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「きゃぁぁっ!何て大きさ……」
「こ、鼓膜が破れる…!」
僕達は皆、咆哮の大きさに耳を手で抑えて鼓膜が破れるのを防ぐ。
な、何だ……この声……どこかで聞いたことあるような……
「ゆ、ユウ!見てくれさっきの機械!」
「これは……っ!ど、ドラゴン!?」
僕達が見たのは先ほどの機械が形を変えていき、ドラゴンの形へと成り代わったところだった。
頭、翼、脚は全て機械に覆われており、先ほどの姿は身体を翼で包まれていたのだろう。
全長は5メートルほどで、翼と腕、脚をそれぞれ兼ね備え、口から覗くその歯はトラの様に大きく鋭く、爪も同様に堅固で、それらに引っかかれたりすれば大怪我をおうだろう。
機械で覆われていない部分はビッシリと金色の鱗で覆われており、それがドラゴンだという事を示している。
何故こんな所にドラゴンがいるのか……
『クルセイド』の様に何らかの方法でこの世界に……?
イノセントにもドラゴンはいたが、こんな風に機械化されたドラゴンは見たことはない。
ということは、呼び出されたドラゴンが機械化された…?
「あれは……『ファーブニル』ですわ……」
「柊菜? あのドラゴンを知ってるのかい?」
「ええ……私が昔、あの方に助けられた時に襲ってきたドラゴンですわ。それに、あの形はお父様がデザインされた物……」
「お父様?君のお父さんがあれを作ったのか?」
「いいえ……少し違いますの……」
柊菜の話をまとめるとこういうことだ。
彼女は昔『ファーブニル』という黄金の龍に襲われて危うく死にそうなった。それを助けたのが彼女の想い人らしい。
で、その事を父親に話したら、ドラゴンの姿が気に入ったのか似たような動くドラゴンを作ったそうだ。 サイズは手のひらサイズなのだが、柊菜にとってはトラウマだったらしく、即座に廃棄処分になった。
それ以降は一度も目にしたことがなかったのだが……
「どうしてこんなに大きくなってますの……?」
「お、おい!ファーブニルだったか? こっちを見てる気がするぞ!?」
先ほどからファーブニルは僕達の方を凝視して動く気配がない。
「か、帰ろか?」
「ですわね……」
柊菜が少し身体を動かした途端……
「ガァァッ!!!」
ファーブニルが咆哮と共に動き出した。
「ま、まずい…! 全員武器を出せ!!」
ファーブニルはその機械化された大きな翼で宙に浮くと、物凄い速さでこちらへと突っ込んできた。
「『光陰の聖滅剣』!!!」
空に描かれしは巨大な金色の魔法陣。
僕達とファーブニルの間にそれは発生し、次々と聖滅剣を放射していく。
「ガァァッ!!」
その攻撃を避ける為にファーブニルは軌道をズラし、僕達から少し離れた崖に頭から突っ込んだ。
崖は激しい音を立てて粉砕され、そこからは砂煙が発生している。
「ど、どうしましょう……」
「ファーブニル……ドラゴンか。
丁度良い……ユウ!!」
「神無? 変なこと考えてないよね?」
身の丈よりも巨大な大剣『滅神剣』を片手に持った神無は怪しい笑みを浮かべる。
「ユウは鉱石を採ってきてくれ。
あのドラゴンは私達がやる!」
「絶対そうだと思った!!」
神無は滅神剣を振りかざしてファーブニルのいる壁際へと走っていった。
「わ、私もですの…!?」
「ゴメン柊菜、僕の暑さ軽減魔法は触れてる者にしか効果がないんだ……
神無の助太刀よろしく!」
「そ、そんなぁぁぁあ!!?」
柊菜はトラウマ持ちの相手に闘うのがかなり嫌らしく、大声を上げて抗議をしていた。
「よ、よろしくね……」
僕は刀音を背負うと、暑さ軽減魔法を発動して鉱石があると思われる火口付近へと向かった。