1-2
壁に設置された大画面にライブ映像が映っている。
今年に入って無名の存在から、シンデレラストーリーとも言うべきサクセスストーリーで一気にトップアイドルに上り詰めた天才的な魅力を持つそのアイドルの名前は、小野 一美。
清流を彷彿とさせる黒髪に、新雪のように柔らかそうな頬の対比が美しい。
クルリとしつつも、芯に凛々しさを秘めている瞳はモニター越しであっても吸い込まれてしまいそうな魅力を遺憾なく発揮していた。
背はそこまで高くないのだが、手足が日本人離れてして長いため、ダンスの動きがとても良く映えている。
食い入るようにライブ映像を見ていた栗色の瞳の少女は、我慢が出来なくなったのか、やがて、小野一美の歌に会わせて踊っていく。
栗色の少女とライブ映像のアイドル、容姿が異なるはずの二人は、しかしまるで、同一人物であるかのように重なり合っていく。
「お疲れ様でした」
歌の波間をぬって、栗色の少女が、世界で一番大好きな声が聞こえてきた。
見れば、ちょうど彼が、私服姿で舞台裏のテントから出てくるところだった。
もうジャットルパーの衣装はもう着替えていることに若干、肩を落としてしまう。
(もうぅ、似合っていたから、一緒に写真取ってもらって、お空ちゃんや、メイメイに早速自慢しようと思っていたのに………残念だよ。って、急がないと、置いて行かれちゃうよ!)
「もうぅ、ちょっと待ってよ~~!」
「え? あ、キミは確か、さっきのショーにいた………」
「うん、その通りだよ。さっきのショーでの戦闘員ジャットルパー、もの凄く格好いい負けぷりだったよ。とくに、最後、レジェンド・フレアのパンチで、二回転半して殴り飛ばされる所なんて、これぞ、戦闘員の負け美学って感じで、大感動だったよ!」
「あはは、そう言ってくれると戦闘員名利につきるのかな? あはは………なんか、変わった子だね……」
「やっぱり、どの時代でも、こういうサブカルチャー的な物、楽しいから、夢中になっちゃうよね………特撮物しかり、アニメに、漫画、ラノベ、もう雑食で何でも来いだね!」
少女は、自信満々に、どんと胸を張ってみたけど、相対する八見は、少女の勢いに圧倒され、笑顔が引きつっていた。
「あはは。そうなんだ………。ま、僕も特撮系は好きだから、何とも言えないけど。それよりも、僕に何か用があったんじゃないの?」
「あああああああ! そうだった。ついつい、ジャットルパーの負けぷりの凄さに忘れる所だったよ。ごめんさないだよ。う~~と、そうだね、それじゃあ、まずは自己紹介だね」
そう言って、栗色の瞳を大きく輝かせている少女は、世界でいぃぃぃちばん、大好きな人に向かって、右手を差し出した。
「この世界では、はじめましてだね。紫の名前は、立木 紫、よろしくお願いだよ」
「……立木?」
「はい、そうだよ、パパ! もう、親子の絆がビビって来て、紫が娘だって一発で分かってくれたよね」
なんて、期待の眼差しで見つめられているが、初対面の女性にいきなり「パパ」と呼ばれてしまっては、普通、訳が分からずに頭がフリーズしてしまうことだろう。
八見も例外ではなく、笑顔が瞬間冷凍されたかのように凍り付いていた。