三十二、異界帰り
宿やその周辺でくだを巻く探索者達は、どこの馬の骨ともつかない者たちが多かった。覇気がなく、くたびれていて、やる気がなさそうだった。それでも歴戦の戦士、というような鋭い雰囲気の客も何人かいて、夜更けにも関わらず異界に潜るのだった。真夜中から丑三つ時にかけて、この近くの異界は危険度を増すらしかった。彼らはその時間帯にしか手に入らない何かを求めて、この危険な夜勤に臨む。
探索者の得物はフライパンや出刃包丁、公団が販売している符や薬液や呪文、禍因性閃波照射装置を始めとする異相兵器、己に宿った異相体など様々だ。鷹丸はそれらを携えて出ていく夜勤組を見送って、まずまず清潔なベッドに感謝しながら眠りに就いた。
翌朝、朝食を食べていると霊泉がやって来て、〈ぎょうるい〉について知っている人物に会ったと告げた。それは大照律公団で〈呈陣〉という地位だった人で――公団の階級・称号は多岐に亘り、極めて分かりづらく、どれほど偉いのかを雰囲気で把握するしかない――今は宿を引き払って既にいないが、早朝、異界から帰って来た際に遭遇し、話を聞けたそうだ。
お話しする前に、まずはこちらをご覧ください、と言いながら霊泉は紙を見せる。そこに書かれていた文字に、鷹丸は思わず呻いた。何事かと覗き込んだ鹿之助も同様にたじろぐ。それが画数が多く複雑な、これまで目にしたことのない文字だったからだ。
〈髐羸〉、とそこには書かれている。




