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三十一、厳霊

「阿黒(なかば)、これより武神に我が技を披露つかまつる」


 その声は普段の覇気に欠いたものではなく、隊長任命を拒否したあの時と同じ、堂々たるものだった。戦闘経験のない鷹丸さえ、夕映えのその姿から、ひりつくような緊張感を覚えている。


 隊士たちが固唾を呑む中、阿黒は大上段に構え――振り下ろした。彼女がしたことは、それだけだった。だがその刹那、空は暗雲に覆われ、雨が滝のように降り注ぎ、暴風とともに雷光が瞬くのを幻視した。そして轟音が鳴り響く。


「鬼魂流〈厳霊(いかづち)〉――眼前の相手に、雲上よりの一撃。それだけ」


 阿黒はそう言うと刀を収め、これは六番隊の象徴的な技になる、と言い残して去った。


「気に入った」岩手が笑みを浮かべて言う。「聖槍にてあの技を繰り出せば、どれほどの威力になるか、実に楽しみではないか」


「我が伏せし目にも、見ずとも見えました。無料にて、斯様な技を手ほどき頂けるとは、これも神々の思し召しですなぁ」


『うーん、確かに、魂魄に何か……ざわめき、みたいなものを感じますね。これが鬼魂とやらか。分け身越しでも伝わるとはね』


「ああ、映像とかでも伝わる、日塚が鬼魂流埋め込み用の教範ビデオを色々販売してんだ。それは百パーセント獲得できるわけじゃなくて、それでも返金は無しなんだけど。だけど今のはどうやら、オレたち全員に伝播したみたいだな」


 鷹丸も、強烈な光が目に残像を残すように、魂魄に何かが残留していることを自覚した。ある意味、全員が阿黒隊長に斬られ、傷を残したのかも知れない。

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