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「ってお兄ちゃん!ぼんやりしてる場合じゃないよ!
お姉ちゃん達すごく苦戦してるよ!?」
「あ、ほんとだ。 ファーブニルだっけ?凄い炎吹くんだなぁー」
「楽観的過ぎだよ!ほらほら!パンあげるから頑張って!」
ムギュッと刀音はどこからか取り出したパンを僕の口に押し込んでくる。種類はカレーパン……
「あっつぁぁぁぁぁあ!!!!」
口の中に入ったカレーパンの中のルーが飛び散る。
「駄目だよお兄ちゃん!勿体無いよ!!」
「ぶはっぶはっ……か、からっ…!」
外気温は恐らく魔法無しでは丸焦げになってもおかしく無いほど高い。カレーパンは恐らくそのせいで加熱されていたのだろう。 しかもめっちゃ辛い。激辛だ。 よく刀音はこのカレーパンを食べれたものだ。
「な、何するんだよ刀音! こんなあっついの突っ込んだら火傷するじゃないか!」
「魔法で何とかならないの?」
「何とかならないくらい熱いの!」
神無が命がけでドラゴンと闘い、柊菜が過去のトラウマに怯えているというのに、僕と刀音はカレーパンに関しての熱論を繰り広げていた。
「……だから!カレーパンは熱くて辛いのが美味しいだよ!?」
「駄目だ駄目だ!カレーパンは中辛が良いんだ!」
「お兄ちゃん激辛食べれないの?ださーい……刀音でも食べれるのになー」
「ぐ……食べれるし!別に辛いの大丈夫だし!」
「じゃあ口開けてー?」
刀音は僕の背中に乗ったまま口元にカレーパンを近づけていく。先程の食べ跡からルーが少し出ている。ぜ、絶対熱いぞこれ……
「と、とりあえずさ、あの黒い塊を取り出さない?」
「えー逃げるのー?」
「良いから!『光陰の聖剛剣』!!」
刀音のカレーパンを無視して僕は魔法陣を発生させる。
その魔法陣は噴火口を全て覆うほどに大きく、中心に浮かぶ黒い塊を真ん中に抑えている。
「よし……顕現せよ聖剛剣!!」
「す、すごぉい!!」
ズズズッ……と鈍い音を立ててマグマの中から超巨大な大剣が発生する。その大きさはファーブニルと同じくらいと思えるほど大きく、もう武器としてみてもいいのか分からない。まるで巨人専用の大剣みたいだ。
マグマから突き出てきた聖剛剣はその刃先で黒い塊を突き刺すと持ち上げてマグマから取り出す。
黒い塊はマグマに沈んでいる部分は眩しいほどの光を放っており、ファーブニルの鱗のように金色をしている。
恐らく黒い部分は溶岩がくっ付いてできたのだろう。
「うん、これでいいね。後はあれから『厳光岩』をとりださないと……」
大量の魔力を生成していく。その量は神無の比などではなく、全身から魔力が粒子となって溢れ出してしまっている。 その魔力の量に驚いてカレーパンを落とす刀音。
あぁ…勿体無い……!
「五重魔法陣展開」
詠唱と共に聖剛剣によって空中に突き出されている黒い塊を五角形に魔法陣が囲んでいく。 それぞれの魔法陣には夥しい量の文字が書き込まれている。
今から発動するのは五重魔法陣の一つ。
特級魔法に相当する危険な代物だ。
だが……これに耐えられるなら『厳光岩』は神無の剣の材料に絶対に使えるはずだ!
「『五重魔法陣 参の型 慟哭』」
魔法陣が赤色に輝き始める。 その色は徐々に黒みも帯びていき、怪しげなオーラを放つ。光が強くなるにつれ、厳山自体が揺れ始める。
「轟け」
ドォォォォォッ!!!!!!!!
世界が轟音と赤い光で包まれた。