8
とある工場
「……ぐっ…」
強烈な頭痛に襲われたが、なんとか意識がはっきりとしてきた。
「ここは…さっきの……」
意識を取り戻した僕が倒れていたのは先程のゴミ工場。
「一体…何が……」
思い出せない。
殴られてからの記憶がほとんどない。
でも確かなのは……
「全員……気絶してる…」
そう、僕を襲った工場の人々は全員意識を失って倒れていた。
意識を失っているというより、何か根本的なものがこの人達には足りてない気がする。
「僕がやったのか……」
これほどの人数を全て僕が…?
それに僕がイノセントで得意とした攻撃方法は剣技だ、こんな風に何の外傷もなく気絶させることはできない。
「そう、君がやったんだよ?」
突如、後ろからかけられた声に驚き、思わず剣を手にする。
僕の剣は魔力で創り出したものだ。
「いきなり武器を取り出すなんて危ないよ」
振り返った先に立っていたのは少女。
ショートの黒髪に中性的な端正な顔つき、着ている服は真っ黒なドレスだ。
黒い瞳は僕のことを真っ直ぐに見つめていて、それには恐怖心や嫌悪感も何も含まれていない。
武器を取り出した僕が怖くないのか…?
魔力で構成されている剣は光輝いていて、普通の武器とは存在感が全く違う。
「うんうん、僕が怖くないのか?って思ってるんだね。その問いの正解は本当は怖いけど君は簡単に人を殺めたりしない人だから大丈夫と思っている、だよ」
少女は勝手に1人で推測をし、1人で話し出した。
なんだ……この子。少し変だ。
「変だって思ってるでしょ?心外だなぁ」
少女は首を横に振ると、ため息をつく。
「一週間もゴミ置き場で生活した仲なんだよ?
君は私のこと、よく理解してくれると思ったのにねぇ」
「き、君もあそこに……?」
まさか、自分と同じ境遇の人がいるなんて思いもしなかった。
言われてみれば、少女の服にはゴミが所々についていて、髪もツヤがない。
「ねぇ?」
「……なにかな」
一応、少女の言葉を信じた僕は剣を分解して消滅させた。
こんな小さな子があのゴミ置き場で一週間も暮らすなんて……考えるだけでもぞっとする。
僕ですら心が折れかけたんだ。
「……お腹すいた」
「……」
僕もだよっ!と突っ込みたくなるところだが、我慢して何か解決策はないか考える。
彼女は女の子でまだ小さいんだ。
空腹に耐えられなくても仕方ない。
「あ、あったあった!」
「ほんと!?」
工場の中を探し回り、僕は食料や飲料水が入っている冷たい箱を見つけた。
中から食べられそうな物を取り出して床に並べる。
箱のすぐそばにはパンなどが保管されているカゴもあり、何とか食料は確保できた。
盗みをするのはかなり気が引けるが、生きるためだ、仕方ない。
少女は僕が見つけた食料を目にすると綺麗な瞳を輝かせてパンを手に取った。
「ねぇ!食べていい?」
「いや、後にしよう。
もし工場の人が僕たちを見つけたら厄介だからね」
「えー」
少女は残念がると箱の中を漁り出した。
先程見つけたリュックに食料を詰め、暇そうにしている少女に声をかける。
「よし、出発しよう。
準備はいい?」
「うん……で?私のことは信じてくれるの?」
少女は先程とは違い不安げな表情で僕のことを上目遣いで見てくる。
本当のところは不安だったのだろう。
「うん、腹が減った時はお互い様ってことだよ」
「何それ、意味分かんなーい!」
きゃははっと元気に笑う彼女は、暗闇に指した一筋の光のように、僕に久しぶりの安心を与えてくれた。