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とある廃れた街
僕と少女は残り少ない体力を振り絞って工場から街まで逃げてきた。
僕達が工場から出ようとした時に作業員に見つかって追いかけられていたのだ。
「はぁはぁ…っ!ここまでくれば大丈夫かな…」
「もう下ろしても良いよ?」
「君が勝手にしがみついてただけなんどけどね」
街は縦に長い建物が立ち並んでいたが、光はついていないものばかりで、人がいないのが何と無くわかる。
奇妙の街だ……
僕達は近くにちょうど座れそうなベンチを見つけて一息ついた。
「で、君の名前を聞いてないんだけど?」
「それは僕も一緒なんだけどね…」
ベンチに座るとすぐさまパンを頬張り始めた少女は僕のことを指差してきた。
「君が先に自己紹介するべきだよ!
こんな可憐な少女に剣を向けてきたんだからね!」
何を言うか、このゴミ少女は。
とは口に出せる訳もなく、僕は自己紹介を始めた。
「僕の名前はユウ=クレハ」
本名を言うのは久々だ。
イノセントでは皆、僕のことを勇者としか呼ばないからね。
ちゃんと本名で呼んでくれたのは彼女だけだったなぁ……
「ふぅん、平凡な名前なんだね!
私は刀音、ふふっ変でしょ?」
「僕の名前に比べればね……
あれ?姓はないの?」
「それがね、ないんだよねー」
これといった反応もせず、普通に姓がないことを明かす刀音。
「じゃあ黒羽 刀音にしたらどうかな?
兄妹ってことにすれば今後もスムーズにいきそうだし」
「黒羽…うん!いい名前だね!
よろしくユウお兄ちゃん!」
「お兄ちゃんか……ははっ、よろしく」
僕達は笑い合ったあと、極限まで減っていた腹を満たすためにパンを頬張るのだった。