8
「ニャァァ」
「どうした?腹でも減ったか」
いつの間にか出てきて早々腹減るとか豚猫だな!ぷぎぃぃぃ!
とか言ったら顔面引っかかれました、はい。
「つーか誰も見つからないなぁ……」
美女の意識が消えてからずーーっと歩き続けているがまだ誰とも会っていない。
やばい真剣にやばい。
テンプレなRPGならそろそろモンスターに襲われている女の子がいるのだが……
「ニ"ッ!?」
プリンが何かを感じ取ったかのように俺のマントの中に隠れる。
何だ?敵……
『侵入者発見。排除を開始します』
ウィィィーンッとまさに機械といえる音を鳴らして後ろから何かが近づいてきた。
ダンディな、しかし抑揚のない低い声だ。
「つーか何かおかしな形してっぞ!?」
ガッチャンガッチャン言わせて走ってきたのは、体に機械を引っ付けた人間だった。
が、人間だからと言って気を休めることはできない。
なぜならそいつは……
「が、ガチムチだぁぁぉぁぁぁぁぁぁぉぁぉぉ!!!」
そう、筋肉モリモリのガチムチマッチョが頭にヘルメット型の機械、男を象徴する箇所にも機械をつけて走ってくるのだ。
恐怖以外の何物でもない。
「掘られる!絶対掘られる!!」
俺は全力でダッシュを始めた。
魔王モードならぶっ飛ばしてやるとこなんだが、まだ強い魔法が発動できないため逃げるしかない。
『目標に攻撃開始。
マッスルマッスル』
「な、な……! やっぱこいつ!
ガチムチっ!」
全力で森をかける。
ガチムチマッチョは1番苦手だ。
というより俺は女の子が好きだ。
だから勘弁してくれよぉぉぉっ!
……。
…………。
…………………。
拝啓 勇者に連れ去られた我がハーレムの美少女達へ。
私は今、機械ガチムチマッチョに追いかけられております。
生憎、天気は快晴。
もし捕まれば白昼堂々、ケツの穴を掘られるでしょう。
だから私は走ります。
君達の元へと……
バチュッッ!
「あっちゃぁぁぁぁぁっ!!!」
熱い!くそ熱い!
右脚に火傷を負うレベルのダメージを負ってしまった。
俺は痛みに顔をしかめながら後ろを振り向くと、
『目標に攻撃成功。
掘りへと移行します』
腰の部分から火の球を飛ばしてきたのだった。
こいつ今、掘るっていったよね?いったよね!?
らめぇぇぇっ!そんなのらめならからぁぁっ!
こうなりゃヤケクソだ。
今出せる最大の魔力を練って魔法の準備にはいる。
魔王モードの時と比べれば天と地の差だが、これで何とかするしかねぇっ!
「って!おっ!少女発見!!!」
逃げるのに必死過ぎて気づかかったが、俺の進行方向に水色の髪をした少女が静かに立っていた。
機械ガチムチマッチョと金髪マント男が猛スピードで近づいくるのに冷静でいるとは何ていう少女だ……
って後ろから火の球をきてるのに危なくねえか!?
「アイス・フロア!」
魔王モードの頃に使えた簡単な魔法を使ってみたころ、いい感じに発動できた。
俺は手に作り出した小さな氷を前方の地面に放り投げる。
すると地面が氷に覆われて一直線の道ができた。
ちなみに少女の真横を通過させてあるので彼女は凍っちゃいねえぜ!
「ひゃっはぁっ!滑る滑る!」
俺は氷の道に飛び乗ると勢いよく滑り出す。ガチムチの奴は体重が重いからか乗ったとこからバキバキ割れていった。
これは……勝った!
「さぁ、いきましょう」
少女をすれ違い様に抱きかかえるとそのまま俺は滑っていく。
「……」
少女は全く何も動じず、ただ俺の後ろを見つめている。
『マッチョマッチョ待っちょくれ』
「ドフュッ!?」
俺は肩を叩かれたので、そーっと顔を後ろへ向ける。
マッチョがまるでツバメが滑空するかのように俺の後ろを飛んでいた。
魔王、滅亡のお知らせ。
「こんなとこで死んでたまっかよぉっ!」
俺はそう叫ぶと少女を抱きかかえたまま体制を低くする。
するとスピードが今までの比じゃなくなる。
重心を低くすることで空気抵抗や何か色々etcを減らしたのだ!
「ひゃっひゃっひゃっ!魔王様を捕まえようなんざ百年早いんだよ!」
高笑いしながら滑っている姿は優しい顔の少年に変身させられてもまさに魔王そのもの。
ガチムチマッチョは飛行しながら俺を捕まえようとするがそれ以上低空飛行できないのか俺には手が届かない。
「あばよぉっ!いい夢みろよっ!」
バシュッ!!!
マッチョに俺の捨てゼリフをかましてやったら何やら不吉な感覚に襲われる。
この感覚は……ついさっき味わったぞ。
「や、やっちまった……!」
俺は空中を飛んでいた。
簡単にいうと勢い余って空中に放り出されたのだ。
俺の作った氷の道は崖に通じていたのだった。
「ぉぉおおっ!? 何だこの街はっ!?」
目の前に広がっていたのは高層ビルの立ち並ぶ俺が住んでた世界とは全く対象的な世界。
道路には流線型のタイヤのない車が走り、空にはドデカい飛行船が。
ありえねぇ……
俺には驚嘆の一言しか出なかった。
こう見えても俺はデスパイアでは1人でパソコンを作ってしまうような男だ。それに電気を活用することもできないデスパイアの人々に使い方を教えたのも俺だ。
まず、原理が理解できなかった。
この俺が、理解できなかった。
それくらいまで、この世界は科学で満ち溢れていた。
「って!マッチョ!」
この世界に圧倒され過ぎて忘れていた。
俺はマッチョに掘られそうになっていたということを……
「ニャア」
「あっ!? ちょ、プリン出てくんな、危ない!」
「……!」
俺のマントから這い上がってきたのか、プリンは少女の肩の上に乗っていた。
ドクンッ!
「がっ!? は…… う、そ、だろ……」
まただ。またこの頭痛……
『フェーズ3 Step1完了。
X=システム起動再開』
俺の意識が消えそうになった時……
「アイス・スピア」
少女そう唱えるのが耳に入った。
このまま落下したら死ぬくね?
………。
と思いつつも意識は途切れた。