スクエア
しいなここみ様主催『冬のホラー企画4』参加作品。
キーワード全部入り。のハズ。
たぶんガチホラー。
大学の友人達と四人で、雪山へスキー旅行に行った。
現地では朝から雪がちらついていたが、滑っている途中で吹雪いてきた。
先日自分探しの旅とかで、バヌアツから帰国した友人の一人・村上が見当たらないので探しているうち、合流は出来たものの、この吹雪だ。全員で迷ってしまった。
「…不味いな。下っているはずなのに、平衡感覚もおかしくなってきたかな」
確実に下っていけば、リフト乗り場に辿り着けるはずなのに、周りは既に白一色。今や下っているのかさえ分からない。
腰に下げたキーホルダー型方位磁石も、…今向かってるのは、南南東微南? なのか? …クソッ! こんなんで方向が分かるもんか!
―――俺がそう憤っていると、ふいに友人の一人・鍋島が声を張り上げた。
「おい! 見ろ! 小屋だ!」
吹雪の隙間に、建物の黒い影が見える。
助かった、と全員でひとまず小屋の中へと飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
物置小屋のようだが、中には何もない。こたつでもあれば…、は期待し過ぎだな。水や食料もないが、雪と風はしのげる。
電気も通っておらず暗かったが、とにかく外と遮られたことで落ち着いた。
「………吹雪、やまないな」
漏れ出る外の風の音を聞きながら俺がそう言うと、友人の一人・近藤が、
「…っ、クソッ、圏外かよ」
スマホで外と連絡を取ろうとしたが、繋がらないと憤っていた。
―――シン、と冷える小屋の中。
スキーウェアでそこそこ寒さをしのげるが、じっとしているとやはり体温は奪われていく。
そう思っていると村上がふいに、
「…なぁ、せっかくこういうところにいるんだ。俺、やってみたかったことあるんだよね」
全員が「?」と思っていると村上は、
「『スクエア』ってあるだろ? 四人をそれぞれ四角い部屋の角に配置して、一人ずつ時計と逆回りしながら次の人にタッチする。順番に行けば最後の人の場所には誰もいないはずなのに、五人目が現れて…、ってヤツ」
「えぇ? 嫌だぞ! ホントに五人目が現れたらどーすんだよ!」
鍋島が文句を言ったが、村上は笑いながら、
「ハハッ、普通に考えて現れる訳ないだろ。ホントに出たらみんなで捕まえてやろうぜ」
すると近藤もニヤリと笑いながら、
「面白いじゃん。どうせヒマだし、こんなくだらないことでも少しは暇つぶしになるだろ」
鈴木も良いだろ? と近藤に振られ、まぁじっとしているよりマシだし、と俺も頷いた。
ジャンケンで一番負けた人が最後と決めた。が…、
「あー、クソッ、俺が最後かよ…」
負けてしまった俺は、渋々配置についた。
◇ ◇ ◇
そんなに広くもないはずなのに、隅に行くと周りがほぼ見えない。
だが気配は分かる。
ミシッ、ミシッ、と足音が僅かに聞こえ、人と人が接触した気配も何となく分かる。
一回…、二回…、三回目。
ポン、と俺の肩を叩く村上。
「何かいたら大声出せよ」
小声で囁かれ、ああ、と頷き、俺は次の角へと向かう。
誰かいたらどうしよう…。いや、誰もいるはず………。
……………
………良かった。誰もいない。ま、そりゃそっか。
「おーい、誰もいないぞ。終わりだ終わり。納得したか? 村上…」
? あれ? 静かすぎないか?
……………
え? え!? ちょ、ちょっと待て!
おーい! 村上!? 近藤…、鍋島も! な、何で誰もいないんだ!?
そ、そもそも…、か、壁は!? 屋根…、な、何もないじゃないか! 真っ暗だ!
「だ、誰か! 何で誰もいないんだよ! おーい!」
俺は真っ暗な中を彷徨いながら必死に声を上げたが、全て虚しく掻き消えた。
◇ ◇ ◇
―――どのくらい時間が経っただろうか。
俺は一人膝を抱えてうずくまり、考えていた。
本当なら今頃宿で鍋をつついたり…、そう言えば今日は宿の人達が餅をつくとか言ってたな。…つきたて餅、食いたかったなぁ。
今は不思議と寒くない。
何でこんなことに…。このまま俺は、誰に知られることもなく、ここで朽ち果てるのか…。
…こんなことになるんなら、杏子ちゃんが村上と付き合い出す前に告っとけばよかった。
杏子ちゃん…。フラれるかも知れないけど、俺の気持ち、ちゃんと伝えとけばよかったな。
『あの子、ちょっと変わってる男が好きなのよ。ある意味そういう病なのよね』
杏子ちゃんの友達がそんなこと言ってたっけ。
確かに村上は変わってる。たまに人を上から見るようなところもあるけど、それでもアイツは良いヤツだ。
…だから俺は、村上と杏子ちゃんが付き合い出しても祝福してたんだ。
俺がクレーンゲームで取ったぬいぐるみも、杏子ちゃんが好きそうだって村上が言ったから、
『じゃあお前から杏子ちゃんに渡してやれよ』
って、アイツに美味しいトコを譲ってやったりも出来たんだ。
………ああ、やっぱり杏子ちゃんに伝えたかったな。俺、実は杏子ちゃんのこと好きなんだよ、って。
無事に帰れたら、そう伝えて…。でも俺は、村上と杏子ちゃんの幸せも願ってるんだよ、って…。………ちゃんと、素直に………。
◇ ◇ ◇
「………い、…おい! しっかりしろ!」
ふぇっ!? と変な声を出しながら、俺は目を覚ました。近藤と鍋島が俺を心配そうに見下ろしている。
「あ…、え? 俺…」
「良かった、気がついたか。何かお前、気ぃ失ってたぞ」
近藤に言われ、そうなのか? と俺は驚いた。
二人によると、スクエアを始めてしばらく経っても俺と村上の返事がなくて、部屋の隅で倒れてた俺を心配して起こしてくれたらしい。
俺は結構な時間、闇の中に閉じ込められていた感覚だったけど、二人の話だとどうやらほんの数分だったみたいだ。
でも…、おかしいな。
「………? 村上、は?」
すると二人は顔を見合わせ、眉根を寄せながら、
「…それがな、村上のヤツ………」
「どこにもいないんだ」
………え? そんな…!
「誰も外に出てないはずなんだけどな。…吹雪も収まってきたみたいだし、ひとまず外に出て探してみよう」
近藤に言われ、俺達は外に出てしばらく村上を探した。
暗くなってきて一旦宿に戻ったけど、村上は戻っていなかった。
救助隊まで出動する羽目になったけど、結局村上は、どこにもいなかった―――
◇ ◇ ◇
クソッ! 何で…、何で俺に気づかないんだ!?
アイツら、俺よりも格下のくせに…!
鍋島は猪突猛進のバカだし。
近藤はインテリメガネの偏屈だし。
鈴木はただのお人好しだし。
全員、俺以下のくせに…! 普段はそう思わせないように、ちゃんと演技してやってるけど!
………そういや、バヌアツの呪い師が何か言ってたな。
『この先、お前のその驕った心を省みることが出来なければ、お前、とんでもない目に会うよ』
ふざけるな! 俺は、驕ってなんかいない! 俺は―――
◇ ◇ ◇
―――あれから数年。おかしな噂を聞いた。
あの山小屋で、とある学生四人が、あの時の俺達みたいに『スクエア』をしたそうだけど、彼等は一晩中行ったらしい。
それはつまり、『五人目』がいたことに他ならないのだが、発見されたのは四人。
………もしかすると、その『五人目』は村上の魂なのかも知れない。俺は隣で眠る杏子ちゃんを眺めながら、そう思ってしまった。
村上は未だ、行方不明のままだ。
村上、帰ってくんのかな。…ムリっぽいな(*´_ゝ`)
ガチホラー… でもなかったかも。




