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ハーゲリオ財閥 本社〈首都シード〉
「しゅ、柊菜お嬢様!!旦那様は今、仕事中で……!」
「構いませんわ。どうせ趣味全開の仕事ですから」
「そうは言っても、連絡なしでは……」
使用人のメイド(名前何でしたかしら……)は私の言葉を受け、苦笑いを浮かべている。たしかこの人はお父様の専属メイドでしたわね。
「通してくれれば、お父様に給料の底上げを頼んであげても良いですのよ?」
「……それには及びません。私の忠誠心はお金などでは揺るぎは」
『柊菜かー?入ってきてくれー』
「……ですって」
「……お通り下さい」
言葉を途中で遮られ、バツの悪そうなメイドはかしこまると扉の横へと退いた。
私は重厚な作りのドアを開けるとその中へと遠慮なく入っていった。
今日は夏季休暇最終日。明日からはまたいつもの様に第一高等学校での授業が始まる。そういえばこの休暇は色々とありましたわね……特に『クルセイド』や『ファーブニル』との闘い。人生であれほど危険な目に合ったことがありましょうか? 神無さんとユウさんはトラブル体質なのですわね……
高級家具が部屋の大半を占め、所々に書類や工具が置いてある広い部屋。
その中央に金髪の十代……多く見積もっても二十代にしか見えない男性が座り込んでいた。
「おはようございます、お父様」
「おー、おはよう。見ない内に日焼けしたかー?」
「いいえ、いつもと変わりありません。高級日焼け止めクリームを使ってるのでUVケアは完璧ですもの」
「むむ、さすがは柊菜。ま、日焼けしている女の子も健康的で素敵だと思うけどね」
「お母様と同じで私は白いままで良いですわ」
「たしかに。母さんに似て綺麗になったなぁ柊菜も」
「そんなことはありませんわ」
私はお父様に素っ気ない返事をすると近くにあったソファに腰掛け、床に座り込んで何やら作業をしているお父様にの様子を観察する。
我がハーゲリオ財閥の重要産業は科学技術製品の企業向け開発。統治機関の兵器もこの会社で作成されたものが大半を占めている。あの科学技術の先端を担っている超科学研究所の機械も主にハーゲリオ産だ。
……といってもお父様がいじっているのはフィギュアですが。
「何とかなりませんのその趣味」
「これが僕の若さの秘訣なんだから無理だよ。母さんだっていつも言ってただろ?自分のやりたいことをしなさいってさ」
「それは信念の話でお父様のそのアニメのフィギュアを愛でる趣味とは異なりますわ」
私の言葉を聞いたお父様はぴたっと動きを止めると、俯いたままこちらを振り向いた。
「どうかな、この新作フィギュア。モデルは愛娘の柊菜ちゃーーん!」
「き、気持ち悪いくらいに精巧な作りですわね……」
「ほら、服を脱がせるとスク水ver」
「誰かこの変態親父を通報して下さい」
双剣『紫電』を顕現させるとお父様に向けて電流を放つ体制に入る。
「あっはっは!嘘だよ。これは僕のお気に入りコレクションの一つだからね。優月のもあるけど、あれは永久保存版だから見せてあげなーい」
「お母様の……?見たいですわね……って今日はそういう事を話にきたわけじゃありませんの」
お父様は私のフィギュアを机の上に飾るとふかふかと椅子に腰掛けた。このハーゲリオ財閥を1人で開業し、ここまでの大企業へと成長させた男がフィギュア大好きの変人だとは誰も思わないですわね……
それにお父様の若作りじゃ、私の方が老けて見えるかもしれませんわね……