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イスに座ると同時に俺は水色の髪で巨乳なエレナという女の子にビシッと言ってやった。
「ぷぎぃぃぃっ!何故貴様が俺様の本名を知ってるんだぁぁぁぁっ!」
「うるさい」
「冷た!!」
現在進行形でリビングのイスの上で氷漬けにされました。寝起きからダメージがすごいです。
「何でって……レンくん私のこと忘れちゃったの?
エレナよ?」
「巨乳?」
「エレナ」
「巨乳?」
「……」
ズガッ!
ミイから強烈な拳骨をいただきました。
てかこいつ自分が貧乳だから巨乳巨乳言ってるのが気に食わないんじゃないか?
「ロリっ子はお家に帰ってママのご飯でも食べてな!」
「死ね!」
「あばばばばば!!!!」
再び高圧電流。
「話が進まないんだけど……」
「ところで君はなんで僕の名前を知ってるんだい?キリッ 僕は人に名前を教えたことはないんだよキリッ」
そう、俺はこの本名が嫌いだ。
魔王のくせにレンだぜ?
そういうのはもっと金髪のイケメンにつけやがれってんだ。
あ、今の俺は金髪だった。ワロタ。
「もしかして……記憶喪失……とか?」
「はい記憶喪失です」
俺はこの巨乳ちゃんのことは一切知らない。同じくらい巨乳の女の子ならハーレムの中に何人かいたが、この子はしらない。
というわけで記憶喪失設定でいく方がなにかと都合が良さそうなので流れに合わせてそうしておく。
「やっぱりそうだったんだ……
私のことは覚えてないってことは……いつあたりから記憶がないの?」
「うーん…」
これは困ったな……下手に芝居すれば怪しまれるし、第一に俺は嘘が得意ってわけではない。
「この人、さっき自分のこと魔王って言ってた」
おいおいおいっ!ロリっ子!何余計なこといってやがんだ!
「魔王……?」
エレナが引き気味に俺のことを見てくる。おいおい、魔王ってそんなに変な言葉なのかよこの野郎。
「はぁ……じゃぁ一つ聞かせてもらいたい。
君達と俺の関係はどういったものだったんだ?」
過去形。
エレナの言葉から察するに彼女が俺と思っている人物は昔に行方不明になったようだ。
「……私とレンくんは幼馴染だよ。
ミイは5年前に森に倒れていたのを私が見つけて、それから一緒に、暮らしてるの」
「それ何てファンタジー?」
森に倒れてるのを助けて、しかもその後同棲?警察に送るなりするだろう。
「私も記憶喪失よ。しかも言葉も話す事ができなかったし魔法もほとんど使えなかった。
どういうわけか今はどっちも使えるんだけどね」
「だからって顔を火で炙るのはやめてぇぇぇっ!」
目覚めちまうだろうが。
「つまりだ、僕とエレナさんは幼馴染。
さぁ、王道巨乳ラブコメディのスタートだ」
「黙ってろ変態」
ダメぇぇぇぇっ!もう魔王のHPはゼロよっ!!
「というわけで」
「何も解決してないんだけど」
エレナがさっきよりも不審がって俺のことを見つめてくる。
「俺の家に案内してくれ」
パキッと氷を軽く破壊すると俺はイスから立ち上がる。
彼女と幼馴染イコールこの世界に住んでいたことがあるってことだ。あ、俺と激似のやつがな。
「それが……もう無いの」
「なん……だって……」
魔王は膝から崩れ落ちた!
もう魔王ライフはゼロのよぉぉっ!
「やだぁぁぁっ!家でニート生活するのぉぉっ!」
魔王城でも引きこもりがちだったし、俺。
パソコンいじりながらお菓子食べるのが日課だったし。
勇者倒すのはそれのついでね。
「私達が子供の頃にレンくんはいなくなったんだよ?
それに元々1人暮らしだったんだし……」
なぬっ!そいつはガキのころから1人だったのか!
……ぬ?俺も物心ついたころにはデスパイアで1人で生きてたぞ?
「そうか……記憶喪失で忘れてたぜ。
じゃあ俺はどうやって生きてければいいんだ!
助けて幼馴染!」
こういう時こそ幼馴染は頼りになるんだぜ?
そして天才な俺には未来が読めている!
「この家で暮らす……?」
「ぜひお願いいたします」
俺はジャンピング土下座を机の上にかました。
それくらいに居住に関する事は重要なのだ。
デスパイアで魔物を倒して魔王を目指していたころは野宿をしても平気だったが、現在の俺は大した強さじゃない。
さっきみたいなマッチョに捕まったらどうなるか分かったもんじゃない。
「こんな変態と一緒に暮らすなんて嫌よ!」
「すいませんねぇ、こいつ、話せるようになったの最近なんで戯言しか言えないんですよぉ」
「ンーッ!!ンーッ!!」
口を抑えられて声が出せずにもがくミイ。小さな体が激しく動く。
かなり苦しそうだ。
「じゃあ決定ね!
レンくん……私の名前も忘れてるん……だよね」
「あ、あぁ、すまない」
「はぁはぁ…はぁっ…」
少し物寂しげな顔をしたエレナだが、すぐ笑顔に戻った。
「エレナ=レストルトです!
レンくんと幼馴染で高校3年生です!」
「はぁっ…」
「高校てなにそれファンタジー?
レン=アクセル。史上最強の魔王様だキリッ」
決まった……やはり俺は魔王だな……
「はぁ…はぁ」
「はぁはぁうるせぃ!発情期か!」
「あんたのせいで息ができなかったのよ!!」
「ぷぎぃぃぃっ!!!
この痛み……ファンタジィィィィッ!!!」
こうして俺のSEEDでの異世界生活がスタートしたのだった。