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親子部 本日の議題:やっちゃんに悪口を書く首謀者は誰か?
もはや、“幸せ家族計画”の鱗片さえも感じさせない議題だけど、親子部の部室はこれ以上ない熱弁が繰り広げられていた。
「だから、紫は犯人を絶対に許せないんだよ!」
「それは、この紅恋愛も一緒よ。紅恋愛のやっちゃんを二度も傷つけた愚か者には、必ず制裁を与えて上げますわ!」
机をバンと叩きながら、紫と紅恋愛は同時に立ち上がり、
「縦ロールさん」
「立木、紫」
熱く拳を握り合った。
気が付けば、この二人、完璧に意気投合している。
「………まるで、わたくしよりも紫様の方が、本当の娘であるかのようです」
お盆に乗せたお茶を配りながら、相変わらずのクールフェイスで命が呟いている。
「何を言っているのですか、こんな騒がしい娘なんてごめんですわ。紅恋愛には、立木命みたいな優秀な娘の方が相応しいのよ。ちょっと、自己アピールが足りないのが、難点ですけどね」
「ありがとうございます。そして、申し訳ありません、お母様」
「気にしなくて良いですわよ。そこの所は、紅恋愛のメイドして、充分に鍛えて上げますから、覚悟なさいな」
「お手柔らかに、お願い致します」
お茶を配りながら、二人が親子の会話をしている。
命は自分の全てを説明した上で、紅恋愛の元でメイドとして働きたいと直談判した。
最初こそ、クーも突拍子のない話に目が点になってしまったが、それでも、紅恋愛は証拠なんて何処にもないそんな話を信じると宣言して、命が自分の娘だと受け入れたのだ。
「う~~~」
紫が親子として接している紅恋愛と命を羨むように見つめながら、呻いている。まだ一緒に暮らし始めて二週間も経っていないけど、紫が自分の母親である一美さんが大好きなことは、八見だって嫌なぐらいに実感している。
そして、表に出さないけど、彼女が凄く寂しがりさんなのも気づいている。
「パパ?」
八見はそっと紫のセミロングの髪に触れると、頭を撫でた。
父親経験の少ない彼に出来るのは、せいぜいこれぐらいだけど、少しは寂しさを紛らわせてやりたいって思ってしまうのは、彼も少しずつ変わってきたからなのだろうか?
「うぅぅぅんん」
一方大好きなパパの手が優しく頭を撫でられている紫は気持ちよさそうに目を細めながら、気持ちよさそうな声を上げていた。
温かくて、紫の全部を労ってくれるこの手が、小さい頃から大好きだった。
やっぱり、紫の知るパパと、ここにいる彼は一緒の人なんだだと再確認できて、勇気がわき上がってくる。
(ありがとうだよ、パパ。ママはまだいないけど、パパがいてくれれば、紫は大丈夫だよ)
コンコンコン。
「すみません、小野です。八見君、いるかな? ちょっと話したいことがあるの、入っても大丈夫?」
(ママだ! えっ、どうして、ママが親子部に来てくれるの? もしかして、パパと子作りしてくれるつもりなの! え~と、確か今日、保健室は健康診断で使っているから、ベットは使えないよね。体育館は………バスケット部は放課後から練習試合だから、大丈夫だね。それじゃ、ここは、薄暗い体育倉庫で、マットを引いて、決めちゃっおうよ、パパ!)
「紫様、お顔が、とてもいやらしく歪んでおります」
「のわっ!」
紫が目を開けると、年中無休アイスフェイスな命の顔が目と鼻の先にあって、思わず、ひっくり返ってしまった。
「全く、立木紫はどうせまた、下らない事を考えていたのでしょう。安心なさい、やっちゃんの妻となるべくは、この紅恋愛なのよ。あなたの出番はありません事よ! それよりも、ドアの前にいる小野一美も早い所、入ってきなさいな」
紅恋愛がまるで、親子部の部長であるかのように仕切っていく。
親子部を設立したのは、紫としては面白くなく、頬をふくらしてしまう。
「失礼するね」
一美が遠慮がちに親子部に入ってくる。
「ようこそ、親子部にだよ、ママ!………じゃなかった、一美さん。紫の調査によると、今日、パパとそういうことできそうな場所の有力候補は、体育館の倉庫だよ。ほら、早く、みんなで子作り………むぐうう……」
「あ~~~~~! 気にないで、もう分かっていると思うけど、気にしないで、一美さん」
「え~~と。うん、そうするね。さっきの紫さんの言葉は、私は何も聞かなかったことにしておくよ」




