出会いの場
美樹
ある夏、美樹は次の小説のプロットを考えていました。美樹は想像力が他の人の何倍もあるため1つの小説を書くとき、設定などが無限に考え付くのでした。そんな時、公園でネタ集めを行っているとグラウンドで中学生野球をしている所が視界に入りました。そこで美樹は野球の物語を書こうと考えました。選手のファンが騒いでいる間に端の方に紛れ込みネタ集め開始。
1番最初に目がついたのがボールを構え座っている人でした。どんなボールが来ても確実に取るその姿を分で表し、他にもピッチャーの動きや、ほかの人の動きも観察するがやはり初めに目についた方が一番すごいと感じました。何故こんなにこの人ばかり気になるのだろう。そんな時です。その人が打ったボールが自分の真横をすり抜けました。たまたまボールを投げる方が不思議な玉を投げ私の方向に飛んできたのです。ボールを打つ方の後ろで座っている方が「ファウル!」と言い、また続きが始まりました。
先ほどボールを投げていた方が私のところに来てボールを拾い「大丈夫?」と聞きました。「当たらなかったので大丈夫です」と答えました。「内野席なんかにいるからだよ」とあきれた声で言いました。そのあと美樹が返事をする前に「ばーか」と言って戻って行ってしまいました。美樹は急いで不思議なボールのことやファウル、内野席という言葉を書きとめました。帰ってから調べるためです。野球少年の青春を描くためいろいろと書き留めました。そのあと美樹は改めて野球とは奥が深いと実感しました。結局私はゲームが終了し、片付けが終わるまで見ていました。いろいろメモをしてもうそろそろ、と帰ろうとした時です。
たくさんの女の子たちに囲まれました。そしてその子たちが口々に言うのです。晶を取ろうとするな。とかちょっと心配されただけでいい気になるなと言いました。私は晶って誰のことだろう?いい気になるってどういう意味だっけ?と考えていました。上の空の私に一人の女の子が美樹の髪を引っ張りました。その子はとてもお怒りのようでした。なぜ怒っているかなど美樹が知るはずもありません。そもそも「晶」という方を知らないのですから。他の女の子も蹴ったり殴ったりしました。
「皆様、なぜそんなに怒っているのでしょう?」正直に尋ねました。すると周りの女の子たちは晶を取ったから晶に近付いたからなどと晶、晶とうるさいものです。美樹は不思議になり「晶さんとはどの方のことでしょう」と尋ねることにしました。女の子たちが白を切るな、と口々に言い始めた時です。「俺が何って?」と後ろから声がしました。誰でしょう。この状況から考えて晶さんでしょうか?髪を引っ張っていた手がほどけ振り向くと先ほどボールを私の横に飛ばした方でした。そして私が一番に目についた方でもありました。女の子たちは皆目を見合わせ走って逃げ去ってしまいました。私はなぜ逃げたのかがわかりませんでした。
「大丈夫?」彼の声は改めて聴くと優しく甘い声でした。「はい。大丈夫です」と私は答えました。「ちょっと見せて」と晶は私の手を取り、腕を見ました。私の腕にはいくつものあざがあります。それは先ほど受けた傷でした。「これってさっきの傷?」私は「大したことはありません」と答えました。「そう」彼はそう言いうつむいたまま無言になってしまいました。
そのあと少し話してから帰ることになるのですが、彼は一人走って帰ってしまわれました。その夜、美樹はなぜか眠れませんでした。
晶
昨日の夜はなぜか眠れなかった。あの子のことが気になっていたから。しかし昨日名前を聞くのを忘れたことに気付いた。今日も来るかな。放課後が早く来ないかと授業中はそればかりだった。昼休み周りに女の子が集まり昨日の子の悪口を聞かされる。「そんなに言わなくてもいいじゃないか?」と言い(いつもだったら本当ウゼェと話に乗るのだが)教室を出る。すると昨日の子にばったりとあってしまいました。彼女は、うつむいていてこちらに気付いていないようでした。俺は向かってくる彼女の肩をたたき
「昨日の子?」と聞きました。するとその子は驚いて持っていた本を落としてしまいまいました。「あっ…」(そこでやっと美樹は気づいたようです)。晶は本を拾いどうぞと声をかけ、ついでに。「昨日の子だよね?」もう一度尋ねます。彼女は少し首をかしげてから「同じ学校だったのですね」と言って本を受け取り会釈して行ってしまった。こんな時普通の女の子なら確実に落ちてくるのに。面白い子だなぁと思い後姿を眺めていました。暇つぶしにからかってやろうかな。教室に戻るとまた女子たちが群がり「晶ぁ。なんであんな地味な子の見方をするの?」と口々に言います。
あぁ、ウザイ。こういう女子どもはもう飽きた。その時確かに地味な子だということに気付きました。昨日気づかなかった自分に驚いた。何人もの女と付き合ってきて初めてのことだった。なんだろうかこの胸の締め付けられる感じは?まるで少女漫画の主人公のようで。恥ずかしいけどその思いは消えなくて。たぶん今日もあの子は来る。俺の誘いで断るような女子はこの世にいない。いや、いるはずがない。せめて、変なところを見せないようにしなくっちゃ。
そして放課後。練習が始まるが女の子は来ない。初めは公園10周。それが終わったら試合が始まる。今日は確か、俺たちのチームが先行だ。俺は4番バッター。それまでに来てくれるか。「こらっ!日比野。女どもに騒がれているのはいつもの事だろ。ちゃんと集中しろ」コーチが怒っている。いつもは女たちの声がうるさいくらいなのに今日はそれが1つも耳に入ってこないほどボーっとしていたようだ。なぜだろう?気づけば観客の方を見ている。我に返れば女どもの色声が聞こえてくる。うるさい。ようやく10周が終わり、試合が始まる。まだあの子は来ていない。あれ?なんであの子を待っている?今まで彼女ができても早く来てくれなんて思ったこともない。自分がこんなにも焦ることはないのに。おかしい。昨日からだ。
試合が始まり3塁すべて埋まった。次は俺の番。あの子の姿はない。一歩また一歩とバッターボックスに近付く。客席を見てもいない。自分はどうしてしまったのだろう。たかが一人のことでこんなにも心が揺らぐなんて。ピッチャーが構えた。自分のバットを持つ手も強くなる。頭の中には打たなければというプレッシャーと、あの子のことがあった。野球と一人の少女が同じ位まで来ているなんて。ボールがピッチャーから離れた。まっすぐのボール。速い。しかし、そのボールが見極められないほど自分の目は悪くない。来た。
バットの芯にボールが当たりその刹那僕は走り出した。