1-4
状況に付いていけない八見は、お化けでも見るかのように二人目の娘から差し出された手を凝視するしか出来ていない。
「紫殿、親父殿は、一体どうされたのでござるか?」
「あはは。紫の時も同じような反応されちゃったよ、お空ちゃん。なんだかね、パパは、まだ紫達が娘だって信じられていないじゃないのかな? もう、幾ら疑っても、真実は変わらないんだよ、パパ。紫達が、パパの娘なんだからね!」
紫は、栗色の瞳を丸々としながら笑いかけているが、八見は固まったままだ。
「なあ、紫殿は、親父殿に何を話されたのでござるか?」
「何って、え~とね。紫が、パパの娘だって事でしょう。後、パパの負けぷりがすっごく格好良かったって事と、紫の趣味と、パパのあそこについているほくろの話だね」
「………拙者達の詳しい話はしなかったのでござるか?」
「だから、もうしているよ。紫は、パパの娘だって」
「………なるほど、そう言うことでござるか。紫殿、よく考えるでござるよ。いきなり、拙者達のような同年代の娘が現れたら、普通は信じないでござるよ」
「え~~~。紫は親子の絆を信じているんだよ。だから、パパならきっと何も言わずとも察してくれると思うよ?」
「それは無理難題でござろうよ。拙者達はともかく、この世界の親父殿は、まだ拙者達と共に過ごした記憶はないでござるのだから」
さて、となれば、状況説明が先決………いや、それ以前に先ほどから固まって一切動いていない八見の目を覚ますことが先決だ。
「はてさて、どうされたものでござろう?」
これから、少しばかり難解な説明をしなければならないため、ここは一発で目を覚ましてもらう強烈なインパクトが必要だった。
スカイは、いたずらを思いついたかのように唇を歪めると、
ムギュッ
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
八見の手を取り、そのスイカ顔負けの大きさを持つ胸へと導いていった。
その大きさ、弾力、さぞかし揉みごたえがあることだろう。
両手がマシュマロの中に埋まっていくような錯覚を覚えてしまう。
左右にそれぞれそびえ立つ丘は両手を包み込んでくれるけど、そのそびえ立つ形を崩すことはない。
そのまま誘われるように力を込めて………。
「駄目ぇぇぇ~~~~~!」
「おわぅわ!」
と、紫が、二人の間に割り込んできた。
顔を真っ赤にして、八見のことをにらみ付けている。
「もう、パパのエッチ! そんなに触りたいなら、紫のを幾らでも触らせてあげるよ。でもね、パパは、紫かママ以外のおっぱいを触っちゃ駄目なの!」
そう言って、思いっきり八見の足を踏みつけてきた。
本気だった。これはかなり痛い。
八見は、涙目になりながら、紫の後ろに立つスカイを見るが、彼女は気にする風でもなく、眼鏡の奥の瞳を細めて軽く肩をすくめるだけだった。
確かに、誘ってきたのは、スカイの方だけど、その後の事は、八見の意志な訳で………どう考えても悪いのは彼でしかない。
「さて、拙者の胸は気持ちよかったでござるか、親父殿?」
「…………」
本心を言えば、『はい、とても、気持ちよかったです』
でも、そんな事、顔を真っ赤にしてにらみ付けている紫を前にして言えるわけがなかった。
情けないけど、八見は黙秘しか出来ない。
「うん。親父殿に喜んで貰えて、拙者も嬉しいでござるよ。しかし、親父殿は突然の事態に、困惑しているとお見受け致すが、大丈夫でござるか?」
「いきなり、自分と同年代の美少女二人に、娘だと言われて、混乱しない人がいたら、是非とも紹介して欲しい所だよ………」
「それもそうでござるな。正直、拙者達もいきなりの事態に少々困惑してござるが、少なくとも親父殿よりは現状を解明する事実を………」
「三人で、ございますわ」
「わっ!」
不意に第三者の声が鳴り響いたかと思うと、八見の真横に突如として三人目が姿を現した。
西洋人形のような端正な顔。
腰まである銀髪を左右で結んでいて、シックなドレスの上に、フリル満載なエプロンをつけているその姿は、何処からどう見ても、メイドさんでしかない。
でも、一番印象的なのは、まるで仮面を付けているかのようなその無表情な顔だった。
「え~と、一応聞くけど、やっぱり、キミも…………」
メイドさんは、表情一つ変えることなく、それが答えだとばかりに手を差し出してきた。
どうやら、八見の予想は正解のようだった。
「わたくしの名前は、立木 命です。これからお世話をさせて頂きます、お父様」
こうして、何の前触れもなく三人の娘が、八見の前に現れたのだった。