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第二十三話「マジです。本気です。冗談抜きです」

「ここで会ったが百年目だ。ちょっと面貸せや」

見知らぬアフロに絡まれてしまった。

「えっと…どちら様で?」

「あぁん? 俺のこと忘れたとは言わせねぇぞ」

「忘れました」

本当に誰だこいつ?

「テメェ、本気で言ってんのか」

「はい」

「…マジで?」

「マジです。本気です。冗談抜きです」

「お、俺だよ? 俺」

何だこのアフロ? いきなりオレオレ詐欺し始めたぞ。

「しつこいですよ。人違いじゃないですか?」

「いや、そんなはずはねぇ」

「俺のそっくりさんと間違えてるんですよ」

「そ、そんなわけ…」

このアフロ、段々自信がなくなってきたようだ。

「あの、もう行っていいですか?」

「待ってくれ。もう少し時間をくれ」

「それが人に頼む態度ですか?」

「も、もう少し時間を下さい」

「何分?」

「三十分」

「長い」

「十分でいいです」

「…………」

「五分でお願いします」

「分かった。それでいい」

いつの間にか主導権が俺の手になっている気がする。

「そっちの姉ちゃんなら俺のこと覚えてるよな!?」

「私!?」

アフロは俺の隣にいた有希にまで絡んできた。

「えっと、前に私にナンパしてきた人?」

「そう! そうだ!」

物凄い喜びようだが、何がそんなに嬉しいのか?

「で、どうだ? 俺のこと思い出したか?」

これでどうだと言わんばかりに俺の方を向いてきたアフロだが、

「いや、まったく」

何で有希のことをナンパした相手を俺が覚えてなきゃならん。

「ぐぉおお」

アフロは頭を抱えてこんでしまった。

「何で…何で思い出さねえんだ!」

「何で、と言われても」

「人の股間蹴っといて何で忘れてんだよ! マジで死ぬかと思ったんだからな!」

「だから何の話ですか?」

「マジで忘れてやがるぅ」

アフロは床に四つん這いになって項垂れた。

「よし、わかった。俺も男だ。腹を括ろうじゃねぇか」

アフロは急に立ち上がると、手を腰に当て、覚悟を決めたようにして言った。

「俺の股間を蹴ってみろ! そうすれば、さすがに思い出すだろ」

俺は驚愕した。

まさか、そんな。このアフロ……変態だった!

「そういう性癖の方は、俺じゃなくて別の人と----」

「Mじゃねぇよ!」

「ド、が付くんですよね?」

「ドMでもねぇ!」

俺は指を、パチンと鳴らし、爽やかな表情を浮かべ、

「分かった! マゾだ!」

「言い方の問題じゃねぇんだよ!」

「んじゃ、もう何なんだよ!?」

「逆ギレすんな! 怒りたいのはこっちなんだよ!」

本当にこいつぶん殴ってやろうかと、思い始めていると、有希が俺を宥めてきた。

「和也君、落ち着いて」

「…いや、大丈夫だ。落ち着いてる」

「本当?」

「ああ。…でもこいつに火をつけるくらいはセーフだよな?」

「アウトだよ! 思いっきりアウト!」

何だダメなのか。残念。

「お前、何恐ろしいこと考えてやがる!」

「ところでさ」

俺はアフロに向かって、さっき気が付いたとこを言ってやった。

「五分経ったぞ」

「は?」

「そんじゃ、俺たちは行くから」

有希に、行くぞと声をかけて、慌てて時間を確認してるアフロに背を向け歩き出した。

「あの人、いいの?」

俺の横を歩く有希が、そんなことを聞いてきたが、

「別にいいだろ。そんなことより腹減ったから、さっさとファミレス行くぞ」

後ろからは、「待て! この野郎!」、「仲間連れて来てやる!」、「待てや! 待てって…待ってくださーーーい!」などと聞こえたが、すべて無視してやった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



昼飯を食べ、その後も色々と買い物に付き合わされて、気が付くともう夕方だった。

「そろそろ帰ろっか」

俺は有希の言葉に頷いた。

「そうだな。この時間帯なら、朝の時よりは暑くないだろうし」

そういって、帰ろうとすると、

「見ーつーけーたー!」

いきなりにアフロが現れた。

どうやらこれは昼あたりに絡んできたアフロのようだ。

「あの、帰りたいんで退いてもらっていいですか?」

こいつはストーカーか何かか?

「そういう訳にはいかねぇ。今度は仲間も連れて来てやったぞコラ!」

そういえばそんなことを最後に言ってたような気がする。

やばいな…てっきりあれは、はったりだと思っていたのだが、まさか本当に連れて来るとは。

チラッと隣の有希を見た。

有希を喧嘩に巻き込むわけにはいかない。有希は逃がさないと。まず相手が何人なのか確認するか。

こういう時、喧嘩慣れしてて、尚且つ喧嘩に自信があれば助かったのに。

「何だ? ビビってんのか?」

「…で? 仲間ってのは?」

アフロの後ろに二人ほど誰かがいるが、他にはそれらしき奴はいない。

「この二人さ」

アフロが後ろに指を指して言うと、その二人がアフロの前に出てきた。

てっきりもっと人数がいるかと思ったが、たったの二人。アフロを入れて三人か。でも二人以上の奴との喧嘩には負ける自信がある俺のすることは、やっぱり有希を喧嘩に巻き込まないように逃がすことか。

どうやって有希をこの場から離れさせようかと思いつつアフロの仲間をよく見てみると……?

「あれ?」

思わず声が出た。何か思い出しそう。

アフロの仲間の髪型がモヒカンとリーゼント。

ん? アフロとモヒカンとリーゼント………。

「あぁあああああああああああっ!!」

思い出した!

「いつだか有希をナンパしてた、愉快な頭の三人兄弟!」

「「「兄弟じゃねぇ!!」」」

この三人、息がぴったりだな。

「和也君。本当に覚えてなかったんだ」

隣で有希が呆れたようにして言った。

「まぁ、いい。やっと俺のこと思い出したみたいだな」

こいつらのことは三人セットで一人として覚えてたからな。アフロだけで来られても思い出せるわけなかった。

「一応聞くけど、他に仲間はいないの?」

「ああ。俺たち三人だけだ」

「…もしかして、友達いないの?」

「バカにすんな。ダチくらい居る」

「例えば?」

「こ、この二人とか」

アフロはモヒカンとリーゼントを指さした。

「他には?」

「…………」

「いないの?」

「バ、バカにすんじゃねぇ。他にもいるわ! …多分」

多分、とアフロは聞こえないようにボソッと言ったつもりだろうが、残念ながら俺の耳にしっかり聞こえている。

「ハッ、可哀想な奴」

鼻で笑って、少しバカにしてみた。

隣で有希が「和也君。人のこと言えないと思うんだけど」とか何とか言っているが、無視の方向で。

「黙れ! ダチなんか一人や二人いればそれで十分じゃねぇか!」

このアフロ意外といいこと言いやがった。

「松岡。お前いいこと言うな」

「ああ。俺、感動しちまった」

モヒカンとリーゼントがアフロの方を向いて話し始めた。

「松下、松山。俺たち、友達だよな?」

「「当然だろ!」」

アフロが松岡、モヒカンが松下、リーゼントが松山と言う名前のようだ。

この三人の名前似てて覚えずらい。やっぱりアフロ、モヒカン、リーゼントと覚えた方がよさそうだ。

今、その三人は抱き合って、「「「俺たちの友情は永遠だ!」」」とか言って青春(?)している。

「こいつらは、放っておいて俺たちは帰るか」

「そうだね」

そう言って俺と有希は帰ろうとしたのだが、

「「「待て待て待て」」」

アフロとモヒカンとリーゼント、略してアモリに止められた。

「何だよ?」

もう相手にすんのが面倒くさいんだけど。

「何勝手に帰ろうとしてんだよ」

とアフロ。

「お前には、前にやられた借りがあるんだぞ」

とモヒカン。

「女の子とデートとか羨ましいんだよ」

とリーゼント。

リーゼントだけ単なる嫉妬じゃん。

「さっきからちょくちょく俺をバカにしてくれよなぁ」

とアフロ。

「あの時、いきなり殴ってきたんだ。今度はお前が俺らに殴られる番だぞ」

とモヒカン。

「俺も彼女が欲しいんだよ! お前が羨ましい。妬ましい」

とリーゼント。

リーゼントだけは単なる八つ当たり。

「一ついいか?」

この三人、アモリに俺は言った。

「一人一人喋られるとわけわかんなくなるから、喋りたいときは三人同時に、同じこと喋ってくれる? できなかったらやり直しで」

「「「無理に決まってんだろ!」」」

こいつらならできる気がするのは俺だけだろうか?

「おま「お「お前は」前は」えは…」

アモリは必死に声を合わして喋ろうとしているが、うまくできないようだ。

てか、マジでやるんだ。

「「「無理だぁあああああああああああああああああああ!!!!」」」

無理と言ってる割には今できてるけどな。

しかし、こいつら中々に面白い奴らだな。

「「「こんなの出来るわけねぇだろ!」」」

いや、出来てる出来てる。

「「「とにかくお前をぶん殴ってやる」」」

笑いながらアモリを見ていたら、いきなり殴りかかってきた。

あまりに面白いから忘れていたが、こいつらは俺に喧嘩を売りに来てんだった。

「有希は先に帰ってろ!」

アモリの攻撃を避けつつ、俺は有希に向かってそう言った。

「で、でも…」

有希は不安そうに俺を見て、そこから動こうとしない。

「安心しろ有希!」

そんな有希を安心させようと、俺は有希に向かって言った。

「逃げ足には自信がある!!」

「「「テメェ逃げる気か!」」」

当たり前だ。三対一の喧嘩で俺が勝てるはずがない。

でもこのまま有希をおいて逃げるわけにはいかないし、有希を連れて一緒に逃げても追いつかれる可能性がある。だからまずは有希を逃がして、その後に俺が逃げることにした。有希とはこの三人を撒いてから合流すればいいだろう。

「…和也君。本当に大丈夫なの?」

俺の言葉を聞いてもまだ不安そうな有希。

心配してくれるのは有り難いが、出来ればさっさと行ってほしい。アモリの攻撃を避け続けるのもきついし、何より野次馬が増えてきた。目立つことが嫌いな俺としては、早くこの場から立ち去りたい。

「じゃあ行くね」

「ああ」

「和也君をおいて行くからね」

「ああ」

「…本当に行くよ?」

「さっさと行けや!」

こんな時にまでボケないでほしい。

「行けや! じゃなくて、行ってください。でしょ?」

「今そんなこと言ってる場合!?」

「まったく、私は和也君をそんな風に育てた覚えないよ」

「俺は有希に育てられた覚えなんてねぇよ!」

そんな俺たちのやり取りを聞いて、野次馬の皆さんがくすくすと笑っている。

できることなら笑ってないで助けてほしい。さっきから俺はアモリの攻撃を避け続けてるんだ。未だに一発も当たってないのが不思議なくらい。

「こんな時にまで彼女とお喋りとは、いい度胸してんじゃねぇか」

アフロが殴りかかってくるのを一旦やめ、俺に声をかけてきた。

「昼の時もイチャイチャしてやがったしよぉ。リア充が爆発しろ」

「そういうアンタの頭は爆発済みだけどな」

思わずそんなことを呟いたら、それを聞いた野次馬たちが大爆笑し始めた。野次馬たちは「確かに爆発してるわw」、「リア充でもなさそうなのに爆発してるw」、「てか、あっちの二人も凄い髪型してるよねw」など好き勝手言っている。

「テメェ! アフロバカにしてんのか!」

顔を真っ赤にしてアフロが俺に怒鳴ってきた。

別にそんなつもりじゃなかったんだが。少し悪いことをした。

心の中で謝罪しておく。

「もう許さねぇ。おい、やるぞ!」

アフロがモヒカンとリーゼントに声をかけると、

「わ、悪い。ちょっと待って。…っぷ」

「ふ、ふふ。笑ってなんか…ないぞ」

二人は何とかして笑いを堪えようとしていた。

「お前たちもか!」

「「だ、だって…なぁ?」」

モヒカンとリーゼントは一度顔を見合わせると、再び笑い始めた。

「お、お前ら、見損なったぜ! 絶交だ!」

「まあ、待てって」

笑い過ぎたせいか若干涙目になっているモヒカンがアフロを宥める。

「うるせぇ! 変な髪型しやがって!」

「…何? テメェ、何て言いやがった!」

「変な頭って言ったんだよ!」

「んだとコラァ! 面貸しやがれ!」

仲間割れ始めたな。ちょっと前まで俺たちの友情は永遠だ! とか言ってたくせに。…あれ? でもこれ俺のせいか?

「落ち着けお前ら!」

リーゼントが殴り合いを始めそうになっているアフロとモヒカンを止めた。

「これは罠だ。あいつが俺たちに仲間割れをさせようとしてるんだ」

リーゼントが俺に指さしながらそう言った。

何か勘違いしてるぞ、このリーゼント。

「「な、なんだってー!?」」

しかも簡単に信じてるし。本当に単純な奴やだな。見てて面白い。

「危なかった。もう少しで俺は、松下を殴っちまうとこだった」

「俺も完璧にやられた。松岡とマジ喧嘩するとこだった」

「助かったぜ松山。サンキューな。それと松下、悪かった。ついカッとなって、変な髪型とか言っちまって」

「もう怒ってなんかないさ。あれはあの野郎の罠だったんだしな」

「松下…」

「でも、たとえカッとなってもさ、絶交だなんて言うなよ。悲しいじゃんか」

「松下、俺…何て謝ったいいか」

「謝ったりはしなくていい。その代り約束してくれ、もう絶交だなんて言わないって。俺たち友達だろ」

「ま、松下ぁー!!」

アフロとモヒカンは力強く抱き合った。

「おいおい。俺のこと忘れてねぇか?」

「忘れてるわけねぇだろ。松山のおかげで、喧嘩せずに済んだんだ」

「ああ、そうとも! 松山、お前も来いよ!」

そう言ってアフロとモヒカンとリーゼントは三人で力強く、絶対に離さないように抱き合った。

「「「俺たちの友情は永遠だ!」」」

パチパチと周りから拍手が起きる。俺も拍手をしながら、ふと思った。

何この茶番?



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