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第二十二話「そんなこと言った覚えはないが」

俺は今、真夏の空の下で有希を待っている。

暑い。ものすごく暑い。もう帰りたい。

こんなことならもっと遅く家を出るんだった。

一昨日の電話で買い物に付き合わされることになって、昨日有希から


『駅前の噴水広場に十時に集合! 来なかったら……』


というメールが来た。

来なかったらどうなるのか気になったが、なんだか恐ろしかったので了解とだけ返信しておいた。

有希を待たせるのもあれだったので少し早めに来たのだが、今俺はそのことでものすごく後悔している。

暑い暑い暑い。さっきから何度心の中で暑いと言っているだろう?

噴水がすぐそこにあるし、もういっそのこと有希が来るまで水遊びとかでもしていようかと何度思ったことか。

大体何で俺は約束の四十五分前にここに来たんだ?

普段、翔太と待ち合わせをするときは基本的に約束の時間ぎりぎりに着くようにしてるくせに。

これじゃあこの日を楽しみにしてたみたいじゃないか。

なんて考えていると、

「和也君! 待った?」

ようやく有希がやってきた。

有希は花柄の白い半袖のワンピースという格好だ。

そんな有希を見て一言、

「暑い。帰っていい?」

「ええ!? 私を見て第一声がそれ!?」

「この暑い中で待ってたんだぞ。もう限界だ」

「だからって帰ろうとしなくても。それにお店の中に入っちゃえば冷房が効いてるだろうし」

「ならとっとと行くぞ。もう暑いのは嫌だ」

「あ! 和也君待ってよ!」

俺はさっさとこの暑さから逃れようと、急いで歩き出した。


俺と有希がやってきたのは大型ショッピングセンター。ここら辺では一番大きく、洋服屋や本屋などを始め、様々な種類の店舗がある。

「あぁ~。涼しい、生き返る~。もう外出たくないわぁ」

「和也君。そんなこと言ってたら家に帰るときどうするの?」

「家に帰らなきゃいい話だ」

「いや、それはダメでしょ」

今、俺と有希は大型ショッピングセンター内の案内板付近で喋っている。

案内板を見ると本当にたくさんの店がある。

ここにある店全部を回るなんてことにはならないと思うが、結構長い時間有希の買い物に付き合わせられるんだろうなぁ。なんて思いつつ、俺は有希にこれからどの店に行くのかを尋ねてみた。

「そんで今日は何を買うか決めてんのか?」

「うん。実は新しい水着でも買おうかなって思ってて」

水着ねぇ……水着?

「水着って誰の?」

「私の」

「よし! それじゃあ今から別行動と言うことで!」

俺は急いでこの場から立ち去ろうとしたのだが、

「和也君。どこ行くの?」

いつの間にか有希に腕を掴まれて、逃げることはできなかった。

「分かった! じゃあお前が水着を買い終わるまで別行動にしよう。その後の買い物は付き合うから!」

「ダメだよ。ちゃんと付いて来てくれないと」

「いや無理だから! 何で俺がお前の水着選びに付き合わなきゃいけないんだよ。そういうのは吉田とかと行け」

「真理ちゃんはもう水着買っちゃってあるんだって」

「だったら吉田じゃなくて、他の女子の友達とでも」

「私、仲の良い友達が少なくて」

「嘘つけ! お前絶対に友達とか多いタイプだろ」

「とにかく行こうよ」

有希は俺の腕を引っ張り水着売り場まで連れて行こうとする。

「嫌だって。男の俺が女物の水着売り場なんかに居たら目立つだろ」

「大丈夫だよ。きっと和也君以外にも男の人はいるよ」

「それでも嫌だ」

すると有希が俺の腕を離した。

諦めてくれたのか?

「…そっか。そうだよね、嫌だよね」

有希は顔を俯かせ、すごく悲しそうな声を出してきた。

「ごめんね。買い物にだって無理に付き合ってもらってるようなもんなのに我がまま言っちゃって」

さっきまで無駄に元気だった有希の雰囲気が急に変わったので、俺は物凄く戸惑っていた。

「ゆ、有希? えっと…」

「私、一人で水着見てくるね! 買い終わったら連絡するから」

俺は有希が背を向けて、走り出そうとするのを見て、とっさに有希の手を掴んだ。

「わ、分かった。俺も行くから。だから…その」

俺はなんて言葉を続ければいいか分からず焦っていると、

「え、ホントに!? じゃあ行こ!」

有希が顔を上げ笑顔でそう言ってきた。

「……お、お前!」

少しポカンとした後、ようやくさっきまでのが演技だということに俺は気が付いた。

「えへへ。真理ちゃんにこうすれば和也君は私の言うことを聞いてくれるって教えてもらったの」

やられた! 本気で焦ってたのでまったく演技だと気付かなかった。ていうか吉田か! 吉田の入れ知恵か!

「ほら行こう? 男に二言はないんでしょ?」

「そんなこと言った覚えはないが」

「いいから!」

俺は有希に手を引っ張られながらも歩きだした。……手?

「ゆ、有希! 手を離してくんない?」

俺は有希の手を掴んだまま離すのをすっかり忘れてた。

つまり今、俺と有希は手を繋いでいる状態なわけで。

「和也君の方から手を掴んできたのに?」

「う。と、とにかく離せって」

「でも離した瞬間逃げちゃうかもしれないし」

「逃げない。逃げないから」

「だーめ。ほら早く行こう」

結局、手を繋いだままになってしまった。

この時、有希の頬が少し赤くなっていたような気がしたのだが、それは気のせいだろうか?



今、俺は水着売り場の前で有希を待っている。

もう買う水着も決まり、有希はその水着をレジに持っていった。有希が水着を買い終わるまで店の中に一人で待っていることなんて俺にはできない。

有希の言った通り店には男も何人かいた。連れの女(たぶん彼女)の買い物に付き合わされ、ぐったりしてる奴らには少し同情した。まぁ中にはめっちゃノリノリで彼女と一緒に水着を選んでるような奴もいたが。

俺はもちろん前者で本当に疲れた。有希がいちいち、いくつか水着を持ってきてどれがいいかを聞かれそれに答えると言うのを繰り返した。何度も何度も聞かれたので、もう記憶がおぼろげで最終的にどの水着を買ったのかはよく分からない。

「あ、和也君。ここにいたんだ」

水着を買い終わった有希が俺に近寄ってきた。

「じゃあ次の買い物に行こっか」

「次は何を買うんだ?」

「水着」

「水着は今買ったばっかだろ」

「和也君の水着だよ」

「…は? 何で俺の?」

「だって和也君。水着とか持ってなさそうだし」

「失礼な。何年か前の水着ならある」

「それもう着れないでしょ」

「だって着る予定なんか無いし」

プールや海に何かもう何年も行ってないような気がする。

「ダメだよ。和也君。今年は一緒にプールに行くんだから」

「そんな話一言も聞いてないぞ!?」

「だってこの話は私と真理ちゃんでしたんだもん」

吉田か! また吉田か!

「大丈夫。ちゃんと和也君の用事がない日に合わせるから」

「ていうかこれって俺、強制参加?」

「もちろん!」

はぁ。テストの点数の勝負で負けたせいで俺に断る権利は無いんだもんなぁ。

ホントにあんな勝負しなきゃよかった。

「あ、一応本田君も誘うよ。和也君を餌にすれば絶対来るだろうし」

何でだろ? 翔太が「え! 和也も行くの!? じゃあ俺も行く!」とか言う姿が目に浮かぶ。

翔太って実はそっちの趣味が……無いと信じたい。

「楽しみだね!」

と、笑顔で言う有希に、

「そうだねー」

俺は思いっきり棒読みで返事をした。


俺の水着も買った後は、有希と適当に店を見て回って、なんだかんだでもう昼だ。

ちなみに俺が買った水着は黒のトランクスタイプの水着だ。

予想外の出費だったなぁ。

「お昼はどこで食べる?」

「適当にそこら辺のファミレスでいいだろ」

「そうだね」

俺と有希がファミレスに向かおうとすると、


ドンッ!


誰かと肩がぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさい」

俺は振り返りつつ、相手の顔を見て謝ったのだが、

「あぁ? 何だてめぇ。コラ!」

面倒な奴とぶつかってしまったようだ。

「ざけんじゃねえぞ。女とイチャイチャしながら歩きやがって」

こいつをぶん殴ってやりたいという衝動を抑えつつ、

「ごめんなさい」

と謝っておいた。

こういう奴は適当に謝っておくに限る。

「…んん? てめぇ」

まだ絡んでくるか。と思いつつ相手の頭をよく見てみると、

「てめぇ。あんときのクソガキだな!」

アフロと言う愉快な頭の奴だった。

「……誰?」

こんな愉快な頭の知り合いなんかいたっけか?



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