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メイド服に身を包んだ銀髪ツインテールの少女、命の右手は握り替えされなかった。
八見は苦笑いを浮かべるなり、スカイの方へ向き直り、話を無理矢理逸らした。
「……三人なの? ねえ、スカイさんは、僕よりも情報を知ってるとか言っていたよね。正直もう、僕は頭がぐちゃぐちゃだよ。納得出来なくても良いから、少しは頭が整理できる情報をくれないかな?」
「心得たでござるよ、親父殿。まずは、拙者達娘の事でござるが………」
命が無表情に八見の顔を見つめて続けているかと思うと、
(やはり、要らないわたくしは、こちらの時代に来ても、変わらないのでしょうか………)
不意に、西洋人形のような端正な顔立ちをした少女の姿が消え、
「お父様」
「つぅぅぅ!」
突然と八見の眼前に姿を現した。すると、八見は驚きのあまり、地面へ倒れ込んでしまう。
「あな…あな……あなた、命さんって言ったよね。いきなり、何するの、ビックリしたよ!」
八見は、胸に手を当てて命をにらみ付けている。
対する命は、やっぱり無表情に八見を見つめ返しているだけだ。
「あはは、メイメイ。パパにかまって貰えなくて、寂しいからいたずらしたんだ~~~」
「そんな事はありませんわ、紫様」
「うわっ、超クールなアイスフェイスで否定されちゃったよ」
「ほらほら。とりあえず、紫殿も、命殿も、今は一時休戦でござるよ。ますは、親父殿に拙者達、娘三人の事を説明するのが先決でござろうよ」
両手を叩き、スカイが場を納めようとする。
「………は~い、わかりました~~~」
しぶしぶという風に紫は承諾していたが、何時のまにやら八見の隣にニコニコ顔で座っている。
早くもあきらめの境地にたどり着いてしまったのか、そんな紫に、八見もスカイも、もはや何も言わなくなっていた。
「良いか、親父殿。手短に説明すると、拙者と紫殿と命殿の三人は、それぞれ、異なる未来の平行線からタイムスリップしてやって来た、正真正銘、親父殿の娘でござる」
「………さっぱり、言っている意味が分からない………」
「つまり、紫達はパパの娘って事だよ!」
「そこはまだ分かるよ。納得は出来ないけど………」
「それじゃあね、パパはゲームとかプレイする?」
「まあ、少しは、かな。一応、携帯用ゲーム機ぐらいは持っているけど……」
「それだったら、エロゲとかのゲームって進めていけば、様々な選択肢があって、同じプレイヤーでも異なるエンディングを迎えちゃうよね。紫達はね、その異なるエンディングから、それぞれ来た娘って考えるのが良いらしいって、お空ちゃんが言っていたよ」
「つまり……未来は一つじゃなくて………その、それぞれ異なる未来って奴から、あなた達はやって来たというの? 何のために? それも三人同時に?」
すると、八見の娘らしい三人は、そろって困ったような顔を浮かべてしまった。
「う~んと、どうしてなんだろうね。紫、気がついたら、ここにいたから分からないよ。パパも紫の知っているパパより若いし、訳分からないよね~~~」
「拙者も同じでござる。ただ、意図的か偶然か、拙者達三人は、この世界に同時にやってきたのでござる。そして、互い同士の話をして、導き出した答えが、先ほどのタイムスリップでござる」
「少なくとも、確かなのは、わたくし達の誰も、自らの意志でこちらの世界にやって来た訳ではないと言うことです」
三人娘がそれぞれ、答えてくれた。
でも、バイト帰りにいきなり、三人の美少女に囲まれて、未来からやって来た娘ですって宣言されるとか、現実味がなさ過ぎて、簡単には信じられる訳がない。
「ねえ、かりにその話が本当だとして、いきなり過去に飛ばされた、あなた達は怖くないの?」
普通なら、いきなり見ず知らずの場所に放り出されてしまったら、怖くて仕方ないはずだ。
でも、三人の娘達は迷うことなく、答えてきた。
「大丈夫だよ。だって、紫は娘で、パパがここにいるんだから、寂しくも怖くもないよ」
「拙者も親父殿ことを信じているでござるよ。親父殿は必ず助けてくれるでござると」
「わたくしは、いつもそうでした。お父様が側にいて下されば、それだけで安心です」
八見は、両親に見捨てられた。
だから、見捨てられる事の、悲しさ、辛さは分かっているつもりだった。
そして、心苦しい時に手を差し伸べてくれるヒーローの温かさも………。
彼女達が、彼の娘だってここで証明する術は何もない。
でも、心優しい彼が、この三人をここで見放すなんて出来るはずがなかった。
◆ ◆ ◆
『システムの起動を確認。本プログラムはこれより、観察段階へと移行する。システムの起動を確認。本プログラムはこれより、観察段階へと移行する』