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「あれれ? どうしたの、パパ?」
紫と名乗った少女が八見を、下からのぞき込んできた。
まるで、おやつを前にした小犬のように栗色の瞳がきらきらと輝いている。
(これは一体、何の冗談なの? 娘? ちょっと待てよ、その設定は色々と無理があるでしょう。悲しいけど、僕はまだ、その……童貞のはずだし……そもそも、彼女と僕とじゃ、年は同じぐらいなんだよ! どう考えても、彼女が僕の娘って設定には無理があるでしょう!)
一方の八見は、もう頭の中、大混乱状態だ。
「あ! もしかして、紫がパパの娘だって信じていないでしょう~~~~。そりゃ、最初は紫だって、こんな事になってビックリしたけど、これが現実なんだよ、パパ」
「そんなニッコリと笑顔で言われても、信じられないって………」
「う~~~。もう、どうしてパパって親子の絆とか感じ取れないのかな? パパはパパなんだから、娘を見たら、一目で運命感じて、キミは僕の娘だ! って叫ぶぐらいして欲しい所だよ」
「………それ、ただの変質者だと思うよ。ねえ、キミは本当に、何者なの?」
「だから、紫は、パパの娘なんだって。パパってまだ信じてくれないの? そうしたらね、これでどう。昔一緒にお風呂に入っている時に気づいたんだけど、パパのあそこの先端には、ほくろが………ふぐぅぅぅぅ」
八見は、急いで紫と名乗った美少女の口を塞ぐ。
「どうして、誰にも喋っていない恥ずかしい場所の秘密を知っているの!」
「ふぐぅぅぅ、ふぐふぐ、ふぐぃいいいい!」
紫が涙目で八見に訴えかけてくる。
思わず、力を入れすぎたみたいだった。
慌てて、手を離すと紫は小さく深呼吸を繰り返して、息を整え始めた。
「もう、パパって強引なんだから。そんなに紫の唇に触りたかったら、言ってくれたら何時でも触らせてあげるよ。それと、お空ちゃん。凄いでしょう、紫が一番最初に見つけたんだよ」
「どうやら、そのようでござるな」
紫が呼びかけた方に振り返ってみると、長い髪をポニーテールに結っている長身痩躯の女性が立っていた。
銀縁の眼鏡がとても良く似合っている。
緩急がつい引き締まったその体は、紫とは違う美しさを秘めている。
っていうか、胸がもの凄く大きくて、まるでマスクメロンのようで、思わず目が釘付けになってしまうのは仕方ない。
そして、銀縁眼鏡のポニーテール少女が紫のように、当たり前のように手を差し伸べてきた。
「拙者、立木スカイでござる。不束者でござるが、よろしくお願い致すよ、親父殿」
そして、ごく自然に娘だと宣言してきた。




