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第五話「はぁ、空が青いや」

休めた気がしない休日が終わり

週明けの月曜日

俺は今通学路を歩いている。

俺の周りに同じ学校の生徒はいない。

何故なら俺はいつも家を出る時間が早いから…

だったら良かったのだが、そうではなく今俺は絶賛遅刻中なのである。

起きて時間を見た時にはもう間に合わないと確信した。

なので俺は諦めていつもよりゆっくりと学校へ向かっている。

今学校は一時間目の途中だろう。

もう学校には着くので一時間目が終わる前までには間に合うと思う。

授業なんてどうでもいいのだがノートを写さないといけない。

先生の話はまともに聞かないくせにこういったことは真面目にやっている。

ノートなんて友達に見せてもらえばいいとか思うだろうが

残念なことに俺にはノートを見せてくれるような友達などいない。

別に頼んだのにノートを見せてくれないとかそういう意味ではなく、

気軽にノートなどの貸し借りのできるほど仲のいい友達がいないという意味である。

まぁそれはそれで残念な奴だとは思う。

だが俺が仲のいい奴を作らなかった結果なので文句は言わない。

他の奴に悲しい奴とか言われても俺は悲しいなんて思わない。

俺は自分で決めてこういう生き方をしてるのだから。

不便だなとは思ったりはするが…

実際にクラスの誰かにに頼めばノートぐらい貸してはくれるだろうが

俺はそうしない。

何故かわからないがそうしたくないのだ。

そんな理由で俺は今まですべての授業のノートを自分の力だけで写している。

ラッキーなことに高校生になってからは熱が出るときはいつも休日だったので特に問題はなかった。

前に一度だけ金曜日の朝に微熱が出たことがあったのだが、

次の日は休みなので無理をして学校に行ったことがある。

こんなことをしていたため、俺は去年一度も学校を休むことはなかった。

我ながらバカなことしてんなぁ。

何度そう思ったことか。

気が付けばもう学校だった。

俺は靴を履き替え教室へ


ガラッ


「遅刻だぞ宮野」

言われなくてもわかってる。

教室に入ってきた俺に言ってきたのは地理の教師の原田先生だ。

男なのだが噂では女装が趣味らしい。

ホントかどうかは知らないが。

「すみません。寝坊しました」

俺は自分の席に着いて授業の準備をする。

急いでノートを写さないと。

俺はノートを開いて黒板を…

「は?」

思わず声を上げてしまった。

「どうかしたか? 宮野?」

「なんでもないです」

黒板にはぎっしりと字が書かれている。

そりゃもうぎっしりと。

黒板の隅から隅へと。

何で遅刻した今日に限ってこんなに書かれてるんだよ…

いつもはこんなに書かないくせに、

少ない日なんか黒板に三、四行ぐらいしか書かないくせに。

とにかく写さないと。

授業が終わるまで後十分。

原田先生はさらに文字を増やしていく。

「ここ消すぞー」

「あっ、少し待ってください」

やばい急がないと字が消されてしまう。

「いいか?」

「あ、はい。そこはもういいです」

正直間に合う気がしないが諦めるわけにはいかn


キーンコーンカーンコーン


アウト!

間に合わなかった。

「今日はここまでだな」

「起立、礼!」

嫌まだだ。

まだ黒板の字は残ってる。

俺は諦めずに黒板の字を…

「日直めんどくさ~」

日直に字を消された。

めんどくさいならやらなきゃいいじゃん!

結局黒板の字は消され、俺はノートを写すことはできなかった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




昼休み俺はいつも通り屋上で昼飯を

「はぁ~」

食べてはいなかった。

別にこんなことぐらい気にしなくてもいいとは思うが、

ここまで頑張ってきたのでなんか悔しい。

「はぁ、空が青いや」

空を見て現実逃避する俺。

屋上にいるので上を見れば空が広がっている。

広大な空に比べればこんなことはちっぽけなこと。

なんて割り切れるはずもなく。

「あーくそっ」

いっそのことこのままぐれてしまおうか。

そんなことを考えていると


ガチャッ


「は?」

誰かが屋上に来たようだ。

ってやばい!

もし教師だったらなんて言い訳すりゃいいんだ!?

ホント今日は厄日だな。

もういっそここから飛び降りてしまおうか…

「あ、和也君いた」

「………」

長塚がやってきた。

どうやら今来たのは長塚だったらしい。

「………」

「和也君どうかしたの?」

「いやもうさ…ここから飛び降りようかなって」

「ええ!? だ、だめだよ! そんなことしちゃ」

「ふっ」

「なんで鼻で笑うの!? 大体なんで飛び降りようなんて」

「そりゃ俺が寝坊したせいで…」

遅刻してノートが…ノートが!!

「え、そんなこと?」

「そんなことだと!」

「何でそんなに怒るの!? 一回遅刻した遅刻くらいで…」

「遅刻のことなんかどうでもいいわ!!」

「ええ!? なら何で怒ってるのか余計わからないよ」

「くそっ何で俺が遅刻した日に限ってあんなに書いてることが多いんだよ…」

「ああ、今日の地理書くこと多かったよね」

「油断した。ノートを写すだけと思ってゆっくり来たのが間違いだった」

ダッシュで学校に来てればよかった。

「和也君ノート写すの間に合わなかったの?」

「そうだけど…」

「ならノート貸そうか?」

「うん?」

「だからノート貸してあげるよ」

「………」

どうしよう…

やはりここは借りておくべきか…

でもよくよく考えてみると俺って長塚に助けてもらうこと多いよな。

アンパン貰ったり、昼飯奢って貰ったり。

また借りを作ることになるんだよな。

「あ、もう誰かに借りてる?」

「いや、そうじゃないけど」

借りを作ったのなら返せばいいよな。

ここまで教師の言うことは全て聞き流しノートを写すことだけを頑張ってきたんだし、

借りれるもんは借りよう。

「ノート貸してもらうわ」

「わかった。後で教室で渡すから」

「ああ」

そういやなんか忘れてる気が…

「和也君って昼休みいつもここに来てるの?」

「そうだけど……ってなんで長塚がここに来てんだよ!?」

聞くのすっかり忘れてた。

「朝に和也君とお話しできなかったから昼休みにしようと思ってたんだけど、よく考えてみると和也君って昼休みいつも教室にいないからこっそりと後をつけてきた」

ホントに油断してた。

いつもはもっと周りを気にしてたんだけど今日はノートのことでさっきまで地味にへこんでたからなぁ。

「屋上って鍵が掛かってて一般生徒は入れないはずだけど」

「俺は鍵を持ってるから問題なく来れる」

「何で和也君が屋上の鍵なんか持ってるの?」

「秘密」

「………」

長塚がこっちを睨みつけてくる。

「ジーーーー」

「………」

「ジーーーー」

「………」

「ジーーーー」

「ジーーーーって口に出しながら睨みつけるのやめてくれるか」

「ジーーーー」

「だから…」

「ジーーーー」

「…わかった。教えてやるから」

「ホント!?」

何故だろう?

長塚には勝てない気がする。

「俺が屋上の鍵を持ってる理由だよな」

「うんうん」

「それは去年に俺が拾ったからだ」

「拾った?」

「そう拾った。去年の今頃にな廊下に落ちてたんだよ」

「それをそのまま自分の物にしちゃったの?」

「最初は誰かの家の鍵かとも思ったんだけど、よく見たら学校のだったからな」

「だからって自分の物にするのはどうかと…」

「最初は大変だった。どこの部屋の鍵かわかんなくて休み時間になるたびに手当たり次第この鍵が合うとこさがして」

「そんなことずっとやってたの?」

「結構苦労はしたけどな。それで屋上の鍵だということが判明して今に至る」

「先生にばれたりしなかったの?」

「ばれそうになったことはあったけど何とかやり過ごした。そんで昼休みに教師が来ることはないとわかってからは昼休みだけ来てる」

「だから和也君昼休みに教室にいないんだ」

「ここのこと知ってんの俺だけだからのんびりできんだよ」

「でも私も知っちゃたよ」

そう問題はそれだ。

「このこと誰にも言わないでもらえると助かるんだが…」

「それはいいんだけど…」

なんか嫌な予感がする。

「私も時々ここに来ていい?」

そんなことだろうと思ったさ。

「俺ここで一人で過ごす時間が好きだったりするんだけど」

「たまに来るだけだから。お願い!」

どうしたものか…

さっき作った借りをこれで返したことにすればいいか。

来るのはたまにって言ってるし

「いいぞ。たまになら」

「いいの?」

「いいって言っただろ」

「やった!」

ずいぶんと嬉しそうだな。

「あ、早く食べないと時間が無くなっちゃう」

「ん、そうだなさっさと食うか」

「うん!」

俺は袋からパンを取り出し、

長塚は弁当の蓋を開け

…ん?

「お前も一緒に食うのか?」

「え? そうだけど」

長塚は「ほらっ」と俺に弁当を見せてきた。

長塚の弁当には卵焼きにウインナー、ほうれん草のおひたし、いんげんのベーコン巻き。

ご飯にはふりかけがかかっている。

「へ~美味しそうな弁当だな」

今更文句を言ったところで長塚は絶対にここで昼飯を食べるだろうから、

俺はもう何というか…諦めました。

「え、そう? これ私が作ったんだけど」

「へぇそうなんだ」

長塚って料理もできんだな。

「よかったら食べる?」

「ん? いいのか?」

正直なところ食ってみたいと思う。

「うん。よかったらだけど…」

「なら卵焼き貰っていいか?」

「うんいいよ。はい、あ~ん」

長塚は箸で卵焼きを摘み俺の口元に運んできた。

「…何やってんだ?」

「え? だからあ~ん」

「いや自分で食えるから」

「え~いいじゃん。ほら」

「いやだからいいって」

「ジーーーー」

「またそれか」

「ジーーーー」

「二度も同じ手には掛からないぞ」

「ジーーーー」

「まだやるか…」

「ジーーーー」

「………」

きりがないので俺は長塚が諦めるまで無言で目を合わせる

「ジーーーー」

「………」

「ジーーーー」

「………」

「ジーーーー」

「………」

「え、えっと」

長塚が頬を赤くしながら目をそらした。

勝った!

長塚に勝った!

「卵焼き貰うぞ」

俺は弁当箱から一つ卵焼きを摘み口に入れた。

「あっ」

「(もぐもぐ)」

「えっと、どうかな」

「(ゴクッ)ああ美味いぞ」

冗談抜きで美味かった。

「そ、そっかよかった。もっと食べる?」

「さすがにこれ以上食ったら長塚の分がなくなるだろ」

「別にそんなこと気にしなくていいのに」

「俺が気にすんだよ」

食べたくなかったと言えば嘘になるが。

「なら今度和也君の分のお弁当作ってきてあげようか?」

「………」

とてつもなく魅力的な提案をしてきた。

長塚の弁当を食う前なら「いらん」と一蹴できただろうが

今の俺はもう一度食べたいと思ってしまっている。

「……機会があったら頼む」

「うん!」

頼んでしまった。

それほどまでに長塚の弁当は美味かった。

「なら今度一緒にお昼食べるときに作ってくるね!」

「あ、ああ。よろしく頼む」

悔しいことに早く長塚の弁当をもう一度食べたいと思ってしまった俺だった。




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