第一話 「つまんねーの…」
翌日、朝のHRで
「実は今日うちのクラスに転校生が来ています」
と言う担任の言葉にうちのクラス二年二組はものすごい盛り上がりを見せていた。
「先生!男子ですか?女子ですか?」
「どんな子ですか?」
「早く教室に呼んでください」
はっきり言ってものすごくうるさい。
もう少し落ち着けないものだろうか?
とか思うものの正直なところ俺もその転校生がどんな奴なのか気になっていた。
「静かにしないと転校生が入ってこれないだろう!」
とクラスのまとめ役である佐藤が周りを注意した。
下の名前は知らないがうちのクラスに佐藤は一人だけなので特に問題はないだろう。
一番最初に騒ぎ出したのはお前だけどな…
佐藤は何かあるたびに騒ぎ出し、周りを煽って最終的に自分でその場をおさめる。
「そういうお前だって騒いでたじゃんかー」
こいつは確か……だめだ思い出せない。
とりあえず山田(仮)としておこう。
山田(仮)は佐藤とよくつるんでいる奴…だった気がする。
山田(仮)のことは置いとくとして、俺もこいつのいうことには賛成だ。
お前が騒いだりしなきゃいいだろうに。
そう思うがおそらくそれは無理だろう。
佐藤とは一年の時も同じクラスだった。ちゃんと話したことはなかったがいつもこんな感じで目立っていたので何となく覚えている。
一年の時佐藤はよく教師に「お前が静かにしていればいいのだが」とか「あまり周りを煽ったりするな」などと言われていたが、二年になってからはそういうのもなくなった。おそらく教師も諦めたのだろう。うるさくなり過ぎたらちゃんと注意もするので教師からしたら悪い奴じゃないが、少し厄介な生徒と言ったところだろうか。
「はいはい。今から転校生を教室に呼ぶから静かにしてね」
担任がいうと同時にクラスが静かになる。
最初から静かにしてればいいものを。
「じゃあ、教室に入ってきてー」
ガラッ
教室のドアが開きそこから入ってきたのは長くてきれいな黒髪をした女子。瞳はきれいなオッドアイ…なわけがなく普通に黒い瞳だった。身長は男からすれば低いほうでまぁ女子の平均ぐらいだろう。
はっきり言って可愛かった。二次元のキャラと比べれば普通な気はするが、クラスの女子の中では一番と言ってもいいかもしれない。まぁ好みは人それぞれなので絶対にクラスで一番かどうかはわからないが。
「長塚有希です。家庭の事情でこちらに来ました。これからよろしくお願いします」
長塚有希は人懐っこい笑顔でそう言った。
今の笑顔でクラスの男子の何人が長塚有希に惚れただろう?
チラッ
一瞬長塚と目があった。
たぶん教室全体を眺めでもしてたまたま俺と目があったのだろう。
まぁ長塚は俺のことなんか気にもとめてないはずだ。
「じゃあ長塚さんはあそこの席に座ってね」
「はい!」
長塚の席は廊下側の一番後ろとなった。
ちなみ俺は前から三番目廊下から四番目だ。
ほとんど真ん中ではあるがしょうがない。
今は五月の下旬だからあと一か月ぐらいで席替えがあるだろう。
それまでの我慢だと自分に言い聞かす。
「HRはこれで終わりにするからあとは質問タイムね」
「おお!先生わかってる~」
佐藤も転校生が来たことでテンションがものすごく高い。
「じゃあさっそく質問!どこから来たの?」
「趣味は?」
「前の学校ってどんな感じのとこ?」
さすがは転校生人気者だな。
クラスのほとんどの奴らが長塚の席集まっている。
俺は自分の席からその様子を眺めている。
俺以外にも席から動かずに長塚のほうを見ている奴らはいる。
そういう奴らはおそらくそこまで転校生に興味がないか、自分もその輪に入るのが恥かしいのか。
その辺のことはそいつら本人に聞かなきゃわからないが
まぁ別に特にすごい理由があるわけではないだろう。
ちなみに俺はただ聞きに行くのが面倒なだけだ。
俺だって転校生がどんな奴かは気になる。
でも何か月かしたら普通にただのクラスメートになるわけでどんな奴なのかは見てればわかるはずだし、別に何か俺に影響を及ぼすわけでもない。
だから俺は質問攻めになってる長塚の観察をやめて、いつも通りカバンからラノベを取出し一時間目の授業が始まるまでの暇つぶしを始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
キーンコーンカーンコーン
四時間目が終わり昼休み。
俺はすぐさま購買へ向かう。
購買で焼きそばパンとコロッケパンを買うと俺は急いで屋上に向かった。
本来屋上は生徒が勝手に入らないよう鍵がかかっており生徒は誰も屋上には入れないのだが、俺はちょっとした理由で屋上の鍵を持っている。
そのため昼休みはいつも一人で屋上に来て昼飯を食べる。
このことは俺以外の誰も知らない。
だから屋上はいつもは俺の貸切というわけだ。
だが俺は昼休みにしか屋上に行かない。
休み時間や放課後は時々教師が屋上にやってくるのだ。
時々と言ってもそんな頻繁に来るわけではないのだが
放課後に一度そんなことがあり本気でばれるかと思った。
昼休みは教師も色々とやらなくてはいけないことがあるのか屋上に来ることは決してない。
だから俺はいつも昼休みは屋上で一人のんびりと昼飯を食っている。
昼飯を食った後は時間ぎりぎりまで屋上で過ごし五時間目が始まる一分前には教室に戻るようにしている。
ふと今日うちのクラスに転校してきた長塚有希のことを思い出す。
実は異世界から来たとか、超能力を隠し持ってたりしないかなぁ。
なんて思ってみてもやはりそんなことあるはずもない。
「つまんねーの…」
思わずつぶやくがどうしたところで何も変わらない。
それを理解しているからこそ余計に嫌になる。
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴った。
そろそろ戻るか。
俺は一度伸びをしてから教室に戻った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
結局その日は特に何もなかった。
普段と同じとしか言えない。
転校初日だからというのもあり長塚の周りには結構な人が集まってはいたが、そのうち長塚にもの仲のいい奴とかができて結局は普段通りになるはずだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
翌日、今俺は凄く戸惑っている。
何故なら
「昨日は疲れたよ。みんなたくさん質問してくるから」
今俺の目の前には昨日は転校してきた長塚有希が笑顔で俺に話しかけてきている。
何故こうなった!?
と叫びたいくらいである。
ちなみにどうしてこんな状況になったのかというと
俺は基本早めに学校に来ている。
だからクラスではいつも一番に学校についている。
今日もそうだと思っていたのだが
ガラッ
「あ、おはよう!」
教室に長塚有希がいた
バンッ
思わず思いっきりドアを閉めてしまった。
てか長塚学校来るの早すぎじゃねぇの!?
いや俺がいうのもなんだけどさ
早すぎじゃねぇの!?
よしいったん落ち着こう。
俺みたいなのがいるんだからほかにこの時間に来る奴がいてもおかしくはない。
まぁてっきり俺が一番だと思ってたのにほかの奴がいたんだから驚いたのはしょうがないと思う。
とにかく教室に入ろう
ガラッ
「おはよう!」
「お、おはよ」
クラスメートにあいさつすんのって高校入ってこれが初めての気がする。
いつもは教室に一番乗りしたらあとはずっとラノベ読んでたからなぁ。
「ところでなんで今一回ドア閉めたの?」
「あ、ああ。まさかここ時間帯に誰かが来てるとは思ってなかったから驚いて」
「あはは。そうだよねー私もこんなに早く来るつもりじゃなかったんだけど…」
「なら何でこんなに早く?」
早く会話を終わらせたいのだがこれだけは聞いておきたかった。
「時間見間違えちゃって大急ぎで来たらこんな時間に」
長塚は「あはは」と恥かしそうに笑っている。
「そうなんだ。」
時間を見間違えたって……でもまぁそれなら明日からはまたいつも通りか。
問題も解決したしさっさとラノベでも読むかな。
なんて思いながら自分の席に向かおうとすると
「君はいつもこんな時間に来てるの?」
話しかけてきやがった!?
「まあね……」
俺はそっけなく返した。
「そうなんだ。でも毎日こんなに早く来て何してるの?…あっ! もしかして部活とか?」
まだ話しかけてくるのか。
俺は話しかけられたらちゃんと話し返すことにしてるので
「俺は部活には入ってない。帰宅部」
「そっか。ならいつも何してるの?」
「…本読んでる」
ホントいつまで話しかけてくる気だ?
「昨日もずっと休み時間本読んでたよね?」
「なんで知ってんの?」
「休み時間のたびに読んでるんだもん。そりゃ気付くよ」
「それもそっか」
「それで、何読んでるの?」
「これ」
俺はカバンからラノベを取り出して一番最初のページを開いて見せる。
クラスメートにも何度か同じようなことを聞かれることがあった。
最初の頃は口で題名を言っていたのだが読んでいるのはラノベなので「え?何それ?」みたいな反応をされることが多かった。なので最近は一番最初のページを見せることにしている。すると「へぇ~」と微妙な反応をされることも多いいが、俺は気にせずに題名を見せたらすぐ読書に戻るようにしている。中には「宮野もこういうの好きなのか!?」と食いついてくる奴もいたが俺は「まぁ」とか「それなりに」などそっけなく返して会話を終わらせてしまうので会話が続かずそのままクラスメートが席に戻っていく。
「へぇ~君もライトノベルとか読むんだ」
「も?」
「うん。前の学校の友達の影響で私もそれなりに読むんだ。意外だった?」
「うんまぁ」
正直驚いた女子でもオタクとかはいるけど長塚はそういうのまったく興味がないと思っていた。
「私がこういうの読んだら変かなぁ?」
「別にいいんじゃないの。人の趣味とかは人それぞれだし」
「そっか、そうだね」
今度こそこれで会話は終わったな。
ってことでラノベでも読みますか。
「そういえば…」
まだ何かあるのか……
しかも俺の前の席に俺の方を向いて座ってきやがった。
「名前教えてほしいんだけど。」
そういえば、俺まだこいつに名前教えてなかったな…
「宮野和也」
すると長塚は
「これからよろしくね! 和也君!」
と笑顔で俺に言ってきた。
……てかいきなり名前かよ。
そんこんなで三十分は長塚と話している。
「ねぇ聞いてる?」
「ん?ああ聞いてる聞いてる」
学校の生徒は八時三十分には学校に着いて席に座らなければならない。
そして俺はいつも七時三十分には学校に来ている。
つまり俺は一時間ほど早く学校に来ているのだ。
部活の朝練がある奴らはこの時間帯に学校に来ているがそれ以外の連中は普通はいない。
朝練のある奴らは当たり前だが部活の練習に出ているため教室にはいない。
つまり俺は三十分ほど前からずっと長塚と二人っきりで話をしていたわけだが、もうすぐその必要もなくなる。
八時になると何人かの生徒がちょくちょくとだが登校してくる。
別に長塚を嫌っているわけではないが、三十分も誰か、しかも女子と話すのはなんていうか色々と疲れる。
学校で俺は基本的に一人でいるのでこうも長時間(と言っても三十分だが)話をするのに慣れていない。
中学校の時はそれなりに仲のいい奴が実はいたりはするがそいつは男で女子とこれだけ話をするのは初めてだったりする。
とにかく今はこの二人っきりの状況をどうにかできればいい。
早く誰か来てくれ~
という願いが叶ったのか
ガラッ
来たっ!!
「おはよう!」
「おはよう。長塚さん来るの早いんだね」
俺を救ってくれたのは吉田だったか吉野だったか…たぶん吉田だったと思う。
控えめな性格だが人当たりが良く友達も多い子だ。
「吉田さんだったよね?」
「うん。私の名前覚えてくれてたんだ?」
良かった…名前あってた。
「昨日は色々ありがとう。助かっちゃた」
「ううん。私はそんなお礼を言われるようなことしてないよ」
どうやら二人は昨日の何やらあったようでそれなりに仲が良さそうだ。
「あ、そうだ。昨日のことなんだけど…」
とそのまま長塚は席を立ちあがり、吉田の方に行ってそのまま今度は吉田と話し始めた。
やっと解放された。
ありがとう吉田!
声に出さず心の中で感謝の言葉を吉田に送った。
もう今日は疲れた。
まだ授業すら受けてないのに俺はとてつもない疲労感を感じた。
もう今日みたいなことはこりごりだ。