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運命の糸  作者:
4/10

両家の対立

美樹

晶さんは相変わらずよく分からない人です。私の名前を真剣な目で聞いて。聞いたとたんに驚いたような顔をして。これは百面相というものでしょう。おかしい方です。昔私が豆粒のように小さいときにもこんな方がいらっしゃいました。

私に話しかけてきて「何?」と尋ねても「なんでもない」というのです。しかも毎日。あんなにおかしい方は今も変わってないのかな?帰ってから卒園アルバムで名前を確認することにしましょう。気づけば私の家の前まで来ておりました。隣には晶さん。あっ!もしかして晶さんは私をここまで送ってくれたのでしょうか。なんて優しい方!確か彼の家は…どこでしたっけ?確か昨日一緒に帰っていたのですが、途中で晶さんは走って行ってしまったせいで私は彼のことを何も知らないのでした。今気づき少しショックを受けました。あれ?なぜこんなにも悲しいのでしょう。まだお菓子を食べてないからでしょうか。だとしたら、早く帰ってお菓子を食べなければ。っと、その前にお礼を言わなくては。

「晶さん。ここまで送っていただいてありがとうございました!」すると晶さんは不思議な顔をして「俺の家ここなんだけど」と言い私の家の隣を指しました。なんですって?!私はお隣さんの顔を知らなかったというのですか?私はなんて無礼ものでしょうか。「ご、ごめんなさいっ!」私は素直に謝ることにしました。すると彼は笑い「部活とかで全然合わなかったからな」と言ってくれました。あぁこんな私にも気遣ってくれるとは。まさに神です。その時私は彼の背中に羽が見えるようでした。「すみませんっ。じゃあ私は帰りますので」そう言い急いで玄関へ滑り込みました。その後母に顔が真っ赤ということを告げられ驚いたのは言うまでもありません。


これは…運命というものなのではないか?神は信じてはいないが、今だけは信じないではいられない。幼稚園の頃の初恋の子に中3になってまたその子に出会いしかもその子にまた恋をした挙句家まで隣だなんて。ふざけているのか?いや、これはふざけている以外何物でもない。神よ。今だけ信じてやるから俺の想いを届けてはくれないだろうか。その暁には…いい条件が見つかったら考えてやる。だから一つだけ願いを叶えてはもらえないだろうか。家に帰りぼぉっとしている俺に蹴りを入れた妹に気付かなかった。それほどぼぉっとしていたのだ。これは確実に重症だ。恋煩いだ。病気だ、病気。治療法は一つだけ。彼女が俺のことを好きになる。それだけだ。ただ…。その治療法はあまりにも困難であることをまだ知らない晶なのです。


美樹

お菓子を食べても、食べても心の霧は深くなるばかり。諦めて部屋で昔のアルバムを見ることにしました。懐かしいなぁ。

確か昔は髪が長くおしゃれだったっけ?服選びや髪形、靴選びにも気を使っていたような気がする。なんて女子力の高い幼稚園児!

それに比べ今の私は短い髪、しかも癖毛がひどく、学校は制服のため私服など数えられるほどしかない。靴なんてスニーカーと学校用の靴だけである。あぁあの頃は男子とも楽しく遊んでいたなぁ。人生最大のモテ期が10代未満だとは。驚きである。どんな子と遊んでいたっけ?そう思い一つずつ名列表を確認していく。懐かしい。思い出がつい最近の事のように頭に浮かんでくる。あの子とはよく鬼ごっこをしていたかな、とかあの子とはおままごとをよくやったな、とか。ん?

ふと一つの名前が視界に入った。日比野晶。…えぇぇっ!ま、まさか。隣の野球好きの晶さん?!今まで気づかなかった自分に驚くと同時に一つの思い出がまた蘇ってきた。毎日のように用もないのに話しかけてきた子。その子こそ日比野晶!自分はもう驚きのあまりムンクの叫びのようになっていました。その後同じ部屋の姉に心配されやっと我に返ったのです。しかし興奮は抑えられるはずもなく。

無意味に階段を上り下りし、すべての部屋のドアを開けていき、走り回りました。それもそのはずこんな状況で居ても立ってもいられる訳がないでしょう!走っている途中で母に呼び止められ散々怒られましたが、怒られている間も鼻息が荒かったと思います。私は怒られたついでに日比野家の話を聞こうと思いました。今まで彼の事を知らなかったことに自分に恥じたからです。


俺は家に帰ってからも落ち着くことができなかった。妹は今日いいことあったでしょと図星を突き、一瞬心臓が止まるかと思った。それでも心臓の音は速さを増すばかり。それにしても隣の家だったとは。ありえない。

母に佐々木さんの家の事を聞くとあの家は絶対ダメ。遠いご先祖様の時代から仲が悪いらしい。


遠い昔、戦国時代の頃。日比野家と佐々木家は共に織田信長につかえていたそうです。1581年の事である。信長から高野山を包囲するよう命じられたそうだ。高野山は1000メートルほどの山々の事で数十人の使者を送った。その中には日比野家と佐々木家も入っていたそうだ。二つの家同士は仲が良く無二の友人同士であった。そんな時である、高野山の住民が使者を送ったことにいち早く気づき使者達を襲撃したそうだ。使者は全員とらえられてしまった。その後全員殺された。そう信長公記は記されているが現実はそうではなかったようだ。殺されたのは確かなのだが、全員死刑台に乗せられた時だ。佐々木家の一人が高野山に仕えるから助けてくれ、日比野家は殺してもいいから自分たちは助けろと乞うたようだ。抜け駆けである。佐々木家はその一人を中心に土下座したそうだ。対して日比野家は信長を尊敬し尽くしていた。自分たちだけ助かろうとする佐々木家を恨みに恨んだようだ。しかし、自分たちもそれで助かるのなら、と佐々木家を殺せと言ったそうだ。その後両家とも殺されたがそれを見ていた佐々木家と日比野家の子供がそれを見ていたのだ。二人は見た光景をそのまま文書に表し、後から高野山の者に見つかり殺されたようだ。その文書は子供が死んでからすぐ見つかり母親同士は怒り狂ったのだ。佐々木家は日比野家が自分の家を裏切ったと感じ、日比野家はその逆だそうだ。


それからである。代々二つの家は争いが絶えず、俺の家を建てる時も揉めたようだった。自分は何も知らされていなかったのだと知ると悲しくなると同時に人恋しくなった。しかし、今は誰もいない。母は佐々木家の事を思い出し怒っているようだった。だからと言って美樹に会えるはずもない。母は俺に忠告したのだ。佐々木家には近づくな、間違っても娘なんかに手を出すな、と。俺は何が何だか分からなくなった。無性に叫びたくなった。叶わない恋。こんなに近くに不毛な恋があるなんて。神よ。こんな仕打ちはないだろう。この気持ちに気付いてから止められるなんて。ひどい。ひどすぎる。今夜は眠れるわけもない。



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