第二十五話「それやられて嬉しいか?」
「和也~? ご飯まだ~?」
「母さん。たまには母さんがご飯作ってくんない?」
「面倒くさいのよ」
「言うと思ったよ…」
有希と一緒に買い物に行ってから数日が経った。
ここ数日は有希に呼び出されることなくとても平和だ。
そして今日も俺は、母さんにこき使われている。
「お腹すいた~」
「今作り始めたばっかなんだからもう少し我慢しろ」
「…………まだ?」
「まだだ!! てか、どんだけ我慢できないんだ!?」
今日は珍しく仕事が早く終わったらしく、ちょっと前に母さんは家に帰ってきた。
「ところで父さんは? 確か同じ職場なんだろ?」
「健斗さんは忙しいから、遅くなるわよ」
「ふーん。ところで今日の夕飯はハンバーグだけど別にいいよな?」
「何でもいいから、さっさと作って~」
「はいはい」
このままだと、遅いだの何だの言われそうだから少しペースでも上げるか。
ピンポーン
作るペースを上げようとしたら、インターホンが鳴った。
「和也出て~」
「俺は料理中! 母さんが出てくれる?」
「人使いの荒い…」
「それはこっちのセリフだ!」
ぐちぐちと文句を言いながら母さんは玄関に向かった。
なんて人だ。あれが自分の母親だと思うと…。
「はぁ~」
思わずため息が出る。
「和也!!」
料理を続けようとしたら、玄関の方から母さんの声が聞こえた。
「和也! ちょっと来なさい!」
こちとら料理中だってのに。
俺は仕方なく玄関に向かうと、
「和也君。やっほー」
「…は?」
何故か有希がいた。さっきインターホンを鳴らしたのはこいつか。
「何か用?」
「む。和也君リアクション薄いよ。もっとオーバーリアクションでいこうよ」
「例えば?」
「え? 例えば……で、出たぁああああああああああ! みたいな」
「それやられて嬉しいか?」
「…ちょっとショックかも」
「だろ。で、何の用だ?」
「和也君に借りてたラノベ返しに来たよ」
有希は手に持っていた紙袋を、ほらっと見せてくる。
「ああ。そういえば有希に何冊か貸してたな」
「忘れてたの?」
「何故か本棚から何冊かラノベがなくなってるな。とは思ってた」
「でも、私に貸してたことは忘れてたんでしょ」
「ああ!」
「そんな全力で肯定しないでよ」
「んで、用はそれだけか?」
「あ、それでね。出来たらまた何冊か貸して欲しいなぁって」
「まぁ、そんなことだろうとは思ってたけどさ。なら上がっていいぞ。さっさと俺の部屋でラノベ選んで帰れ」
「もう。そんな言い方しなくたっていいと思うんだけどな。じゃあ、お邪魔します」
有希が靴を脱ぎ、家に上がろうとした瞬間、
「待ちなさい!!」
いきなり母さんがでかい声を出した。
「あれ? 母さんいたんだ? まったく喋らないからリビングに戻ってたのかと」
「あまりの衝撃に固まってたのよ。そんなことより和也! この可愛い女の子は誰!?」
「有希のことか? こいつは----」
「待って和也君!」
俺が有希のことを紹介しようとしたら、有希に止められた。
「私が自分で言うよ」
有希は母さんの方に向き直り、
「私、長塚有希って言います。和也君とはただのクラスメートであり、親しき友人であり、唯一無二の親友であり、お互いを愛し合う恋人であり、将来を誓い合った婚約者であり、前世でのライバルであり、ただのご近所さんであり、倒すべき敵なんです。………そしてその裏の顔は-------」
「長いわ!! お前は結局俺の何なんだ!」
「前世でのライバルです!」
「何故よりにもよってそれを選んだ!? それだと結局のところ赤の他人じゃん! 前世に知り合いってだけで、現世では何の関わりもないぞ!」
「じゃあ、お互いを愛し合う恋人です!」
「前世のライバルよりはマシだけど、それも違う!」
「もう、和也君たら恥ずかしがっちゃって」
「「ねー!」」
有希と母さんが息を合わせて笑いあった。
「二人って初対面だよな!? 何でそんなに息ピッタリなの!?」
「私、有希ちゃんとは仲良くなれそうだわ」
「私もそう思います」
有希と母さんは手を取り合ってニコニコと笑っている。
「私は宮野純子よ。お義母さんって呼んでね」
「はい。お義母さん」
「おい! その呼び方は辞めろ!」
「和也ったら恥かしがっちゃって」
「「ねー!」」
「ホントに息ピッタリだな! アンタら!」
有希と母さんが手を組んだら凶悪タッグになると思う。
「もう疲れた。有希。俺の部屋入っていいから、さっさと読みたいラノベ持って来い」
「はぁーい」
有希はタッタッタッタと階段を上って俺の部屋に向かった。
「しかし驚いたわね。まさか和也にあんな可愛い彼女ができるなんて」
「勘違いすんなよ。有希はただの友達だぞ」
「あら? 違うの?」
「違う」
「ふーん。でもいっか。和也に友達ができただけでも十分。……それに脈はありそうだしね」
「今、最後の方何て言った? よく聞こえなかったんだけど」
「聞こえなくていいの。最後のは独り言だもの」
母さんの目が怪しく光っていたように見えた。
母さん何か企んでるな?
「和也くーん」
母さんと話していたら、有希が戻ってきた。
「借りてた分は本棚に戻しておいたよ」
「ん。分かった」
「じゃあ私は帰るね」
有希は靴を履こうとしたのだが、母さんが有希の肩を掴んで止めた。
「まあ、待ちなさい。よかったら家でご飯食べてかない?」
「母さん!? いきなり何を言い出すんだ!?」
母さんはいきなり有希を夕飯に誘い出した。
「いいじゃない。和也の友達がどんな子か気になるのよ。で、どう?」
「えっと、ご迷惑じゃないでしょうか?」
「そんなわけないじゃない。むしろ大歓迎よ」
「なら、家に連絡していいかどうか聞いてみますね!」
有希は嬉しそうに携帯を取出し、家に電話をした。
「もしもし、私だけど。…あ、ペロ?」
…は? 待て、今ペロって言った? ペロって犬だよな? 何で電話に出てんの!?
「お母さんいる? …それなら変わってくれるかな?」
なに? 長塚家ではペットが電話に出るのが当たり前なの!? てか、ペロって本当にただの犬!?
「あ、お母さん? 実はね、純子さんに。あ、純子さんは和也君のお母さんなんだけど、純子さんに家でご飯食べないかって誘われて…え? いいの? 本当? …やった! ありがとうお母さん!」
その後、有希は一言二言会話をし、電話を切り嬉しそうな顔でこちらを向いて言った。
「いいそうです!」
「そう、よかったわ。ならリビングに行きましょう。私、有希ちゃんと色々お話ししてみたいわ」
「私も純子さんとたくさんお話ししたいです!」
有希と母さんは仲良くリビングに向かって行った。
「…夕飯作るの再開するか」
俺は一人キッチンに向かい、料理を再開するのだった。