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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オンリー・イージー・デイ

世紀末サイバーパンクもの短編その2。短編としてはその4。

今日は雨が降っている。私が被っているガスマスクに水滴が着いて、視界を悪くしている。雨粒は細かなもので、レンズの表面を白い靄が覆っていく。数分おきに手でガスマスクのレンズを拭くことを強いられている。とはいえ、元々放射能汚染対策のために私は深緑色のレインコートを外出の時には必ず着用し、フードもガスマスクの中に埋めて隙間を無くしている。完全気密の服装だから、私の肌や髪が放射能塗れの雨に濡れる心配はない。


私はファーストフード店の廃墟へと裏口から足を踏み入れる。店の表の道路には、トタン板など付けて装甲車化した観光バスが一台停車してあった。両側の窓から二つずつ機関銃の銃身が飛び出し、見るからに野盗の好みそうな改造と塗装を施されている。その昔、町の外の人間を笑顔で送り届けてきた乗り物とは思えない様相だった。


間違いない。最近この辺のバンカーで恐れられている、その首に多額の賞金のかかったロクデナシ共だ。三年ほど前に姿を現し、バンカーの外で活動しているスカベンジャーや行商人を襲っているらしい。それだけなら大したことはない小悪党だが、どこで手に入れたのか、まだ動かせる大型バスを武装してしまってからは手が付けられないらしい。


私はそれを聞きつけてきた。従属させている炎の精霊を先日この辺りに走らせ、この廃墟から複数の熱源を探知した。だか今日は生憎の天気のため、炎の精霊を戦いの役に立たせることは難しい。晴天の日を狙いたかったが、悪党たちがこの場から移動してしまったらまた手間がかかる。私は1人で立ち向かうしかない。


私はガラス片と紙片が散乱している廊下を抜き足差し足で進んでいく。踵からゆっくりと、重みを意識して踏んでいる。どうしても小さくピシシとガラス片が割れる音がしてしまうが、どうせ標的の耳は私と同様にフードで覆われている。その上雨音がつんつんと鳴っている。この面では雨天の恩恵有りといえた。


正面で二つに枝分かれたT字路から足音が聞こえてくる。低く重みのある音からして、男のはずだ。そしてここを歩く男ということは、死を望まれるほどの悪党の1人ということだ。

私は曲がり角に近づき息を潜める。アーミーナイフを取り出し逆手に持つ。パシパシとガラス片を踏み潰す音が近づいてくる。直ぐ近くで欠伸の声。


今だ。私は身を翻すようにT字路の分岐へと躍り出し、目をまだ完全に驚きで見開き切っていない男の胸に手を当てる。アーミーナイフの刃先を敵の喉元に向けながら、左手ごと右腕を強く押し付け、バランスを崩した男は後ろへ容易く私に押し倒される。その勢いのまま、ナイフが敵の喉元に中程まで突き刺さる。激痛と驚愕で半狂乱に四肢を暴れさせ出したが、私は落ち着いて素早く左手掌をナイフの柄の先に当てて、グッと全力で押し込む。血がどっと溢れ出す。男の動きが完全に止まるまで数秒程度だった。瞳孔の開いた目を大きく見開いてそいつは死んだ。私はナイフを引き抜き、死体が着ている服の袖で刃にべっとりと付いた血を拭き取る。


とりあえずは男の死体を近くのトイレへと引きずり隠す。外の土より水道が機能していないトイレを利用するやつは滅多にいない。男の死体は防具をつけておらず、武器はナイフとアサルトライフルだ。私はアサルトライフルの弾倉と予備の弾倉を腰のポーチに入れ、ライフルをコッキングして薬室に収まっていた弾薬の一発まで取り上げた。それからガスマスクのフィルターと携帯食料、機器のバッテリーも頂いた。もう彼には必要無い。


何はともあれ彼のお陰で私のガスマスクの電源を確保できた。バッテリーを交換し、ARガスマスクのARモードを起動させる。場所、時刻、天気、気温と湿度が次々にガスマスクのレンズに写り始める。と言ってもレンズ自体よりも先、数十センチ先の辺りに淡く光っているように見えている。それから連携登録している私のショットガンと45口径ピストルの装弾数が隅に表れる。左手で時刻のAR表示を掴み、それを私の右手首に押し当てる。するとAR表示が手首にするりと巻き付き、腕時計のようになる。戦前の技術はほんとに便利だ。バッテリーすら用意できなくなる事態は今回で最後にしたいと常々思う。


準備を整えた私はトイレを後にする。廊下にARの矢印が浮かんでいる。私が来た方へは従業員用出入り口、私が今いるのがトイレや控え室方向で、ヤツがきた方向へは店内と案内がされてある。私は店内へと向けて歩き出す。


やがてこの店の核足るスペースに続く扉を発見する。向こう側から話し声が聞こえてくる。


「あぁ、寒いったらありゃしねぇな。誰かストーブを持ってこいよ。」


「バーカ、ストーブなら昨日ボスが壊しちまったろうが。スイッチの調子が悪いとかでキレてよう。そんなに暖まりたいなら、今日の午後はバスのエンジンの中で寝たらどうだ。」


会話の後に四人ほどの笑い声も続き聞こえる。スピード勝負になるが、この程度の人数なら私1人でも対応は可能だ。こういうヤツらは決まって一箇所に固まってくれるから助かる。私は背中にあったショットガンを、スリングを滑らせて前に回し構える。ガスマスクのARレンズにこのショットガンの射線と弾の拡散率が円形のレティクルとして視界に浮かび上がる。


「あー、さて。それじゃあそろそろシフト交代するか。これで久しぶりに温かいシチューが食えるよ。もうボソボソのメシは懲り懲りだ。」


「あいよ。俺は暫く女とヤれねえのがキツイな。だから今日来る前に商売女三人とヤり溜めてきたんだ。」


破片手榴弾を左手で掴む。この質感はいつも不思議に思う。暴発するのではないかという不安と、考えても仕方ないという理性と、これが私の最大火力という安心感の三つの気持ちを毎回私に覚えさせる。そして、今は三番目の気持ちが1番強い。


「ハハハ、バカなヤツめ。若い内はそれでもいいが、歳取るとそう何度もやれねえよ。メシ作ってくれるヤツ1人いりゃ充分。」


私は扉を少しだけ開き中の様子を素早く確認する。レジが幾つも並ぶカウンターが手前にあり、その向こう側の広いスペースにテーブル席が幾つかある。三人は部屋の右にあるテーブル席の一つに固まって座り、二人が左側のテーブル席に座っている。左側にいる1人は机に突っ伏して寝ている。予想より1人人数が多いが、問題は無い。


私は手榴弾のピンを引き抜き、右側のテーブル席へと向けて投げる。男の1人が被ってるヘルメットに当たり、カツーンと音を発して手榴弾は垂直に跳ね上がった。私は手榴弾が爆発する前に部屋の中へ姿勢を低くして飛び込み、カウンターの裏で丸くなって隠れる。


悪党共の誰かが「グレネードだ伏せろ!」と悲痛な叫びを上げた1秒後、それは激しく爆発し、辺り一面部屋中に衝撃波と殺人的な鉄片をばら撒く。


爆発の後に間髪入れず私は起き上がり、左側にいる男にショットガンからスラッグ弾をお見舞いする。破壊力抜群の弾丸は男の顔面に減り込み、背後の壁にその内容物を飛び散らせる。


キューン、という音が私のすぐ耳元で鳴る。弾丸が空気を切り裂く音だ。店の左側からもう一発弾丸が放たれ、レジを破壊する。どうやら寝ていた男は、意外に寝起きでも混乱せず反撃に移ったようだ。紙片が舞い散る中、私はショットガンを突き出してARレティクルをその男の胸に合わせ、スラッグ弾をぶち込む。防弾チョッキを着ていたようだが、男は一撃で相当なダメージを負ったようにガスマスクの中に唾を撒く。私は直ぐにショットガンをシャカンとコッキングし、続け様に胸に撃ち込む。更にもう一発放つ。絶対に胸骨と心臓を粉々にしたと確信し、私は店の右側へと歩き出す。手榴弾の破片で無数の鉄片に全身を貫かれた男が三人倒れているが、1人はまだ息をしている。恐らく、先程手榴弾をいち早く察知したやつだ。賢明にも何とか致命傷だけは免れたようだった。


その男の髪の毛を掴み引っ張りあげ、痛みで喘ぐのも構わず椅子にしっかりと座らせる。性能の高い防弾チョッキ、ピカピカのスライドの拳銃、手榴弾を2つ男は持っている。どうやらコイツがここのボスらしい。盗賊団のボスは私を睨み上げ、喘ぎ声交じりに口を開く。


「お前、クソ、俺たちを殺したからっていい気になるなよ……お前みたいな藪を棒で突くようなヤツはいいつか痛い目にあう。俺たちの壊滅だって、直ぐに他の盗賊団にだって伝わる!」


古い時代に流行った三流映画のようなセリフにしか私は聞えなかった。私は45口径拳銃を取り出し、男のコメカミに銃口を添える。


「そいつらも殺せば、もう一儲けさ。」


私は言葉を共に、弾丸を放った。





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