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十三、霊泉

 それでは次に拙僧が、と、低く渋い声が聞こえ、周囲の隊員はその人物がいることに初めて気づいた。それは、獣面の僧侶だった。恐らく大照律公団高僧のものと思われる、金の刺繍が入った黒衣を纏っている。肉体は白い狐の獣人へと変異しているが、何故か両目は巻かれた布で覆われている。彼を見た途端、四郎が、むぅ、と唸り声を発した。


「拙僧、奈良坂(ならさか)霊泉(りょうせん)と申す坊主にござる。公団の末席にその名を連ねてはおりましたが、恥ずべき罪のためにこうして追放の身よ。いや、まっこと汗顔の至りで、せめて武陽より離れし地で罪を償いたく思いましてな。こうして旅に加わった次第でして。木っ端妖怪なれど、高貴なるお方の露払い、全霊にてやり遂げることをこの刀に誓いましょうぞ」


 そう言って懐より、大竹から託されたらしい短刀を取り出し掲げ、怪しげな忍び笑いを漏らした。


 どうにも胡散臭い御仁だ、と鷹丸を含む全員が思った。大照律公団は異相体制御・破壊を始めとする多業種を手掛ける、〈八海〉最大のコングロマリットである宗教企業だ。その所属者は一様に胡散臭く、立て板に水で友愛だの平和だの、薄っぺらく前向きな演説を口にしがちだ。


 霊泉と名乗った白狐の獣人は、いかにも公団の僧侶然としており、罪を犯したというのも眉唾物だった。両目を塞がれながらも、すべてを見通しているかのように力強く歩んでいて、何らの負い目もなさそうだ。彼の背負った袋からは、始終じゃらじゃらという銭の音が鳴り響いていた。

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