。
「……博士、私はいつになれば」
「博士?おいおい、2人の時はお父様と呼んでくれと言っただろう、白亜」
「……お父様、私の実験はいつになれば終了するんですか」
「さぁ?それは総帥の実験が終わり次第じゃないかな?でも、白亜にはもっと働いて貰わないとなぁ」
ニヤニヤと、笑うことをやめない博士。
白亜はギリッと歯を噛み締めると博士を睨みつける。
「おいおい、何だその目は?圏外で1人孤独に晒されて死にかけていた君を助けたのは一体誰だと思ってる?」
「……すいません。ですが、どうして私だけ……!」
「くくっ、No.05、No.07、No.08、No.12のことを言ってるのかい?
フィフスとトゥエルはまだ実験中、君と変わらないって教えたじゃないか。それにNo.07は失敗作、No.08に至っては偶然の産物だ」
「くっ……!」
白亜は悔しそうに視線を下に向けると黙ってしまった。
「完璧な実験体である君と彼らでは全然違うんだよ、それを理解してくれ。
……そうだな、スリープに入る前に良い事を教えてあげよう」
博士は机の上からプリントを一枚手に取って白亜に渡す。プリントには大きな見取り図と工程を描いたような物が表示されている。
「これは……本当にこの様なことが起きるのですか?推測によるものが激しいと思い…」
「この僕が推測するんだ。間違いない。必ず、必ず彼等はやってくる。君はそれの迎撃だ」
「……この2つの不安要素というのは?」
「半年ほど前に何者かがステルス爆撃機をほとんど破壊し尽くした。その時の犯人さ。そういう人物は大抵の場合、混乱に乗じて何かを起こすって相場は決まっているんだよ」
「ではもう一つは……」
「勇者さ。姿を確認したものはフィフスしかいないが、その勇者は今この世界で最も危険な人物だ。総帥が異空間で偶然見かけたとはいえ……彼については分からないことが多すぎる」
総帥は腕を組むと少し考え込んで立ち上がった。
「ちょっと機体の調整にいく。白亜もついでに調整だ、行くぞ」
「……はい」
そうして2人は白い箱の黒い闇の中へと消えていった。