第四話 「見たらわかるだろ? 先制攻撃だよ」
今日は日曜日、つまり休日だ。
今現在俺は一人で街をぶらぶらしている。
俺の休日を過ごし方は日によって違う。
昼過ぎまで寝ていることもあれば早起きすることもある。
ひどい日には夕方まで寝ていることもある。
早起きをしたときは今みたいに一人で出かけたりすることが多い。
はっきり言ってしまえば俺はいつも休日に暇を持て余している。
だから何か面白いことがないかと一人で街に来ているわけだ。
「なんかのどが渇いたな」
近くに自動販売機を見つけたので俺は財布をポケットから、
「あり?」
財布がない。
掏られたとは思えない。
そうなると…
「家か…」
俺は財布を家に忘れたらしい。
最悪だな。
こんな日はよくないことが起こる気がする。
今日はもう帰った方がいいかもな。
俺は帰ろうと来た道を戻ろうとしたとき、
「いいじゃん俺らと遊ぼうぜ」
「なんか奢るからさ」
「ほら一緒に行こう」
ナンパをしている連中が目にとまった。
「迷惑なんで」
ナンパされてるのはどうやら長塚のようだ。
何で休みの日まで長塚の顔を見なきゃならんのだろう?
ちなみにナンパされているのが長塚だから気になったわけではない。
俺が気になったのは、
「そう言わずにさ」
「俺らと一緒に遊ぼうよ」
「ほら一緒に行こう」
ナンパをしている三人組だ。
正確には三人組の髪型だが、
「ねぇ無視しないでさぁ」
「ちょっとだけでいいから」
「ほら一緒に行こう」
上からアフロ、モヒカン、リーゼントというものすごい組み合わせなのだ。
ところでさっきから気になっていたのだが、リーゼントの奴さっきから「ほら一緒に行こう」としか言ってないのだがほかに言えることがないのだろうか?
「もうやめてください。しつこいですよ」
長塚もからまれて迷惑してるようだ。
別に見なかったことにしてもいいんだけど
長塚には前に貰ったアンパンの借りがあるんだよな…
助けるべきだよなぁ。
となると問題はどうやって長塚を助けよう?
彼氏の振りでもするか?
でもなぁそんなことしたら……
「おい長塚」
「え? 和也君」
「すいませんこいつ俺の彼女なんで」
「はぁ冴えない顔しやがって失せろ」
「何?」
「てめぇなんかお呼びじゃねぇんだよ」
「言ってくれんじゃん、いかれた髪型しやがってそっちが失せろ」
「あぁん言ってくれんじゃねぇか」
「ちょっくら痛い目みさせてやんよ」
……とかなって思いっきりサンドバックにされるよなぁ。
一対一ならそれなりに自信はあるが二、三人を相手にしたら確実に負ける。
とすると俺がすべきことは…
「ねえねえ、いいでしょ少しくらい」
「だからしつこいって……へ?」
「んん? どうしたの? 一緒にお茶してくれる気に━━ぐべらっ!!」
俺がすべきことそれは
「な!? てめぇいきなり何しやが━━へぶちっ!!」
不意打ち。
正々堂々と喧嘩して勝てないなら不意打ちで相手の数を減らす。
モヒカンとリーゼントは倒した。
残るはアフロ!
「か、和也君!?」
「よう長塚、こんなところで奇遇だな」
「奇遇だなじゃないよ! 何してるの!?」
「見たらわかるだろ? 先制攻撃だよ」
「いきなり攻撃しちゃだめだよ!」
「よく聞けよ長塚。宮野家の家訓その一、やられる前に殺れ!」
「ホントにそんな家訓あるの!?」
たった今俺が作った家訓です。
「いい度胸してんじゃねぇか」
俺の目の前にはアフロ。
他の二人が目を覚ます前にかたずけるか。
「一つ聞きたいことがあるんだけど」
「あぁん?」
「なんで三人そろってそんな愉快な髪型してんの?」
「バカにしてんのかてめぇ、超かっこいいだろが」
どうやらこいつらは髪型どころか頭も愉快な方たちのようだ。
「ところでアフロ、後ろを見てみな」
「ん?」
「隙あり!」
俺は全力で蹴りをアフロの股間に放った。
「おふぅ〇✖★%!」
我ながら恐ろしいことをやってしまった。
「ほら行くぞ」
この隙に長塚の手を取ってこの場から離れよう。
「はぁ疲れた」
「ありがとね和也君。助かっちゃった」
「これで貸し借りはなしな」
「え? 何のこと?」
「前にアンパンくれただろ。これで借りは返したから」
「別にアンパンくらい」
「いいんだよ。これだ貸し借りはなしいいな?」
「うん。わかった」
疲れたけど借りは返せたし一件落着かな?
「でもやり過ぎじゃなかった?」
「何が?」
「あの人たちいきなり殴っちゃたりして」
アフロたちのことか。
「別にいいんだよ。ああいう連中にはあの方法が一番だ」
「でもどうせ助けてくれるんだったら彼氏の振りでもしてくれればよかったのに」
何故か少し残念そうに言う長塚。
それも考えたんだけどな。
「その場合俺はボコボコにされてたよ」
ああやだやだ。
「んじゃ俺帰るわ」
「帰っちゃうの?」
「特に目的があってここに来てるわけでもないしな」
「なら私の買い物に付き合ってよ」
「は?」
「特にやることもないんでしょ? ならいいじゃない」
「そんなことは誰か友達にでも頼めよ」
「だから友達の和也君に頼んでるんじゃない」
「俺以外の奴に頼め」
「真理ちゃんやほかの子も今日はようがあるんだって」
「そりゃ残念だったな」
「ねぇだめ?」
なんか長塚が上目使いで言ってきた。
これはあれか?
狙ってやってるのか?
不覚にも一瞬可愛いと思ってしまった。
「それに一人でいたらまたナンパされるかもだし」
長塚ははっきり言って可愛い方だからありえなくはない。
「和也君がいてくれたら心強いなぁ」
だんだんと追い詰められている気がするな。
「それとも私と一緒にいるの嫌?」
今にも泣きだしそうな顔をしてそんなことを言われると正直断れない。
これはもう俺の負けだな。
「わかったよ。少しだけお前の買い物に付き合えばいいんだろ」
「いいの?」
「いいよもう俺の負けだ」
「やった! ならさっそく行こう」
そうして俺は長塚の買い物に付き合うことになった。
「んで、どこ行くんだ?」
「ん~とね、まずは服を見ようかなって思って」
これはもしや荷物持ちとかさせられるのか?
いやまぁ別にいいんだけどな。
そんなこんなで俺は今長塚と一緒に服を見て回っているわけだが、
「あ、この服可愛いかも」
長い!
よく女の子の買い物には時間がかかるなんていうがホントに長い。
もう結構な時間服を見ている。
「和也君この服私に似合うと思う?」
そういって長塚は薄ピンクのカーディガンを俺に見せてきた。
「ん、まぁ似合うと思う」
ていうか長塚なら何でも着こなす気がする。
そういえば、
「今更だけど長塚の私服初めて見たな」
長塚はチェック柄のマキシ丈のワンピースに白のカーディガンを着て、涼しさが感じられる格好だ。
「ホントに今更だね。それに私だって和也君の私服姿見るの初めてだよ」
俺はジーンズで黒のインナーにTシャツを着ている。
ちなみにTシャツは家にあったものを適当に選んで着た。
俺はあまり服装を気にしない。
変に目立つような服装だったり、あまりにもダサい服装でなければ地味でも何でもいいと俺は思ってる。
「もうこんな時間だね。そろそろお昼にしよっか」
気が付けばもう昼だった。
相当な時間服を見ていたことになる。
「お昼どうする? ファミレスにでも行く?」
長塚が昼はどうするか聞いてきたが、
「悪いが俺は昼飯はパスだ。どうしても食べたきゃ一人で行ってくれ」
「え? どうして?」
そんなこと決まってる。
「財布を家に忘れたからだ」
「じゃあ今お金持ってないの?」
「ああ。財布を忘れたことに気が付いて家に帰ろうとしたらナンパされてる長塚を見つけてな」
「そして今に至ると」
「そういうことだから俺は昼飯が食えないわけだ」
「そっか。ならそうだな…」
「どうかしたか?」
「なら私がお昼奢ってあげるよ」
それは魅力的な提案だが
「そうするとまた借りができるから遠慮する」
「私は借りとか気にしないからさ」
「俺が気にするんだよ」
「だったらお昼奢る代わりに午後も私の買い物に付き合って。それでいいでしょ」
つまり今日一日長塚の買い物に付き合うことになるわけか…
正直なところ腹減ってるんだよな。
「う~ん」
「ねぇいいでしょ。好きなだけ奢ってあげるから」
「…わかった。それでいい」
空腹には勝てなかった。
「ん、なら行こっ!」
俺は妙にご機嫌な長塚と昼飯を食うことにした。
その日は結局ホントに一日買い物に付き合わされた。
「今日はありがとね」
「俺も昼飯奢ってもらったからなお互い様だ」
今俺たちは家に帰っている途中なのだが
「ところで長塚の家ってこの辺なのか?」
「そうだよ」
俺の家もこの辺りなのだが意外と家が近くなのかもしれない。
「あ、私こっちだから」
「家まで送ってくか?」
「ううん大丈夫。私のうちもう近くだから」
「そうかじゃあまたな」
「うんまた明日」
俺は長塚と別れて家に向かう。
休日なのに休めた気がしない一日だったな。
でもなんだか少し楽しかったような気がしないでもない一日だった。