1.十☆八☆歳
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俺の名前は大津垣・龍之辰。言わずと知れたシャイボーイだ。
突然だが、不肖この漢、大津垣・龍之辰。つい先日を以ていよいよとうとう十八歳と相成った。
十八歳である。
十八歳だ。
十八歳。
思わずはな歌を歌わずにもいられない。
大いに人生の可能性が、いや世界が飛躍を始める記念すべき年齢だ。
この国ではさすがにまだ選挙権も与えられないし酒も煙草も不可ではあるが、車の免許くらいは取れる。
いやいや、肝要なのはそこではない。
十八歳だ。
十八歳である。
十八歳なのだ。
血気盛んな高校生男子としては誰しも一抹の興奮を覚えずにはいられまい。そこはいかに硬派なこの俺と言えどもある程度は否めない。
十八歳、である。
繰り返す。
十・八・歳、だ。
それが何を意味するかというと、まあ平たく言うと。
合法的に!
大手を振って!
堂々と!
胸を張り!
えっちな雑誌やえっちなビデオを鑑賞する事が許される年齢なのだ!!
これにテンションを上げない奴は男ではない、という事案には、さしものこの硬派な俺と言えども同意せざるを得ない。
つまり要するに。
俺のように無垢で世間知らずの青少年諸君が、未知なる新世界へと連なる大人の階段、その一段目へと踏み出したわけだ。
俺はその喜びに密かに打ち振るえ、家族内で催されたパーティで総計十八本もの蝋燭を一息で、いや二息、いやいや三息でようやく吹き消した後、自室の隅で人知れず身体を震わせていたものだった。
無論、自室の隅でヤラシイ行為に及んでいたわけではない。
ひ弱な己を叱咤し、栄光ある明日へと踏み出す決意を固めていたのだ。
不肖、この大津垣・龍之辰。
人をして日本一の硬派────いや、御近所一の硬派な男と言わしめる(と個人的に堅く信じている)俺は。
今日本日よりこの日をもって。
小さくも大いなる一歩を踏み出す。
これは人類にとっては小さな一歩に過ぎないが、一人の俺にとっては偉大なる飛躍である。
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