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「え~と、急だが、本日より、このクラスに三人の仲間が増えることになった。みんな、仲良くしてあげるように」
担任の声が何処か遠い世界の音に聞こえてしまう。
だが、どれだけ現実逃避をしても、何も変えられない。
黒板の前に立っている三人の美少女達は、現実で、本当に八見のクラスに転校してきたんだ。
「それじゃあ、三人とも、みんなに自己紹介をして下さい」
「はいはい。紫の名前は、立木 紫って言います~~~。みんな、よろしくだよ~~~。それと、先生、紫はちょうど空いているパパの隣の席に座りたいです~~~」
八見と同じ立木って名字の上に、彼のことを指さして、一切の躊躇いを見せずにパパと呼称した紫さん。
クラスの全員が不審者を見るような視線を八見に送ってくる。
「拙者の名前は、立木 スカイでござる。このような学園に通うのは始めて故、至らぬ所も多く、ご学友の皆には、迷惑をかけると思われるが、何とぞ、よろしくお願い申し上げる」
続いても立木姓だった。
場の空気を読んでか、紫みたいに八見の娘であるなんて爆弾発言はしなかったけど、クラスの八見に対する不信感はさらに高まっていく。
気のせいか、胃が痛くなってきた八見は、もはや、クラスメートの視線に耐えきれなくなって、窓の方へ向く。
「立木 命と申します。………よろしく、お願い致します」
最後の自己紹介は至ってシンプルだった。
八見は視線を清々しい青空に向けているけど、いつものクールフェイスで淡々と自己紹介をしている命の姿が簡単に想像できてしまう。
っと、気を抜いていると、
「立木 命と申します」
「のわ!」
想像通りのクールフェイスな命が、八見の真っ正面に現れていた。
ところで、八見の席、最後部なんだけど、一瞬でどうやって黒板の前から、ここまでやって来たっていうのだろうか?
「………よろしく、お願い致します」
「ああ………よろしくね」
「…………」
のけぞりながら、何とか返事をする。
満足したのか、しないのかよく分からないけど、相変わらずの無表情で小さく頷くと、銀髪ツインテール少女はゆっくりと歩いて黒板の前まで戻っていた。
………本当、心臓に優しくない娘さんだった。
「あ~それじゃ、クラスのみんなは、転校生の三人に学校のこと教えて上げて下さいね」
そして、締めの言葉と共に、ホームルームと八見の日常が終わりを告げるのだった。