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彼の名前は、立木 八見という。
自由な校風で有名な葵高校に通っている高校二年生。
成績は半分からちょっと下に落ちたぐらい。
小さい頃に両親に捨てられたため、高校に入学するまでは孤児院で暮らしであった。
だが、今は、学校公認でバイトをしたり、お嬢様な幼なじみの助けもあって、なんとか生計を立てながら、一人暮らしを続けられている。
今日の八見のバイトはヒーローショーだ。
デパートの特設ステージの上で、真っ赤なスーツに身を固めた正義の味方、レジェンド・フレアが黒ずくめの戦闘員に迫っていた。
八見が練習通りのステップを踏み、繰り出された刃を避け、地面に崩れ落ちると、観客席から小さいけど精一杯の声援が、正義の味方に浴びせられる。
まだまだ駆け出しの八見はヒーロー役ではなく、邪心帝国ダイジャキガンの下っ端戦闘員、ジャットルパーだった。
戦闘員役の八見は一度舞台袖に引き下がる。
ステージ上では主役ヒーローが悪の怪人相手に正義の心を解いているけど、悪の怪人は一向に聞く耳もたない様子が若干コメディータッチに描かれていて、所々、子供達の笑い声が起きている。
日曜日だけあって、ヒーローショーを見に来ている子供達の姿は多かった。
中には絶対、子供連れじゃないだろうって感じの大人もちらほらいたけど、八見もこの年になってもヒーロー物が好きで、好きが転じてバイトまで始めちゃう、ある意味で筋金入りだ。
他人の事は何も言えない。
ステージ上では、正義の味方、レジェンド・フレアの必死の説得も虚しく、悪の怪人が逆上を初めて暴れ始めた。
「おい、出てこい、ジャットルパー。このくそ生意気なレジェンド・フレアを倒してしまえ!」
ステージ上で大見得を切っている悪の怪人から招集命令が出される。
さ、再びの出番だ。
八見は戦闘員独特の不思議な叫び声を上げながら、舞台に戻っていく。
ヒーローの仮面に比べれば格段に視界の良い戦闘員マスクからは、観客席がとてもよく見えた。
観客席に目をやると、子供達が必死にレジェンド・フレアを応援している。
そんな中、自然ととけ込むように一人の美少女がいた。
髪はセミロングに切りそろえられていて、柔らかそうな頬は、見ているこっちを不思議と穏やかにさせてくれるような気がした。
その栗色の瞳は、近くにいる少年少女達に負けて劣らぬほど輝いて、仮面越しに彼女と目があった。
「戦闘員、ジャットルパーさんも頑張ってねぇ~~~~!」
って、そこの美少女さん、ヒーローショーで戦闘員応援しちゃ、駄目でしょう!
ちゃんと空気、読もうよ。




