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第十三話「入るしかないか…」

飼い主さんの家に向かっていて気が付いたことがある。

「この辺うちの近所なんですけど」

この辺はたまに通ったりする。

「あら、そうなんですか。私たち二か月ぐらい前にここに引っ越してきたんです」

二か月前というと今が七月だから五月あたりか。

「もしかしたら何度か道ですれ違ったりしてたかもしれませんね」

「そうですね」

なんて会話をしているうちに、

「あ、ここです」

飼い主さんの家についた。

大きさとしてはうちとそんなには変わらない。二階建ての一軒家だ。

「どうぞお上がりください」

「お邪魔します」

なんだか誰かの家に入れてもらうのは緊張する。

「こちらにどうぞ」

リビングに入れてもらった。

人の家って勝手がわからないからどうすればいいのか少し迷う。

「適当なところに座っていてください」

そういうと飼い主さんはリビングから出て行った。

どこに座ればいいか悩んでいると、

「ワンっ!」

ペロはリビングにあるソファーに飛び乗ると「こっちに来いよ」と言いたいのか俺に向かって吠えてきた。

俺はペロに言われた(?)通りソファーに座ろうとしてやめた。

「さすがにこんな状態で座ったらソファーが汚れるしなぁ」

こんなボロボロの服じゃどこに座っても汚してしまうので俺はどこにも座らずに立ってることにした。

「ワンっ!」

ペロがまた俺に向かって吠えてきたが今度はさすがに何を言ってるかわからなかった。


「あら? 座ってないんですか?」

少しして飼い主さんが戻ってきた。

「俺が座ると汚れてしまうので」

「そんなこと気にしなくてよかったんですけど」

「さすがに気にしますよ」

自分の家だったらそんなに気にすることはなかったろうけど…

「それでですね…えっとお名前なんでしたっけ?」

…そういえばまだ名乗ってなかったな。

「宮野和也です」

「……和也さん?」

「そうですけど…」

今の間は何?

「和也さんこっちに来てください」

俺は飼い主さんに言われた通りについていった。

「シャワーを使ってください。服はここに置いておいてください。クリーニングに出しで後日お返しするので」

「いやいやいや。そこまでしてもらわなくても」

「だめです。迷惑をかけてしまいましたので」

「だけど…ほら俺着替えとかないですし」

「これ旦那の服です。これを使ってください」

さっきまでこれらを準備してたのか!

「ではごゆっくり!」

服を強引に渡すと飼い主さんはすごい速さでリビングに戻っていった。

「入るしかないか…」

俺にはもう選択肢がなかった。


「シャワーありがとうございました」

俺は短時間でシャワーを済ませた。

てか人の家でゆっくりと入れるわけがない。

「その服似合ってますよ」

「ど、どうも」

これは喜ぶべきなのか?

「こちらにお茶と茶菓子がありますのでどうぞ」

「ホントにもうこれ以上は悪いですよ」

「シャワーと着替えはお詫びで、これはお礼ですので」

こう言われると断れないよなぁ。

結局お茶も貰うことにした。

お茶を一口飲むと、

「ワンっ!」

ペロがまた俺に向かって吠えてきたのだが、

「どうした?」

何が言いたいのかさっぱりわからない。

「ペロは「どうだ美味いか?」って言ってるんですよ」

飼い主さんが通訳してくれた。

「って! 飼い主さんってペロがなんて言ってるかわかるんですか!?」

「ペロは家族ですから」

だからって犬の言ってることがわかるのはすごいと思う。

「私だけじゃなくてうちの家族は全員ペロの言葉がわかりますよ」

この一家スゲェ!!

「ところで飼い主さんって私のことですか?」

「…へ?」

何を当たり前のことを…

「名前伺っても?」

すっかり忘れてた。

俺の中でこの人の名前が飼い主さんになってしまっていた。

「ふふっ。和也さんって本当に面白いですね」

これは褒められてるのか?

「私は長塚瑞樹って言います」

「長塚さんですか……長塚?」

「はい。そうですけど」

あっれ~? なんかやばい気がする。今すぐここから逃げなくちゃいけない気が…

「あ、あの。俺そろそろ」

「まぁまぁ。まだお茶も残ってますし。少し私の話し相手にでもなってくれませんか?」

「…わかりました」

落ち着け俺。まだ決まったわけじゃない。そうだ違うに決まってる。苗字が同じだけなんだ。

「和也さんは高校生?」

「はい。高一です」

「うちに娘が居てね、娘も高校一年生なの。奇遇ね~」

「すみません! もう帰ります!」

エマージェンシー! エマージェンシー!

「そんなに急がなくても、まだ八時じゃないですか。それとも今日は何か用事でも?」

まだ八時なのか。ずっとペロとこの人探してたからもっと時間立ってるかと思ったんだけど…

「用事とかはないですけど…」

「まだお茶が残ってますし、ほら茶菓子も」

つまりこれを全部食べないとここからは出れないと。

「ところでその娘さんは今日どうなさってるんですか」

俺はお茶を飲みながら少し調査をしてみた。

「娘はまだ寝てますよ。もうそろそろ起きると思いますけど」

事態は一刻を争ってるらしい。

「なら俺はここにいないほうがいいんじゃないですか? 目が覚めてリビングに来たときに男の人がいたらびっくりすると思うし」

「あの子そういうことあんまり気にしないから大丈夫ですよ」

「いやいや、年頃の女の子なんでしょ? 絶対気にしますって」

「娘のことはよく知ってますから大丈夫ですよ」

気のせいかな? さっきからこの人獲物を狩るような目してる気がするんだけど…

このままじゃやばいと思った俺はちゃっちゃとお茶と茶菓子を食べてしまうことにした。

できたら茶菓子を口に含んでお茶で流し込みたいところだけど、さすがにそれは失礼なのでちゃんと食べることにする。

まずはお茶を全部飲んだ。あとは茶菓子を食っておしまい。

「あ。お茶のおかわり入れますね」

…茶菓子を食う前にお茶のおかわりを入れられた。

「あの、長塚さん…」

「瑞樹でいいですよ」

「瑞樹さんお茶のおかわりはもう…」

「茶菓子がもっと欲しいんですか? ちょっと待っててください」

お茶はもういいと言おうとしたら茶菓子が増えた。

瑞樹さんを見るとニコニコを笑っている。

俺この人に遊ばれてない?

昔母さんに知らない人には付いて行くなと言われてたのにそれを破った罰なのかな…

なんかもうここから帰れないような気がしてきた。

俺この人にも絶対に勝てないわ…

また俺に天敵ができてしまった。

「ワンっ!」

「瑞樹さん。ペロはなんて?」

俺が落ち込んでいるとペロがまた俺に何かを言ってきた。もちろん俺はなんて言ってるのかわからないので瑞樹さんに通訳を頼んだ。

「ドンマイ! だそうです」

「ペ、ペロっ!」

なんか感動した。

「お母さ~ん」

ペロの言葉に感動してペロと見つめ合っている間にタイムアップになってしまった。

階段から誰かが降りてくる音が聞こえてくる。

今の声には聞き覚えがあった。これで俺の知ってる長塚とは別人という可能性はもうない。

長塚はどんなリアクションをするだろうか? 瑞樹さんは俺が居たって気にしないと言っていたが何かしらリアクションはあると思う。さすがに「あ、和也君おはよう」みたいに特に気にせず挨拶をしてくるなんてことはないだろう。少なくとも「え? な、何でうちにいるの?」くらいのリアクションはあると思う。

もう諦めたさ。どう考えてももう間に合わないし。

ちょっと前に学んだじゃないか諦めは肝心って。

「お母さん朝ごは…ん?」

長塚は俺を見て固まった。

長塚はパジャマのままで少し寝癖などもある。少しして、

「か、和也君?」

「よう。お邪魔してます」

「な、何でうちに?」

おお。予想してたのと似た反応だ。

「うん、まぁ色々あって」

「………」

「…長塚?」

「きゃあぁああああああああああああっ!!!」

長塚は叫びながらドタドタと階段を上って行ってしまった。

「…瑞樹さん。叫ばれたんですけど」

「予想以上の反応でした…」

どうやら瑞樹さんも驚いているようだ。

しばらくの間俺たちは呆然としていた。



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