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第二十六話「誰のせいだと思ってんだ!?」

「飯できたぞー」

有希が家で夕飯を食うことになった。

で、その有希はというと、

「それでですね、和也君は……」

母さんと話し込んでいるせいで俺の声も聞こえてないようだ。

「飯できたって」

もう一度呼びかけてみたが、

「へぇー。和也ってやっぱり学校じゃそんな感じなのね」

母さんも俺の声が聞こえていない。

「おい! 飯できたって言ってんだろ! 冷めちまうからどっちか運ぶの手伝ってくれ」

「和也うるさい! 少し黙っときなさい!」

訂正。母さんはわざと俺のことを無視していた。

「母さん今さっきまで、お腹すいた~。とか言ってただろ!? 飯できたんだぞ!」

「ご飯なんて後でいいわよ!」

…酷くない? 

「あ、和也君。ご飯できたの?」

落ち込んでいると有希が俺に気が付いてくれた。

「あ、ああ! そうなんだ、できたんだ!」

「え、ええと。何でそんなに嬉しそうなのか分からないけど、それなら運ぶの手伝うね」

有希はその場から立ち上がると、キッチンの方に歩いて行った。

やばい。今、俺の中で有希の株が急上昇している。

「いい子よね。有希ちゃん」

「母さんとは比べ物にならないくらいにな」

さっきまで母さんにこき使われていた分、有希の優しさが身に沁みる。

「本当、有希ちゃんみたいな娘が欲しかったわ」

「悪かったな俺みたいな息子で」

「誰も和也が嫌だとは言ってないわよ。色々と使いやすいし」

今、自分の息子を使いやすいとか言ったぞ!?

「母さんって本当に俺の親? 実は血とか繋がってないんじゃないの?」

「バカ言わないの。和也はちゃんと私がお腹を痛めて産んだ子よ」

「にしてもさ、実の息子に対する扱いが酷くない?」

「バカな子ね。息子だからこそ、そういう扱い方をしてるのよ。和也以外にはもっと優しく接してるわ」

「できたら俺にも少し優しく接してくれると助かるんだけど」

「アホね。嫌に決まってんじゃない」

「嫌って何だよ?」

「クズね。私がいきなり和也に優しくなったらどう?」

想像してみた。母さんが俺に飯何を食いたいか聞いて作ってくれたり、疲れている俺に気を使ってくれたり、その他色々。その結果、

「…ないわ」

色々と楽にはなるけど、正直気持ち悪い。何か悪いもんでも食べたんじゃないかと心配になる。

「ゴミが! そういうことよ」

「てか、さっきからちょくちょく俺のこと罵倒しないでくれる!? 後、バカとアホはまぁいいとしても、クズとかゴミはさすがに酷いだろ!?」

「やーね。私なりの褒め言葉よ」

「絶対に違うだろ!」

「あれよ、あれ。…えっと、ツンデレ?」

「ツンデレバカにすんな! 大体デレたことないだろ! 母さんがデレたところで気持ち悪いだけだけど」

「私、健斗さんの前でならデレデレよ」

「知ってるわ! いつも俺の前で父さんとイチャイチャしてるもんな!」

見てて嫌になるから、出来たら俺のいないところでしてほしいと切実に思う。 

「和也君。持ってきたよ。これ、どれが誰のとか決まってる?」

母さんと話していると、有希がお皿に乗ったハンバーグを持ってきてくれた。

「決まってないから好きなの選んでいいぞ。と言っても、大きさはどれも同じだけど」

そう言いながら、俺もキッチンに向かう。有希にだけ運ばせちゃ悪いからな。


「ご馳走様でした!」

飯を食い終わったので、食器を片づけ始めた。

「和也君。手伝おうか?」

食器を洗っていると、有希が俺の隣にやって来た。

「別にいいよ。どうせいつもやってることだし。それより、有希はそろそろ帰らなくていいのか?」

時間は既に七時を過ぎている。夏だからまだ明るいが、早くしないとその内暗くなってしまう。

「帰るけど…」

有希は俺が洗っている皿を見ながら、申し訳なさそうな表情をしている。

「だから片付けは別にいいから。帰るなら早くした方がいいぞ」

「分かった。じゃあお言葉に甘えるね」

有希は帰る支度をするため、リビングに戻っていった。

「和也」

有希と入れ違いで今度は母さんがやってきた。

「片付け代わるわよ」

思わずポカンとしてしまった。

「…え? どうしたの? マジで何か変なものでも食った?」

「失礼なこと言ってんじゃないわよ。片付け代わるから和也は有希ちゃんを家まで送ってあげなさい」

「ああ。そういうことか」

一瞬マジで心配してしまった。

「じゃあ頼むわ」

残りの洗い物は母さんに任せ、俺はリビングにいる有希に声をかけた。

「有希。帰る支度済んだ?」

「あ、うん。だから今から帰ろうかと」

「じゃあ行くぞ。送ってくから」

「え? い、いいよ。私一人で大丈夫」

「ダメだ。まだ明るいけど何があるか分からないし…」

何より、送っていかないと俺が母さんに殺される。

「…迷惑じゃない?」

「まったく」

むしろおいて行かれる方が迷惑だ。こちとら命が掛かってるもんで。


「今日はありがとうね。晩御飯美味しかったよ」

「それは何よりだ」

二人横に並んで、有希の家に向かっている。辺りはそれなりに暗いが、冬などに比べたら全然明るい方だろう。

「和也君の作ったご飯って初めて食べたけど、私の作ったご飯より美味しかったな」

「そんなことないだろ。俺としては有希の作った飯の方が美味いと思うけど…」

「いや、和也君の方が」

「いやいや、有希の方が」

「いやいやいや、和也君方が」

「いやいやいやいや、有希の方が…って、やめよう。終わりが見えない」

「いやいやいやいやいや、和也君の方が」

「だからやめろって!? あれだ、自分で作った料理より誰かに作ってもらった料理の方が美味いってことでいいだろ」

「いやいやいやいやいやいや、和也君の方が」

「お前人の話聞いてないだろ!?」

「聞いてるよ。えっと、誰かに作ってもらった料理より自分で作った料理の方が美味しい…だよね」

「逆だ!」

「…聞いてるよ。えっと、自分で作った料理より誰かに作ってもらった料理の方が美味しい…だよね」

「やり直すな! もう手遅れだから!」

有希は目を逸らしながら「あはは、何のことやら~」と棒読みで呟いている。

「ったく、それと次ラノベを返しに来るときは、事前に俺に連絡を寄越してからにしろ」

「うん。次からはそうするね。ところでそれ、重くない?」

有希の言うそれとは、俺が右手に持っている紙袋のことだろう。今、この紙袋には有希に新しく貸したラノベが何冊か入っている。

「重い。これ何冊あるんだ?」

「十冊くらいかな」

「十冊って…俺は別にいいけど、こんなまとめて借りなくったって」

「続きが気になるのとかあるから、私としてはまとめて読んじゃいたくて」

「そうか。まぁ、急いで返そうとかしなくていいからな」

「うん。ありがと。…あ、そうそう和也君。」

有希は何かを思い出したかのように、俺に尋ねてきた。

「和也君の暇な日っていつ?」

「聞かなくても分かるだろう。基本的に毎日だ」

「…和也君って夏休みに何か用事ないの?」

「今のところはない。八月になれば少しだけある」

用事って言っても、コミケに行くだけだけど。それでも俺にとっては大事なことなんだ。

「で、何だ? またどこか買い物にでも付き合わされるのか?」

「プールに行くの。前に話したでしょ?」

「そういえばそんなこと言ってたな。水着も買ったし」

「今、真理ちゃんといつにするかとか計画立ててるの。和也君はいつでもいいんだよね?」

「ああ。…っと、着いたな」

そんなことを話しているうちに有希の家に着いた。

「じゃあね。プールについては日にちとかが決まったら連絡するね」

そう言って、有希は家の鍵を開けドアを開けた。…その瞬間!

「ぐへっ!」

何かが俺の腹に直撃した。

「ペ、ペロ!? 何してるの!?」

どうやら俺の腹に直撃した物体はペロらしい。

「…………」

俺は息ができず、腹を押さえて地面に倒れている。

「こ、コラ! ペロ! 和也君の頭の上で跳ねたりしないの!」

ペロは有希の言うことを聞かずに俺の頭の上でジャンプを続ける。

俺…何かペロに嫌われるようなことした?

「あらあら、どうしたの?」

すると、玄関から有希の母親の瑞希さんがやってきた。

「ああ、和也さん。いらっしゃい。有希を送ってきてくれたのね。ペロも和也さんが来てくれたからすごく喜んでるわ」

瑞希さん曰く、ペロは俺が来て喜んでいるらしい。どうやらペロに嫌われていたようではないみたいだ。でも、だからっていきなり俺の腹に突っ込んでくるのはやめてほしかった。

「とりゃ! ほりゃ! せいや! くっ、捕まえられない」

有希は未だに俺の頭の上で跳ねているペロを捕まえようと必死になっているが、なかなかうまくいかないようだ。

「もう! ペロったら何で空中でそんな動きができるの!?」

俺はまだ地面に横たわっているので、ペロがどんな動きをしているのか見ることができない。非常に残念だ。

「ワンッ!」

ペロは「まだまだ! そんなんじゃ、俺を捕まえるなんざ夢のまた夢!」と吠えて(?)いる。

もうペロの言葉を普通に理解できて決まっている俺は一体…。

腹の痛みも治まり、息も普通にできるようになったので、俺は上から落ちてくるペロをキャッチして捕まえた。

「ワフッ!?」

ペロは「何ぃ!?」と驚いている。

「和也君ナイスキャッチ!」

「はいペロ」

俺は一度立ち上がってから、有希にペロを手渡した。

「あ、そうだ。瑞希さん洋服のことありがとうございました」

前に長塚家に来た時に、ボロボロになった服をクリーニングに出すと言って返してくれなかったので、預けといたのだが、その後、教室で有希から返してもらい瑞希さんにお礼を言うように頼んどいたが、瑞希さんに直接お礼を言うことはまだできてなかった。

「いえ、あれはこちらに責任があったことですし」

「そんなことありませんよ。後、借りてた服は洗ってこの紙袋に入れといたので」

実は、今まで返せてなかった長塚父の洋服をラノベを入れてある紙袋にこっそり入れといたのである。

俺はラノベと服が入っている紙袋を瑞希さんに手渡し、

「じゃあ俺は帰りますんで」

「和也君またね!」

「和也さん。さようなら」

俺は来た道を戻って、家に向かった。


「ただいま~」

家に帰り、リビングに行くと母さんがだらけながらテレビを見ていた。

「あ、和也お帰りさなさい。ちゃんと有希ちゃんを送って…き……た?」

母さんは俺を見るなり固まった。

「母さん? どうかした?」

「あっと、和也。その頭に乗ってる犬は何?」

「は?」

俺が頭に手を持っていくと、何やらもふもふとした感触が。そいつを掴み顔の前に持ってきてみると。

「ワンッ!」

ペロが元気よく「来ちゃった!」と……。

「どうりで頭が重いと思ったらお前か!?」

ていうかいつの間に頭の上に乗っかった? 俺、ちゃんと有希に渡したよね?

「ワンッ! (俺を甘く見るなよ)」

「お前ホントに何者だよ!? 初めて会った時から思ってたけど、絶対ただの犬じゃないだろ!」

「ワンッ! (そんなことないさ。俺は単なる犬。それ以下でもそれ以上でもない。長塚家のペットのペロさ!)」

「格好いいなお前!? でも何かしら秘密あるだろう!? そうじゃないと納得できねぇよ!?」

「ワンッ! (誰にでも秘密の一つや二つぐらいあるもんだぜ)」

「そうだね!? 俺はそんなお前の秘密とやらが気になってしょうがないよ!?」

なんてやり取りをしていたら、

「和也…さっきから何犬と話してんのよ。頭大丈夫?」

母さんに頭の心配をされた。

長塚家のせいですっかり感覚がおかしくなってた。普通人は犬の言葉なんて分かんないもんな。

母さんからの視線に困っていると、いきなり携帯が鳴った。

「もしもし?」

『和也君? 大変! ペロがいなくなっちゃった!』

「落ち着け。ペロならここにいるから」

『え? ペロ和也君のとこにいるの?』

「ああ。今からそっちに連れ帰ってやるから。家で大人しくしとけ」

そういうと、一方的に電話を切った。

「じゃあ母さん。ペロを有希の家に帰してくるわ」

「その犬って、有希ちゃんちのなの?」

「ああ。知らないうちについてきたみたい」

正確には、知らないうちに頭の上に乗ってたみたい。だけどな。

「じゃあもう一回行ってくる」

俺はリビングから玄関に向かい、靴を履いて、有希の家にペロを届けるためもう一度家を出た。

「はぁ。面倒くさ」

「ワンッ! (ドンマイだ!)」

「誰のせいだと思ってんだ!?」

そうして俺は、また有希の家に向かったのだった。




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