第十七話「できればほどほどに」
「お邪魔しまーす!」
我が家に着き俺がドアを開けると同時に家の中に入っていく有希。
「お邪魔します」
「俺もお邪魔しま~す」
吉田と翔太もそれに続き中に入っていく。
「勝手に入るな」
意味がないように思うが有希たちの一応注意をしておいた。
「和也の君の部屋どこ?」
有希はやっぱり俺の注意を聞いてないようで、勝手に俺の部屋を探そうとする。
「和也の部屋なら二階にあるぞ。行けばすぐわかる」
「おい翔太! 勝手に教えるな!」
そんなことを教えれば有希はすぐ、
「二階? わかった~」
翔太に俺の部屋を教えてもらった有希は階段を上り始めてしまった。
「ああ、もう。こうなると思ったけど」
最近、有希がどう行動するか何となく予想がつくようになってきた。
まぁ、予想ができてもその行動を阻止できないんだけど。
「翔太は吉田をリビングに案内しといて」
案内って言ってもリビングすぐそこだけど。
とりあえず吉田は翔太に任せて俺は有希がいるであろう自分の部屋に向かった。
二階に行くと俺の部屋のドアが開いていた。
中にいるのはもちろん、
「有希。勝手に人の部屋に入るなよ」
「和也君の部屋結構片付いてるね」
有希は俺の部屋をきょろきょろと見回している。
俺の部屋にこれといった物はなくどこにでもありそうな感じの部屋だが、部屋にある本棚にはラノベがぎっしりと入っている。もちろんマンガなどもあるが、ラノベが一番多い。
「あ、これ私読んでみたかったんだ。ねぇ、和也君。これ貸してくれたり…」
「好きなだけ貸してやるからさっさと部屋から出ろ」
変に部屋を漁られても困るのでどうにかして有希を部屋から追い出そうとしてみた。
「え、ホントに? いいの?」
「いいから。適当にラノベ選んでリビングに行け」
「じゃあね。これと、これと、これ。後…」
次々とラノベを取り出していく有希…って。
「お前いくつ持っていく気だよ」
「だって和也君。好きなだけ貸してやるって」
「言ったけど、それ全部持ってくのはきついだろ」
有希は二十冊くらいのラノベを取り出しており、本棚からさらに取り出そうとしている。
「でも、前から読んでみたかった奴たくさんあるし。他にも面白そうなのが…」
「また今度貸してやるからもう少し数を控えろ」
「え! また借りに来ていいの?」
なんか俺ミスった?
「いや、貸すとは言ったけど家に来られるのは…」
「でもそれじゃあどうやって借りればいいの?」
「えっと…俺が学校に持ってくからそれで」
「学校で借りるより、ここで借りた方がよくない?」
有希の家はここから割と近くにあるので有希の言うとおりなのだが、
「いや、でも…ねぇ?」
「ねぇ、じゃわからないよ! ダメな理由を原稿用紙五枚分書いて提出して」
「無理だ!」
そんなに書けない。それに今ここに原稿用紙なんてない。
「なら…ね?」
「うっ」
どうする。どうすればこの場を切り抜けられる?
「和也君?」
「………」
「か・ず・や君?」
「………」
もう、無理。
俺はわかったと言おうと口を開き、
「おぉーい和也! いい加減降りて来いよ。勉強会が始まんねーぞ!」
一階から翔太の声が聞こえてきた。
これはチャンス!
「ほらとりあえず、借りる本の数を減らせ。二人が待ってんだから」
「…しょうがないぁ」
有希はしぶしぶといった感じで借りる分のラノベをいくつか残し、残りを本棚に片付けた。
今度翔太に十円ガム奢ってやるか。
「じゃあ勉強会やるか」
やっと始まると思っていたら、
「あ、ちょっと待った」
翔太が止めてきた。
「なんだよ? 何かあるなら急げ」
この勉強会はほとんど翔太のためにあるようなものなんだから。
「長塚さんと吉田さん。連絡先交換しない?」
「お前殴っていいか!?」
何で今そんなこと言うんだよ。
そんなの後にしろ!
「和也。お前は二人の連絡先を知ってるんだろ。だったら俺だっていいだろ」
「いや、知らないけど」
「は?」
ポカンとアホ面をする翔太。
「え、ちょっと待って。えっと、本当?」
「何で嘘つかなくちゃいけないんだよ。」
「…はぁ。和也お前って奴ぁ」
アホ面から可哀想な奴を見る目になった。
「せっかくだから和也君も連絡先交換しよ?」
有希が携帯を取り出しながら言ってきた。
「それは別にいいんだけど、そんなことより勉強はどうすんだよ。特に翔太。」
「勉強はちゃんとやるよ。ほら、吉田さんも」
翔太たちは赤外線を使って連絡先を交換し始めた。
「ほら、和也くん」
「はぁ。わかったよ」
そんなこんなで俺のアドレス帳の人数が二人増えた。
「そういえば翔太」
「どうした?」
「お前今アドレス帳にどのくらいの数いる?」
翔太は知り合いとかが多いからたくさんいると思うのだが。
「ん~わかんね。多いから数えてなくて」
数えらんないくらい多いって一体…
「そういう和也は? 中学の時から少しは増えたか?」
「今日二人増えた。これで、五人」
「五人!?」
人数を言うと有希が食いついてきた。
「え? 和也君それだけ?」
「そうだけど」
やっぱり少ないか?
「二桁くらいはいきましょうよ」
吉田にまで可哀想な奴を見る目で見られた。
「ちなみに俺たちを抜いて残り二人は和也の両親」
「和也君…」
「宮野君…」
有希と吉田の視線が痛い。
翔太、有希、吉田、母さん、父さん、アドレス帳にあるのはこれだけ。
ちなみに、受信ボックスには広告メールだらけ。時々翔太からよくわからん内容のメールだったり、遊びに誘うメールだったりが、母さんからは遅くなるから夕飯よろしくといった内容のメールが来る。
「和也君。私にいつでもメールしてくれてかまわないよ」
有希は今すっごく優しい表情をしてこっちを見てる。
「和也からのメールは期待しない方がいいぞ」
「え? 何で?」
「こいつからメール着たことないもん」
そうだっけか? そんなことないと思うんだが…多分。
「送れば必ず返信して来てくれるんだけどな」
そういえばいつだったか翔太から
『俺、生まれ変わった蝶になりたい』
というメールがいきなり送られてきたことがあった。
その時は確か、こいつに一体何があった。などと思いつつ
『蝶に生まれ変わったら俺のところに来い……羽毟ってやる』
みたいな感じのことを返信したんだっけか。
あのメール何だったんだ?
「もしかして和也。自分から誰かにメールしたことないんじゃないか?」
「いや、本多君。そんなことは…」
「そうですよ。さすがにそれは…」
有希と吉田はそう言いつつこっちを見ると。
「「ああ、ないと思う(思います)」」
声を揃えてそう言った。
失礼な奴らだなと言いたいところなんだが、
「自分からメールした記憶ないわ」
有希たちは全員でやっぱりなぁという表情をした。
そういう反応だと何か悔しいな。
「和也君! 私たくさん和也君にメールするよ!」
「できればほどほどに」
「遠慮はいらないから和也君からも私にメール送ってね!」
「まぁ、有希に何かしら用事があればすると思う」
嬉しそうに「ホント!?」と聞いてくる有希から視線を逸らし、小さな声で「用事があれば…な」と呟いておいた。
するといきなり、
バタッ!!
と翔太が床に四つん這いになって「ば、馬鹿な」とか言い始めた。
「翔太どうした?」
正直もう無視したいとこなんだ翔太がこんなんじゃ勉強会ができないので一応聞いてみた。
「か、和也。お前長塚さんのこと今なんて呼んだ」
「は? 有希がどうした?」
「そ、そんな。和也が俺以外の奴を名前で、しかも呼び捨てで呼ぶなんて」
何故か項垂れて落ち込む翔太。
「名前で呼ぶのは俺だけだと思ってたのに」
「ふっふっふ。もう本多君の時代は終わったんだよ」
有希は有希で変なスイッチでも入ったらしい。
「名前で呼ばれるようになったからって調子に乗るなよな! 和也の初めては俺なんだから!」
ちょっと待てその言い方は誤解を生む。
「別にいいよ! 女の子では私が初めてだもん!」
だからそれだと誤解を生むんだが。
「宮野君は男でも女でも見境がないんですね」
「吉田お前わかってて言ってんだろ!」
吉田は面白そうに笑っている。
「俺の方が和也と付き合い長いんだぞ!」
「大事なのはどれだけ一緒にいるかじゃなくて、どれだけ想っているかなんだよ!」
「それなら俺の方が上だ!」
「私だね!」
有希と翔太は元気に言い争いをしている。
はぁ、もうやだ。
…いつになったら勉強するんだよ。
自分で書いてて言うのもなんですが…これいつになったら勉強開始するんでしょう?