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一方、ドアの向こう側では、銀髪をツインテールに編み、西洋人形のように端正な顔つきを持っている命が、無表情で困っていった。
扉の向こう、親子部の部室はなにやらとても騒がしくなっている。どうやら、八見も紫も復活したみたいなので、そこは一安心だ。
しかし、みんなが中で一体何を話しているのかは、想像すら出来ない。
“エロゲ”やら、“中か外か”とか、果てには、“体外受精派”だと言う単語が扉越しに聞こえてくる。
親子部のモットーは、明るい家族計画なので、議題は間違っていないのかもしれないが、そのようなことをストレートに言葉にするのは、無表情だけど、純情な娘さんには、とても恥ずかしいことだった。
(わたくしも、いずれはお父様とそのようなご関係を持ってしまわれ………いいえ、違います、そのようなご関係を持つのは、わたくしではなく、お母様の方です)
とか思ってしまうぐらいに、恥ずかしさのあまり、動揺してしまっているようだ。
「とにかく、ボクを失望させないでくれたまえ」
部室に入るタイミングを逃していた命の目の前で、突如として扉が開かれた。
「っと、最後の一人か。面白いな。近くで見ても、相変わらずの無表情ぶりだね」
ゾネはそんなことを言っているが、実際の所、命は内心とても驚いて、心臓はこれ以上なく高鳴っている。
ただ、感情が顔に出ていないだけだ。
でもそれは、命にとってとても良いことだった。
こんな無表情な自分のことなど、誰も気にとめずに通りすぎて行かれれば、それで良いのだから。
今だってほら、無口になっていたら、白衣の美少女は、それ以上は何も言わずに、命の横を通り過ぎていった。
「ゾネは一体何しに来たんだろう………。あ、命もそんな所で立ちつくしてないで、早く入っておいでよ」
ドアの前で立ちつくしていた命に八見が声をかける。
(お止め下さい、お父様。このようなわたくしに気をかけて下さる必要は一切ないのです。わたくしは、お父様やお母様に…………)
「命?」
八見が訝るように首を傾げている。
ここで、下手に佇んでいると、変に心配を与えしまうだけかもしれない。
命は、早く部室に入ろうとしただが、
「こら~~~~~~~~~! やっちゃん~~~~~~!!」
上下に揺れ動く縦ロールを持つ美少女が、こちらに向かって駆け寄り、
「わっっきゃあああああ~~~~!」
途中で盛大に転んでしまった。
彼女の名前は、鴻乃院 紅恋愛。
………命の母親である。
響いてきた怒声と、何かがぶつかり合う音に驚いて八見が廊下に顔を出す。
ずっと廊下に立っていた命に視線で問いかけると、いつもの無表情で、廊下の先を指さしている。
「っわ、クーだ」
「ちょっと、っわとは何ですの? 言ってくるじゃありませんこと、やっちゃん!」
初恋の彼女は、相変わらずの地獄耳だった。
転んでいた状態から急いで立ち上がって、縦ロールを揺らしながらこっちに駆け寄ってきて………
「わきゃあああああ!」
また転んだ。
全くいい加減、自分は何もないところで転んでしまうドジキャラだって認めてしまった方が、絶対に楽だと思う。
でも彼女は、絶対に自分の属性を認めたりしない。
その後、さらにもう一回転びならがらも、紅恋愛が親子部に乗り込んできた。




