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「…って、今日はそんな話をしに来たんじゃありませんの」
「彼氏でもできたの?」
「違いますわよ!大体、お父様は私の好きな人を……って、話を逸らさないで下さい!」
お父様は朗らかに笑うと机の上に置いてあったカードを手に取って私に渡してきた。
「何ですのこれは……」
「統治機関の本部、通称『白い箱』に入るためのカードキーだよ」
「白い箱の……!? 何でお父様がこんなものを…!」
カードキーは両面真っ白で、少し光を放っているようにも思える。統治機関の白い箱、この世界の中心と称すに相応しい存在。統治機関によってこの世界、シードの平和は保たれている。……ドラゴンや魔王と遭遇した私からすれば、胡散臭いものも感じますが。
「一応、統治機関とも接触はあるからね。今後、必ず役に立つよ。それより柊菜が今日ここに来たのは『ファーブニル』について聞きにきたんだよね?」
流石はお父様。全てお見通しですのね……
「そうですわ。実は、厳山の頂上で私が昔襲われた『ファーブニル』金色の龍と出会いましたの。しかもその龍はハーゲリオ産の機械で強化されてて……」
思い出すだけでも恐ろしさが込み上げますわ。あんな巨大なドラゴンと闘うなんて。
「僕の方にも統治機関から連絡がきたんだ。娘がドラゴンを一刀両断したってね。強くなりすぎだよね、柊菜」
「襲ってくるので身を守るためにやむなく斬っただけですわ」
「実はあのドラゴンは僕と統治機関で昔、開発したものなんだ」
お父様はテーブルの上のパソコンを操作すると部屋の照明が小さくなっていき、同時に大スクリーンが壁に現れた。
そこに描かれていたのは私が子供の頃に襲われたファーブニルそのもの。黄金の鱗が全身を覆い、獄炎を放つ猛々しい姿。
「柊菜は覚えていない思うんだけど、昔迷子になったことがあるよね。そしてその時にファーブニルに襲われた」
「はい……その時にあの方と出会って……」
「実はその時に柊菜の服から検出されたファーブニルの血を利用し、統治機関と提携してクローンを作るのというプロジェクトが行われたんだ」
「え……でも私はあの方に助けて……あれ?助けてもらった後……」
思い出せない。ある日迷子になって、居候させて貰った家がファーブニルに襲われて、そしてあの方に助けてもらって……そして?
「……僕が教えても良いんだけど、優月と約束したからね。その答えは統治機関の中にあるサーバーを調べてみれば分かるよ」
「お母様が……? でも……」
「頼む、これだけは僕の口からは言えないんだ」
あのお父様が頭を下げて私に頼み込む。
いつもは不真面目なお父様が、本気で言っている。
「分かりましたわ。いつか……その答えに辿り着いたとき、また話して下さい」
渋々だが、私は了解する。お父様と今は亡きお母様の意思なのであれば、それに反する訳にもいきません。