第十一話「全力で遠慮する」
席替えをした翌日の朝。
いつも通り長塚と話をしていたのだが、
「これからは休み時間もお話しできるね」
なんて長塚が言ってきた。
何となくそんなこと言いそうな気はしてたけど。
「全力で遠慮する」
「え~何で?」
「これ以上俺の時間を奪われてたまるか」
最近、学校で俺が一人でいる時間が長塚に奪われつつある。
今だって当たり前のように話しているが長塚が転校してくるまではいつも一人でラノベを読んでいたのだ。昼休みだって一人で屋上で飯を食ってたのに、長塚にそのことがばれたせいで時々だが一緒に昼飯と食うことになった。
さらに休み時間までとなったらもう学校ではほとんど長塚と一緒にいることになる。
別にどうしても一人でいたいとは言わないがずっと長塚と一緒だと体力が持たなくなる。
それに休み時間のたびに長塚と喋ってたらラノベを読む時間がマジでなくなる。
「せっかく席が近いんだからいいじゃん」
「よくない」
「む~。何さ和也君のケチ」
「ケチでもなんでもいい」
そんなことを話していると、
ガラッ
「あ、真理ちゃんおはよう」
これまたいつも通り吉田がやってきた。
「おはよう。宮野君もおはようございます」
「ん。ああ、おはよ」
吉田が俺の隣に座ってきた。
そういえば吉田は俺の隣だったな。
「真理ちゃん聞いてよ。和也君酷いんだよ」
長塚が吉田と話し始めたので、ようやく俺が解放される。
これでようやくラノベが読める。
そう思って俺はカバンからラノベを取り出そうと…
「宮野君。休み時間に有希ちゃんと話しするくらい良いじゃないですか」
何故かこっちに話を振ってきた。
しかも長塚の味方をして。
「ほら真理ちゃんだってこう言ってるよ」
「いや、でもさぁ。大体俺が長塚と話ししてたら吉田の話し相手がいなくなるぞ」
とりあえずこの状況はまずい。
このままだと休み時間まで長塚に奪われることになる。
「失礼なこと言わないでください。宮野君と違って有希ちゃん以外にも話し相手くらいいます」
なんか今吉田に酷いこと言われなかった?
「それに前に言いましたよね私?」
「…何を?」
「私二人のやり取り見るの好きなんでって」
この時の吉田はものすごいドヤ顔をしていて少しイラっときた。
それにしても俺の中で吉田のイメージがどんどん崩れていく。
今までも何度か「吉田ってこんなキャラだっけ?」と思ったことが何回かあったが、どうやら俺は今まで勘違いをしていたようだ。
それにしても俺に味方はいないのか?
「それに宮野君。休み時間は本読んでるだけじゃないですか」
「だから長塚と話しなんかしてたら読む時間無くなるだろ」
「家で読めばいいじゃないですか」
くっ、正論言いやがって。
「和也君。いい加減諦めたら?」
俺の肩をポンポンと叩きながら長塚が自愛に満ちた表情を浮かべて言ってきた。
こいつ絶対にケンカ売ってるだろ。
「俺とは朝に話してんだから休み時間ぐらい他の奴と話してろ」
「たまに、たまにでいいからさ。お願い」
たまにならいい…のか?
…まぁいいか
「たまにならな」
「ホントに? やったー!」
これでよかったのか?
なんかもうよくわかんなくなってきた。
「宮野君って案外ちょろいですよね…」
「ん? 吉田なんか言ったか?」
「いえ、何も」
気のせいか…
一時間目が終わり最初の休み時間。
「か~ず~や~君」
さっそく長塚が俺に話しかけてきた。
「お前たまにって言っただろ」
「まだ一回目だよ」
確かに長塚の言う通りなのだが、
「朝に話したばっかなんだから今話しかけなくてもいいだろ」
「まぁまぁ気にしない、気にしない。それよりさっきの授業どうだった?」
「どうだったって?」
「ここがよくわからなかったから教えて! みたいな」
「特に問題ない」
さっきの授業は理科だった。教科担当の名前は天野。性別は男。最近の悩みは抜け毛が気になるとか。授業中に「どうしよう」とか「あっ、また毛が」とかぶつぶつ言っていた。
「え~なんかないの? 何でも教えてあげるよ。なんだったら私のこと先生とか呼んでくれても…」
「そんなことよりも授業中に暇さえあれば後ろ向くのやめてくれるか?」
長塚は授業中にこっちを向いては話しかけてきたり、ノートに書いた落書きを見せてきたりしてきた。
「ダメなの?」
「ダメに決まってんだろ。昨日のこと忘れたとは言わせんぞ」
昨日は長塚がボケるもんだからついでかい声を出してしまい酷い目にあった。…本当に酷い目にあった。
「あ、あれは私も反省してるよ」
「本当か?」
「ホントだよ。だから今日は変なことは言わずただ話しかけただけでしょ」
確かにボケたりはしてこなかった。
「私だってちゃんと学習はするよ。だから安心して」
まぁ昨日に比べたらまだマシな方かもな。…多分。
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現在昼休み。
もちろん俺は屋上にいる。
ちなみに今日は長塚も一緒だ。
少なくても週に一回は必ず一緒に飯を食っている。
まぁ長塚の弁当は美味いしそれを食えるから別にいいかなって思っている。
今はそんなことよりも、
「なぁ長塚…」
「どうしたの?」
「なんか今のところ全部の休み時間長塚と話してた気がするんだけど」
「気がするんじゃなくて、その通りだよ」
そうか…気のせいじゃないんだな。
「んで、どういうことだ」
「なにが?」
「朝の会話覚えてるか?」
「もちろん! 休み時間も一緒にお話ししようねって話したよね」
長塚の奴自分の都合のいいところしか覚えてないじゃん。
「たまにって言ったろ。なのに今のところ全部の休み時間お前と過ごしてるよ。っていうか今日は一日中長塚と一緒にいる気がするぞ」
「そうだね。今日は一日中和也君と一緒にいる気がするよ」
はぁ、俺がバカだった。
こんなことなら朝に「たまにならな」なんて言わなきゃよかった。
「でも楽しいなぁ。和也君とこんなに居られて」
俺も俺で甘いよな。
長塚が俺に話しかけてきた時なんだかんだ言って結局は一緒に喋っちゃってるもんなぁ。
ああいうときに長塚を無視とかすればいいんだろうけど、できないんだよな。
「なぁ長塚」
「ん? ふぁに?」
「…とりあえず食べ物を飲み込んでから返事をしてくれ」
長塚は食べ物を飲み込み、お茶を飲んでから
「フカーッ!!」
何故か威嚇してきた。
「お前に何があった!?」
変なものでも食ったか?
「人が物食べてる時に声かけるのはマナーがなってないと思うよ」
「それは俺が悪かった。でもだからって口に食べ物含んだまま返事する長塚の方がマナーがなってないと思うんだが」
「ふっ、言うようになったじゃないか坊主」
「俺ら同い年だよな?」
マジで変なもの食ったんじゃないだろうな?
「それでどうかしたの?」
「ああ、そうだった。長塚のおかげで俺は一つ賢くなったよ」
「?」
「長塚と喋ってて思ったんだよ。人間諦めが肝心だなと」
だから俺は諦めることにした。
長塚を無視できないんじゃもう諦めるしかない。朝に休み時間、昼休み。いつの間にか俺の一人でいる時間が長塚といる時間になりつつあるが諦めよう。
俺は長塚には勝てない。
もうどうにでもなってしまえ。
「和也君。明日もここに来ていい?」
「は? 今日来たんだから明日は来る必要ないだろ」
「お願いだよ」
「却下」
「じゃーんけーんぽん!!」
「へ? えっと」
長塚がいきなりじゃんけんをしてきたので俺は慌ててグーを、長塚はパーを出した。
「あ、あれなに?」
「ん?」
今度は長塚が上に指を差すので上を見たのだが、
「何もなくね?」
「私の勝ちね」
「えっと…何の話?」
何かもうわけがわからなくなってきた。
「長塚は何がしたいんだ?」
「あっちむいてほいだよ」
「………」
「で、私が勝ったから明日もまたここ来るね」
ああ、なるほど…って!
「それずるいだろ!」
「へへっ、もう遅いよー」
ていうか普通にじゃんけんだけでよかったんじゃないのか?
どうせ俺負けてたし…
「じゃあ私はもう教室戻るね」
「あ、おい!」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと和也君のお弁当も作ってくるから」
別に弁当のことを言いたいわけではないんだけど。
「じゃあねー」
長塚は颯爽と屋上から去って行ってしまった。
うん、まぁあれだ。諦めよう。