表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/159

百三十、多重受注

 鷹丸は最初は真面目に探索に当たった。〈背犬病〉によってどのような犬が生えてくるのか。色は、大きさは、鳴き声は? また〈むらもち〉とは何か。薬か、食べ物か、呪文書か。あるいは、癒し手の名前なのか。


 その熱意は次第に失われ、鷹丸はしてはいけないと思いながら、〈背犬病〉の件が片付かぬまま、別の任務を引き受けた。ダロン平原に出没する固有名持ちの魔物、〈一つ目〉である。平原に出現するブラックウルフの頭目であり、隻眼と巨体が目印で、隊商の護衛に幾度も被害を出している、盗賊団並みに厄介な魔物だ。


 この討伐を引き受けておいて、実際にダロン平原に行かぬまま、さらに別の仕事も引き受けた。どこかの村が邪教徒に襲われそうなので、助けて欲しいという任務だ。鷹丸、否、セロニアスは、信頼おける人物なので大抵のクエストを受けられる。それは、彼のここまでの活躍によって得た名声のためだ。


 セロニアスは目付きが悪くてよく誤解されるが、実際は優しい心の持ち主で、病気の妹のために必死で戦い、パーティを追放されたり、田舎でスローライフを送ろうと計画して頓挫したりしつつ、金級冒険者に上り詰めた。彼は、面倒なことも多いので、あまり有名にはなりたくないと思っていたが、王女の誘拐を阻止、魔族と通じていた悪徳貴族を捕縛、自分を追放したパーティが破滅するのを見て嘲笑、などの活躍で金級冒険者にまで上り詰めたのだ。それは彼が何か努力したのではなく、ダンジョンで遭遇した美女の姿をした上位存在が、何故かセロニアスに好意を抱いたため超越的スキルを獲得した、いわゆる棚ぼたではあるのだが、彼が優しい心の持ち主であることが、大きな要因であったのは間違いないだろう。


 彼が得たスキルは、天を仰いで奇怪な叫びと共にポーズをとることで全部のステータスを五百倍に向上させるというもので、雨乞いをしていると周囲の者に思われたために、雨乞い師という異名を得た。


 そういうわけで、いたずらに複数のクエストを抱えていても、彼なら必ずや解決してくれる、と依頼者は信じて待つのだ。猫探し、ドブ掃除、買い出し、伝説の剣の探索、魔法薬の材料集め、下水道に潜んでいる邪教徒の殲滅、伝令、などいくつもの任務を引き受けるだけ引き受けた後、関太郎のいる冒険者ギルドへ戻った鷹丸、あるいはセロニアスは、そろそろいいですか、と尋ねる。


「ああ、時間は潰せただろう、とりあえず何かをやれば先に進めるんだ。別に成果を出す必要はない、何かをやったということが大事だ。そこいらをうろついたり、空を眺めたり、喫茶店でコーヒーを飲んでいるだけでもいい。それが、このおれがお前に提供する、何処かへ至るための道だ。〈雨乞い師セロニアス〉の冒険はこれからも続く。そして鷹丸、お前の旅も続く。また、何かをやって結末へ近づきたいなら、おれはいつでも参上する。違う道を携えてな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ