第八話「そ、そんなことないぞ」
すみません今回も短くなってしまいました。
「真理ちゃん真理ちゃん。この服可愛くない?」
「いいねそれ。あ、こっちもどう?」
「それもいいなー」
今俺たちは長塚の意見で女物の服を見ている。
今いる店は色々な種類の服があり品ぞろえが豊富らしい。結構客がいる。
長塚と吉田はさっきから色々と服を見て楽しんでるようだが、俺たち男は疲れ果てて…
「なぁなぁこの服可愛くないか?」
「なんでお前まで楽しんでんだよ!?」
訂正、翔太も結構楽しんでいた。
「だってせっかく遊びに来てんだから楽しまないと損だぞ」
「お前に女装の趣味があったなんてな…」
「いやいやいや! 違うから別に女装が好きなわけではないから」
そんな必死に否定しなくても…
でも女装が趣味なんて堂々と言えないよな。うんうん。
「なんか一人で納得したような顔してるけどホントに違うからな!」
「わかったわかった。で、どの服が可愛いって?」
「ホントにわかったのか? まぁいいや、そんでこの服なんだけどな」
「…一つ聞いておきたいんだけど、その服って…お前が着るの?」
「だから俺に女装の趣味はないって!!」
どうしても翔太は自分の趣味を認めたくないようだ。
もしかして翔太は自分が女装が好きだってことに気付いてないのか!?
「そういうことか…」
「何が?」
「うわ!? 長塚…いきなり出てくるなよ」
長塚がいきなり目の前に現れるもんだから驚いた。
「なんか用か?」
「和也君にどっちの服が好きか聞こうと思って」
「お前もか…」
翔太といい長塚といい何で俺に聞く?
吉田にでも聞いた方がいいと思うんだが。
「どういうこと?」
「さっきまで翔太にこの服が自分に似合うかどうか聞かれてたんだよ」
翔太の持っている服を指さしながら言ってやった。
「え?」
お、長塚の顔が少し引き攣った。
「だから俺にそんな趣味はないって言っただろう!?」
俺は翔太に聞こえないように顔を長塚の耳に近づけ小声で
「翔太は自分が女装が好きだってことに気付いてないみたいなんだ」
と教えてやった。
「か、和也君。その…顔が」
長塚が顔を赤くして何か言ってる。
顔? それからすぐに気が付いた。
顔を近づけていたせいで長塚の顔がすぐ目の前にあったことに。
「わ、悪い!」
急いで顔を離した。
おそらく俺の顔も赤くなっているだろう。
「そ、それよりも今の話本当?」
「あ、ああ。おそらくな」
俺はチラチラと横目で長塚を見ながら答えた。
「っ!!」
「っ!!」
長塚と目があった瞬間急いで視線をを逸らした。
ああくそ。なんか調子狂うな…
「俺のこと忘れてない?」
…翔太のこと忘れてたわ。
「そ、そんなことないぞ」
「めちゃくちゃ目泳いでるんだけど」
「気のせいだって。なぁ長塚」
「う、うん。忘れてなんかないよ。」
「どうだか」
「それよりもその服きっと本多君に似合うと思うよ」
「おい和也! 長塚さんに何吹き込んだ!?」
「別に何も」
「何度も言うが俺に女装の趣味はないんだからな!?」
「わかってるって」
自分で気付いていないだけなんだよな。
「あ、皆さんこんなところに」
服を見ていたはずの吉田がこっちに向かってきた。
「有希ちゃん酷いよ。勝手にどっか行っちゃって」
「あはは。ごめんごめん。和也君にどっちの服がいいか聞こうと思って」
そういえばそんなことを言ってたな。
「俺に聞くより吉田に聞いた方がいいんじゃないか?」
「「えっ?」」
いきなり翔太と吉田が「こいつマジで言ってんの?」みたいな目でこっちを見てきた。
「…何?」
「いや、だって…ねぇ」
「はい。ですよね」
何なのこいつら? ケンカ売ってんのか?
「和也君ほらどっちがいいと思う?」
長塚は両手に持っている服を俺に見せてきた。
右手には薄手のチュニック、左手には薄い緑のワンピース。
「うーん」
数秒考え、
「右手のやつ」
右手に持っているチュニックを選んだ。
「これ?」
長塚がいちいち確かめてきた。
「そうだよ」
「ちなみにそれを選んだ理由は?」
「なんで翔太が聞いてくるんだよ?」
「いいからいいから」
「…別にただそっちの方が長塚に似合う気がしたからだけど」
こういうことを言うのって意外と恥かしいな。
「本当?」
「なんで嘘言わなきゃいけないんだよ」
「じゃあ買ってくるね!」
長塚はワンピースを俺に押し付けてレジに走って行った。
「ってそれ買うのか!?」
長塚には聞こえなかったみたいでレジで会計をし始めた。
「やはり決め手は、似合う…ですかね?」
「だろうな。言われた瞬間嬉しそうな顔したし」
後ろで翔太と吉田がこそこそ話している。
「二人で何話してんだ?」
「べっつに~」
「なんでもないので気にしないでください」
「気にしないでと言われても…」
だったらにやにやした目でこっちを見ないでほしい。
「何なんだよ」
「「気にしない気にしない」」
何この二人? なんか怖いんですけど。
「ところで吉田は何か買ったりしないのか?」
「え? 買ってますよ。ほら。」
吉田は紙袋を持ちげて俺たちに見せてきた。
「うわ、いつの間に」
「吉田さん結構買ったんだね」
「はい。少し買いすぎました」
服ってそれなりに高かったりするんじゃないか?
金は大丈夫なのだろうか?
「お待たせ」
長塚がレジから戻ってきた。
「あれ? 和也君ワンピースまだ持ってたの?」
ワンピースのことすっかり忘れてた。
「やっぱりそっちの方が良かった?」
「別にそういうわけじゃないけど…これどこにあったやつ?」
「それはここだよ」
長塚はすぐ隣を指さした。
「すぐそこかい」
ワンピースを片付けた後、俺たちは昼飯を取ることにした。