表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

第二十一話「そうか。奇跡ってあるんだな…」

今日は終業式。明日からはもう夏休みになる。

今は無駄に話の長い校長の話しの最中だ。

周りにいる奴らは皆だるそうにしている。

そもそも校長の話を真面目に聞く生徒なんているのだろうか?

ちなみにどうでもいいことなんだが、校長の髪の毛はかつらである。

何故分かるのかと言うと、今現在無駄に長い話をしている校長の髪が不自然なまでにずれているからだ。

だというのに周りの生徒たちは笑っていたり、校長の頭を気にしている素振りをする生徒はいない。

何故なら、これはいつものことだからだ。

この校長は毎回、こうやって生徒たちの前に出て話をするときに限ってかつらがずれる。廊下ですれ違ったりするときに見ると何の問題もないのにだ。

なので二、三年の生徒達は皆、またか…と言う表情をしている。一年の奴らはまだ慣れていないのか少しおろおろしたり、笑いを堪えてるいるのが何人かいる。

俺も入学したばっかの時は驚いたもんだ。本当に笑いを堪えるのが大変だったのを覚えている。

あの校長は本当に気が付いてないのだろうか? 最近はわざとああしてるんじゃないかと少し疑っている。

校長の話が終わり、校長が下がっていくのだが、その時に必ずドヤ顔をするのはやめてもらいたい。あの「今日も完璧だった」みたいな顔はホントにイラッとくる。かつらがずれてるくせに。

その後の教師からの話はあっという間に終わり、終業式は終わった。


教室でHRをして、やっと解散となった。

さっさと帰ろうとしたら、

「和也君!!」

有希に凄い形相で迫られた。

「な、何だよ、いきなり」

「あ、あれは一体どういうことなの!? 何で!? ねぇ何で!?」

有希の言いたいことが全く分からない。何があったんだ?

「落ち着け。何の話だ?」

「さっきの終業式の、校長先生の頭…」

「ああ、あのかつらがどうかしたか?」

「だから何でそんな平然としてるの!? 周りの皆もまったく気にしてなかったし…」

「気にするも何もあれはいつものことだし…」

「いつも!?」

…そういえば、有希は転校してきたからあの頭を見るのは初めてか。

「まぁ、そんな気にすることではないぞ。あれは学校の名物みたいなもんだから」

「名物って…」

「多分…いや絶対に夏休み明けの始業式でも今日と同じようなことになってるだろうな」

「絶対にって断言しちゃうんだ」

「あれには慣れろ。それしかない」

「うう。正直、慣れたくないよ…」

有希が、「はぁ」と重くため息をついた。

「有希ちゃん。ため息なんてついたら幸せが逃げるよ?」

隣の席に座っている吉田が有希にそんなことを言ってきた。

「真理ちゃんはあの校長先生の頭は気にならないの?」

「校長先生の頭? …ああ、あの滑稽な頭のことね。私はまったく気にならないかな。もう見慣れちゃった」

おい、今吉田の奴さらっと滑稽な頭とか言ったぞ。 

「でも何でずっと気付かないんだろう? 誰かに頭のこと言われたりしないのかな?」

確かに有希の言うとおり、誰かしらに頭のことを指摘されてもいいと思うんだが…。

「あれじゃないか? 指摘してくれる仲の良い教員がいないとか」

「そんな和也君じゃないんだから」

ズバッと笑顔言う有希。

「…俺は仲の良い奴が少ないだけであって、いないわけじゃないからな」

そう言い返してみたら、吉田に「フッ」と鼻で笑われた。

「…お前らって実は俺のこと嫌いだろ」

「そんなことないよ! むしろ私、和也君のこと大好きだよ!」

有希にそう言われて俺は思わず有希から顔を逸らした。

顔が熱い。もしかしたら顔が赤くなってるかもしれない。

有希の言った好きは普通に友達としてだというのは分かっているが、さすがにこうストレートに好きと言われるとさすがに照れるというか何というか。

吉田の方を見るとものすごくニヤニヤとこっちを見ていた。

「和也君? どうしたの?」

有希が俺のことを心配そうに見てくるのだが、

「だ、大丈夫。問題ない」

「何で顔逸らすの?」

まともに有希の顔を見れない。

「有希ちゃんって大胆だね。こんなことで告白だなんて」

「へ? …あ、ちがっ、えと、あうぅ」

吉田がいきなりそんなこと言い出したせいで、有希もどうやら気が付いたようで顔を赤くして俯いた。

吉田の奴、余計なことを!

「あ、あの…和也君。そ、その」

「…………」

俺と有希の間に変な空気が…。

俺この空気苦手なんだよ。吉田が有希に変なこと言うから。

俺が吉田の方を睨んでみると、吉田はやはりニヤニヤしてこちらを見ていた。

「…えっと、有希」

「は、はい」

この空気を何とかしようと有希に声をかけたのだが、有希が妙にしおらしく返事をするので、何を言えばいいのか余計にわからなくなった。

てか何で敬語なんだよ! いつもの「うん? どうしたの?」みたいな反応を期待してたのに。

「和也…君。その…な、何?」

「えっと…」

有希は顔を俯かせながらこっちを見てくる、つまり顔を赤くさせながら上目使いの状態なわけだ。

うがぁあああああああああああ! ああもう! はっきり言うけど可愛いなちきしょう!

有希がこんな状態だとこっちの調子も狂うからホント困る。

どうすればいいか分からなくなって視線をあちこちに飛ばしていると、未だにニヤニヤしている吉田と目が合った。

吉田がなんか声に出さずに言っている。

え・ん・い? いや、へ・ん・じ…返事?

返事って今のは告白でもなんでもないだろ。吉田が有希に変なこと言うからこうなっただけで。

吉田はさっさとしろとでも言うようにこちらを睨んでくる。

…もういっそ、吉田の言う通しに返事でもすっか。

俺はもうここで考えることを放棄した。どうにでもなれだ。

「有希」

「はい」

「俺は…」


ブーッ!ブーッ!


マナーモードにしていた携帯が鳴った。

「ん? 翔太から?」

俺が電話に出ると、

『和也ぁあああああああああああああああ!』

あまりの大声に俺は携帯を耳から遠ざけた。

「うるさい!」

『あ、ああ。悪い』

「で、どうした」

『ああ! テストのことなんだけど』

「テスト…もしかして赤点だったのか?」

あれだけ吉田に勉強教わったんだからそれはないと思ってたんだが。

『いや、赤点は無事回避できた』

「そうか。奇跡ってあるんだな…」

『俺が赤点取らなかったことがそんなに信じられないのか!?』

「まぁまぁ、落ち着け。それにしても連絡遅かったな。俺はてっきりテストが返ってきたらすぐ結果報告してくるかと思ってたけど」

『テストは今日返却されたんだよ』

「今日? お前の学校テスト返却すんの遅いんだな」

『違う。返却日はもっと前だ。俺のテストだけ返却保留になってた』

「は? 何で?」

『俺が赤点取らなかったことが大問題になって、そのことで緊急職員会議してたんだと』

…なんだか少し翔太が不憫に思えてきた。

『だからちょっと和也に愚痴聞いてほしくて』

「だから何で俺なんだよ。同じ学校の奴は?」

『全員に「先生たちの気持ち分かるわぁ」って言われて』

「…今回は特別に愚痴聞いてやる」

この時の翔太の声が少し涙ぐんでたのはここだけの秘密。

『ほ、ホントか!』

「ああ。好きなだけ聞いてやる」

『ならいつも待ち合わせ場所にしてる駅前に来てくんないか? どっかで飲み物でも飲みながら話そうぜ。奢るから』

「了解」

そういって俺は電話を切った。

「さーて! 翔太んとこに行かないと!」

と、わざと声を出しながら俺は急いで荷物を持って教室を出た。

決して目の前にいた有希と吉田から逃げたかったわけではない。…ないったらない。



現在八時。

やっと家に帰ってこれた。

あの後、ファミレスで長々と翔太に愚痴を聞かされた。

ちなみに晩飯もそのファミレスで食ってきた。もちろん翔太の奢りで。

俺は部屋着に着替え、そのままベットに倒れこんだ。

今日は疲れた。ホントなら終業式が終わったらさっさと家に帰ってきて、ぐーたら過ごすつもりだったのに何でこんなに疲れなきゃいけないんだ。

もうこのまま寝ようかと目をつぶったら、


ピロロロロロ


と、初期設定のままの携帯の着信音が鳴った。

「電話?」

今度は誰だよ? と思いながらも出てみると、

『か、和也君?』

「…有希?」

『う、うん』

有希からの電話だった。

『今、大丈夫…かな?』

「ああ…」

学校でのことがあるから、少し会話がぎこちない。

『その、学校でのことなんだけど…』

「あれは別に本気で告白したわけじゃないだろ。俺だってマジで告白されたとは思ってないから」

『う、うん』

「だから変に気にする必要はないぞ。てか有希があんな調子だとこっちの調子まで狂うんだよ」

『うん。…わかった』

電話越しだから表情はわからないが、声を聞いた分にはもう大丈夫そうだ。

「要件はそれだけか?」

『あ、そうだ。明後日何か用事ある?』

「明後日? 特にないけど」

『なら買い物に付き合ってほしいんだけど』

「めんどい…」

『約束忘れたの?』

なんだか少し不機嫌そうな声になった。

「約束?」

『テストの点数で勝負したでしょ!』

「ああ、そういえば…」

俺が負けたから、ちゃんと用事がないと有希の誘いを断っちゃダメなんだっけか。

「わかったよ。じゃあ詳しいことについてはメールで教えてくれや」

『うん!』

途端に機嫌が良くなり、嬉しそうな声になる有希。

不機嫌になったり、機嫌がよくなったり忙しい奴だな。

『ところでさ、本多君大丈夫かな?』

「大丈夫って?」

『和也君が教室から出て行っちゃった後にね、真理ちゃんが「本多君には後でお仕置きですね…」とか呟いてたんだけど』

「…死にはしないだろ」

『だといいけど』

翔太…なんて言うかごめん。

一応心の中で翔太に謝っておいた。

「んじゃあ電話、そろそろ切るぞ」

『あ、うん。それじゃあ』

そういって電話を切ろうとしたとき、

『和也君!!』

有希に呼び止められた。

「どうした? まだ何か用があんのか?」

『あの時…和也君の携帯が鳴る直前、何て言おうとしたの?』

翔太から電話が来る直前、吉田に返事をしろと言われて、俺が言おうとしたこと。

「…さあな。あの時は俺も混乱してたから何を言おうとしたかよく覚えてない」

『…そっか』

「じゃあ、今度こそ電話切るぞ」

『うん。おやすみ和也君』

俺はおやすみと返事だけして電話を切った。

携帯を閉じて近くに置き、俺はベットに倒れたまま目を閉じた。

あの時、俺はなんて言おうとしたのだろうか?


「有希。俺は…」


俺はお前が好きだ。とでも言おうとしたのか? 俺はお前のことは好きじゃない。とでも言おうとしたのか? それとも、もっと別のことでも言うつもりだったのだろうか?

…分からない。

俺は有希のことをどう思っている? 好きか嫌いか。有希のことは嫌いではない。そもそも嫌いだったら今みたいに電話なんかしていない。じゃあ好きなのか? その好きは友情的な意味で? 恋愛的な意味で?

…分からない。

俺は今まで女子と仲良くなったことなんてなかったからな。女子でここまで仲良くなったのは有希が初めてだ。吉田に関しては嫌いではないが好きでもないだろう。てか怖い。吉田は色々と怖い。そもそも俺と吉田の関係は有希がいないと成り立たないだろう。友達の友達みたいな感じだ。翔太と有希なら大丈夫だろうが、もし吉田と二人っきりにさせられたらきっと会話は続かない。必ずどこかで沈黙が訪れて気まずくなると思う。

…分からない。

なんだか考えるのが面倒くさくなってきた。別に本当に告白されたわけじゃないのに何で俺はこんなこと考えてんだ。

やめよう。どうでもいいじゃないか。面倒くさい。

そして俺は考えるのをやめた。俺は逃げたんだ、自分の気持ちと向き合うことから逃げた。

さっさと寝よう。今日は疲れた。




翌朝、俺はメールが来てたことに気が付いた。

見てみるとそれは翔太からで、


『たすけて』


…ホントに死んでなきゃいいけど。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ